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防災情報の伝達体制の整備について【自治体事例の教科書】

防災情報の伝達体制の整備について【自治体事例の教科書】

近年さまざまな自然災害が発生し、全国各地に甚大な被害をもたらしています。各自治体においては、住民に対する情報通信技術(ICT)を活用した防災情報の伝達体制を早急に整備し、防災および減災に取り組んでいくことが求められています。また、その際には情報伝達手段が1つのみではなく、複数の方法を用いていく必要があります。というのも、東日本大震災が発生した際に、1つの伝達手段のみに頼っていた自治体でそれが使えなくなってしまったところでは、どうすることもできなくなってしまった苦い教訓があります。では、現在どのような情報通信技術を活用した防災情報伝達体制を整備することが可能なのか、以下に解説していきます。

【目次】
■防災情報伝達の2つの手段
■無線局の設置
■衛星携帯電話
■IP電話
■臨時災害放送局(FM)の開設
■地上デジタルテレビ放送の活用
■Lアラートの活用

防災情報伝達の2つの手段

住民への防災情報伝達方法として、同報系と移動系の主に2つの手段があります。同報系というのは、市区町村防災行政無線などを通して避難所や要所に設置された公共スピーカーに電波を飛ばし、情報伝達する方法を言います。防災行政無線をアナログからデジタルに変えることで、下りの情報だけでなく上りの情報伝達も可能となり、双方向のより高度な情報伝達が可能です。

また移動系というのは、無線機器を搭載した車を使ってスピーカーから情報を伝達したり、孤立集落に携帯型の無線機を置いて情報を伝達したりする方法を言います。複数のチャンネルを活用することで、同時に複数の人たちとの通信もでき、情報伝達の効率化が可能となります。

高齢者はこのようなシステムを使いこなせるかという心配もありますが、機能を限定させることによって、簡単でコストのかからないシステムの制度化が可能です。なお、地方公共団体や民間事業者からの要請があれば、災害対策用移動電源車や災害対策用移動通信機器を貸与する制度も整備されています。

無線局の設置

防災情報伝達の中心となる情報伝達手段は無線です。簡易無線局やMCA無線局を設置して、そこを防災情報基地局とし情報を伝達していきます。

簡易無線局というのは、ハンディタイプの無線機や車の搭載するタイプの無線機に電波を飛ばすのがメインで、通信可能な範囲は1km~5km程度の通信システムです(出力5W以下)。簡易無線局の特徴は無線従事者資格が不要であり、無線機器も簡易なものとなることです。

運送や流通サービス、建設現場等ではこの簡易無線局が活用されており、作業員同士の連絡手段に使用されています。デジタル化することで音声通信だけでなく、データ通信も可能で、現在全国で約100万局が利用しています。

これに対してMCA無線局というのは、中継局から半径30km程度までの範囲で通信可能なシステムとなります(出力40W)。MCA無線局の特徴は、複数の周波数(800MHz帯)を共同利用できることや、一斉指令通信が可能となることです。携帯電話と比較してもクリアな通信が可能です。現在利用局数は全国で約16万局となっています。

衛星携帯電話

自然災害が発生した時、大勢の人が一斉に携帯電話を使おうとするためにシステムがダウンしてしまうことが多いです。通常の電話も同様に回線がパンクしたり、断線したりして使えなくなってしまう可能性があります。そうなると安否確認もできず、本当に不安が募ることでしょう。

このような時に便利なのが衛星携帯電話です。その名のとおり、通信衛星を経由して電話を行えるもので、「ワイドスター」「イリジウム」「アイサットフォン」などの衛星携帯電話サービスがあります。

衛星携帯電話が優れている点は、携帯電話では基地局がないために通話ができない山岳地帯や砂漠地帯、海上などでも利用できることです。衛星携帯電話で比較的簡易なものは、「VSAT(小規模衛星通信設備)」で、BS放送で使うような小型パラボラアンテナを使用して、電話やデータ通信を行えます。通信費を含む全体のコストについても、携帯電話と変わらないものもあります。

IP電話

IP電話はインターネット経由で一般の固定電話や携帯電話に電話ができるもので、電話代が安くなることから、近年多くの方が利用しています。インターネット環境が整っていればどこからでも電話は可能で、VSATと組み合わせることで固定電話や携帯電話が使えなくなった場合でも利用できます。

防災対策の1つとして普及を進めていた自治体も少なくなく、そのことにより平時での市内電話無料化が実現され、平時における市民サービス向上にも役立っているようです。

臨時災害放送局(FM)の開設

災害時に不特定多数の人たちに情報を伝達する手段としてラジオも有効な手段です。臨時災害放送局(FM)を開設することで、地震や洪水、豪雪等などの自然災害が発生した時に、住民に対して必要な情報を伝達できます。

口頭による申請により免許取得が可能な「臨機の措置」による免許制度が整えられており、臨時災害放送局の開設がスムーズにできるようになっています。たとえば、東日本大震災が発生した際には、早いところでは震災当日に開設しています。

そして給水や炊き出し、救援物資に関する情報など、必要な救援情報を提供するのに寄与しています。具体的には茨城県の鹿嶋市やつくば市、取手市などが免許を取得し、臨時災害放送局を開設した実績があり、現在は目的を達成したのですべて廃止されています。

地上デジタルテレビ放送の活用

携帯電話や車のナビゲーションシステムには地上デジタル放送を見られるものがありますが、この地デジのホワイトスペースを利用することで緊急災害放送を行えます。ホワイトスペースというのは、ある周波数における地デジエリアで、使用されていない隙間かつ地デジに混信を与えない周波数のことを言い、ワンセグ携帯電話などの地上デジタルテレビ放送受信機があると視聴可能となります。

Lアラートの活用

現在多くの人がもっとも手軽に利用するようになった防災情報伝達手段がLアラートです。とくに意識していなくても、この恩恵を多くの人々が受けています。

Lアラートとは、地震や洪水など緊急事態が発生しそうな場合や、すでに発生した災害の情報などについて、一斉に知らせられるシステムです。多様なメディアを通じて必要な情報を迅速かつ効率的に伝達できるという点で、現在もっとも効果的な伝達手段の1つと言えます。

現在Lアラートの情報発信元としては、市町村・都道府県、中央省庁、ライフライン会社などがあり、災害時の避難勧告や避難指示の他、弾道ミサイルの発射やガスや電気、水道に関する情報などが中央(Lアラート)に集められます。集められた情報は、テレビ事業者・ラジオ事業者・ネット事業者・携帯電話事業者などの情報伝達元を通して、地域住民に送られていきます。

国がLアラートの「普及加速化パッケージ」として強力に推進した結果、現在福岡県(準備中)を除くすべての都道府県において運用されています。これにより迅速に緊急情報を入手できるようになりました。

具体的にはスマートフォンなどに緊急のアラートが鳴ったり、テレビの画面上に緊急災害速報が表示されたり、またインターネットを経由していち早く情報を入手できます。情報発信者と伝達者、そして地域住民がさまざまなメディアを通してつながるという点で画期的であり、いち早く情報を知ることができる安心感があります。ただ誤情報が発信されてしまうケースが時々あり、信用度を下げてしまう結果につながるため、この点は改善が求められます。

〈参照元〉

総務省_災害時に活用できる情報伝達手段
(https://www.soumu.go.jp/main_content/000497711.pdf)

内閣府_内閣府ホームページ
(http://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/h18/bousai2006/html/
honmon/hm02040102.htm
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