地方創生事業の現状とは
地方から大都市への若者の流出も、看過できる問題ではありません。2000年以降から第3人口移動期がはじまっており、地方から三大都市圏への若者の流出と低出生率は人口減少に拍車をかけています。進学・就職のタイミングで東京等の都市圏への転入超過数は拡大している現状にありました。2016年には前年より若干の減少を見せたものの、現状を打開するには地方創生に対する施策の継続と深化が重要です。政府は、そうした地方自治体への支援として地方創生関係交付金を設立し、地方創生事業を推進しています。ではさっそく、地方創生事業の先進事例を見ていきましょう。
事例①「地域創生事業における効果検証」大垣市(岐阜県)
大垣市では、令和元年5月23日に開催した大垣市地域創生総合戦略推進委員会において、平成30年度に実施した地方創生関係交付金事業に係る効果検証を実施しました。同市が継続して実施している地方創生推進交付金事業は、大きく分けて2つあり、大垣市単独事業と広域連携事業に分かれています。まず1つ目の大垣市単独事業については、以下の4事業が継続して実施されています。
①奥の細道むすびの地大垣PR強化事業(平成28年度より継続)
②子育てしやすいまち大垣サポート充実事業(平成28年度より継続)
③クールおおがき推進事業(平成29年度より継続)
④西美濃地域新産業創出事業(平成30年度新規)
まず、①「奥の細道むすびの地大垣PR強化事業」では、「おくのほそ道の風景地ネットワーク」による関係市町との情報共有等の連携を深めながら、「奥の細道むすびの地大垣」の広域PRを展開するとともに、回遊性を持つスタンプラリーを実施しました。
②「子育てしやすいまち大垣サポート充実事業」では、スマートフォンを活用した施策として「子育て支援アプリ(平成28年度導入)」を管理・運営し、利用者が必要とする子育て支援に関する情報を簡単に入手できる環境を整えました。同支援サービスは、子育て支援施策と連携して子育てサポートの充実を図るねらいがあります。これによって子育て世帯の大垣市内への移住・定住の促進を推進し、将来的には人口を維持したうえで、子育て日本一が実現できるまちへの発展を目指しています。
③「クールおおがき推進事業」は、大都市圏・海外からの誘客促進や交流人口の増加からのさらなる地域経済活性化を図るねらいがあります。同事業では民間事業者や市民団体等と連携し、同市の自然・歴史・文化等の産業資源や、漫画・アニメ等の地域資源を活用したプロモーション活動を実施しました。
④「西美濃地域新産業創出事業」では、西美濃地域の農林水産物・鉱工業品などの地域資源を活用した新産業創出を目的とした事業です。同事業では、既存の地域資源の洗い出しや事業所へのヒアリングをもとに、新産業の素材選定を行い、「地域資源集(西美濃のタマゴ)」の作成に成功し、成果を上げました。
続いて、2つ目の広域連携事業については、以下の1事業が実施されています。
①「仮称)大垣市男女共同参画センター」の整備(平成29年度実施(繰越)」
同事業は、大垣市が平成29年度に整備した「大垣市男女共同参画センター(ハートリンクおおがき)」を管理・運営し、子育て支援施策と連携した女性の活躍支援などを行うために、施設を有効活用した施策を推進しているのが特徴です。同施策によって、子育てしやすいまちへつなげることで、女性の自立と男女共同参画の実現を目指しました。上記の施策で大きく成果があったものは、④「西美濃地域新産業創出事業」で、目標値を達成しており、地方創生に非常に効果的であったことを示す結果となりました。
この結果を受けて、同事業は「地域資源集(西美濃のタマゴ)」を活用した事業を継続して自走していくための施策を講じています。募集を通じて、新たな人材の確保を図るとともに、新規参入・事業化を進めていくためのノウハウを紹介するセミナー開催を積極的に行っています。それに加えて、アドバイス・相談等の窓口として大垣ビジネスサポートセンターを開設し、継続的な支援を実施しています。さらに同市では、目標値に達しなかった事業についても、それぞれ事業効果が見られることから、今後も継続してより効果的な事業内容の検討を行いながら実施する方針です。
事例②「訪れたい、住みたいを全力で応援するまちづくり」豊後高田市(大分県)
豊後高田市では、地方創生関係交付金を活用して実施した事業について、外部有識者による「総合戦略会議」にて、効果検証を実施しました。同市は、平成27年10月に策定した「豊後高田市まち・ひと・しごと”全力”創生プラン」の一環として、国の地方創生関係交付金を活用したさまざまな事業を行っています。その中でも、「千年の時を刻む心いやす郷づくり推進事業」は大きく成果を上げており、今後も事業の継続が決まっています。同事業は、訪れたくなる、住みたくなる里づくりを目標として掲げており、豊後高田市独自の豊かな自然や文化を再生および継承し、都市部住民との交流や企業、大学等との連携を行うことで、同市への移住を促進しています。
同事業において、設定されたKPIを最も大きく上回った指標は、田染荘(たしぶのしょう)を中心とした地域の価値を体感する交流人口で、目標値の4,500人に対し、実績値は15,500人を記録し、地方創生に効果を示す結果となりました。この結果に大きく貢献した施策が、イルミネーションを活用した「千年のきらめき」です。同施策は、世界農業遺産に指定されている田染荘を約一万個のLEDライトで照らし、ほたるが舞う幻想的な空間をイメージしたイルミネーションを行うもので、交流人口の増加に大きく貢献しました。
さらに同市は、平成29年度に「荘園ほたる」での食事や加工品等を提供する環境の整備を行いました。また、古代公園の展示環境の整備等により、文化財保存継承による交流人口の増加につなげる取組を実施しました。
豊後高田市が取り組んでいる、訪れたくなる、住みたくなる「心いやす郷づくり」の推進を継続するためには、中長期的な環境づくりが必要であり、同市は引き続き施策の実施を行う方針です。
事例③「まち・ひと・しごと創生総合戦略」那須塩原市(栃木県)
那須塩原市では、平成27年3月に策定した「那須塩原市まち・ひと・しごと創生総合戦略」に基づいた地方創生関係交付金事業を実施しており、外部有識者による効果検証を行いました。平成28年度から30年度にかけての3年間にわたり実施された施策は、新幹線駅を軸とした”移住・定住促進”広域連携プロモーション事業です。「新幹線駅を軸とした移住・定住促進広域連携プロモーション事業」は、栃木県の「南都小山市」と「北都那須塩原市」が連携する横展開型で、ともに新幹線の停車駅がある強みを活かして東京圏へのプロモーションを行い、移住・定住人口の増加に取り組んでいるのが特徴です。
同事業は以下の3つを重視して実施されています。
①伝える
②つなげる
③迎える
まず、栃木県の「南部」と「北部」における暮らしの魅力を都市圏である東京に発信し、関心を持つきっかけをつくります。その次は、情報によって興味を抱いた方を対象に、両市の魅力を実体験できる機会を設けます。そして移住を検討している方に対しては各種支援などを説明しサポートを行うといった流れで事業を行います。
両市の連携によって、以下のメリットが得られます。
①離れた地域の連携によって話題性が生まれる
②2つの異なる暮らし方をアピールできる
③2つの地域の人と資源が交わり新しい魅力が生まれる
④情報の量が増え、伝わる人々の数も増える
これらのメリットを踏まえて、駅サイネージ放映を活用し、連携PR事業で使用した写真の公開を行うことで、より多くの人に対してのプロモーション活動を行っています。那須塩原市の今後の最終的な展望として、移住者への支援だけでなく、地域全体の暮らしを充実させることを目標としています。その実現に向けて、同市は以下の施策を戦略的に実施する予定です。
①ポータルサイトの解説
②移住体験ツアーの実施
③東京圏交流イベントの実施
また、将来的には「南都」・「北都」の市民だけでなく、企業や団体等と連携することで、移住・定住を応援する組織を設立し市民の全面的なサポートを視野に入れながら活動しています。