事例①「農林水産業の振興対策」上ノ国町(北海道)
上ノ国町では、「上ノ国町総合計画」に基づき、地域の特性である農林水産業の振興対策を実施しました。北海道の南西部、渡島半島の南西に位置する上ノ国町は、檜山振興局管内の最南端に存在する町です。同町が農林水産業の振興対策実施に至った背景には、少子高齢化による人口減少、それに伴う産業人口減少が挙げられます。人口のピークは、昭和35年で14,674人を数え、平成29年度末では4,925人(平成29年3月末の住民基本台帳人口)となっており、一万人近く減少しています。
さらに人口構造についても、少子高齢化が大きな課題です。年齢層別の推移では、幼年人口(0~14歳)は過去の国勢調査結果で比較すると20%前後の推移で減少し続け、高齢者人口(65歳以上)は平成27年で39.85%に至り、3人に1人が高齢者となる現状があります。人口動態は、社会増減では転入より転出が多く、自然増減では出生率より死亡率が高い状況に置かれています。上ノ国町の産業については、以下の3つに分類されます。
①第一次産業
②第二次産業
③第三次産業
まず第一次産業は、同町の基幹産業である農業・漁業で構成されています。第二次産業は、建設業を主として、水産資源を利用した製造業から成り立ちます。第三次産業は、小規模な商店とサービス業によって構成されています。平成27年における産業別人口は、以下のとおりです。
①第一次産業 369人
②第二次産業 608人
③第三次産業 1170人
この数値は、前回調査の平成22年の構成比と比較すると第一次産業1.1%の減、第二次産業1.0%の減、第三次産業1.0%の減となり、全体的には1.0%の減少率となっています。こうした現状を受けて、同町では、平成27年から「上ノ国町創生総合戦略」および「上ノ国町人口ビジョン」を策定しました。同施策では、若い世代の結婚・子育て等に関する希望を実現することで、次代を担っていく世代である若者の都心流出を防ぎ、活力ある上ノ国町を今後も維持するための事業展開を行っています。同施策の対象となる事業は、以下のとおりです。
①製造業
②旅館業
③農林水産物等販売業
④情報サービス業等
同町では、平成31年1月1日から平成35年3月31日にかけて産業振興計画を実施し、各産業について、以下の対策を行いました。
①農業
②林業
③水産業
④商工業
⑤観光
⑥雇用・労働対策
⑦クリーンエネルギーの利活用
まず農業については、農業生産基盤の充実を図る必要があります。具体的には、優良農地の確保と有効利用に努めるとともに場整備事業等の充実が挙げられます。さらに、担い手の育成・確保も必要です。対策としては、認定農業者制度の活用や農地の利用集積、農業経営の法人化や集落営農の推進によって、新規就農者の確保に努めます。また、地域特性や消費者ニーズに即した農産物の導入や産地化の促進も重要です。流通体制についても、農産物直売の取組による地産地消を推進するほか、流通コストの削減、有利販売を進めるための契約販売等についても検討する必要があります。合わせて、畜産振興対策も行い、畜産経営の安定化についても取り組んでいます。土づくりや減農薬・減化学肥料栽培などの環境にやさしい農業の充実に努めるほか、家畜ふん尿の適正処理を促進し、堆肥原料としての有効利用を推進しています。
林業については、林業生産基盤の充実を図るため、森林施業の効率化、林道・作業道の適正な管理を行う必要があります。また計画的な森林施業の促進を行う必要もあります。具体的には、森林所有者の意識を高め、森林組合を中心に合理的な森林整備が行える体制を確立しなくてはなりません。さらに森林の総合的利用についても、森林の持つ多面的機能の持続的発揮に向けて、住民および関係者による植樹活動を進める必要があります。
漁業については、漁業基盤の整備を行う必要があります。まずは基盤となる漁場の整備です。漁港施設、海岸保全施設を整備し、魚礁、産卵礁の設置、増養殖場の造成についても整備を行います。水産資源の確保については、「つくり育てる漁業」の確立を目標とした取組を行っています。栽培漁業や養殖漁業の推進に努めることで、水産資源の維持、培養と計画的な漁業生産を図っています。また水産物のブランド化の推進も行っています。同時に、共同出荷施設を活用することで、新鮮で安全な水産物を安定的に供給するための体制づくりを整備しています。担い手の育成・確保対策も重要です。各種事業の推進によって、漁業者の経営安定を図ることで、担い手と人材の育成・確保につなげています。
商工業については、商工業活動および特産品開発、新産業創出等への支援を行っています。事業の安定と拡大に向けて、上ノ国町商工会の体制強化の支援を行うことで、商工業者の経営意欲の高揚や後継者の育成、特産品の製造・販売を促進につなげます。さらに、経営体質や基盤強化を図るため、上ノ国町商工会と連携して指導・相談・情報提供に取り組んでいます。新産業の創出に向けた環境づくりについては、支援制度の周知や、地域商社化を進めている企業を中心に情報交換の場や研修機会を提供しています。
雇用・労働対策の充実については、雇用機会の確保と勤労者福祉の充実を行っているほか、新エネルギー導入の促進についても取り組んでいます。具体的には、ハローワークなど関係機関と連携し、就職相談や職業あっせん等を行っているほか、福利厚生の充実についても、労働条件の改善など事業主に啓発を行っています。
新エネルギーの導入促進については、環境負荷の少ない自然エネルギー活用と検討を進めており、同町の自然環境を活かした風力発電の活用を推進しています。
また、産業振興推進事業における各関係団体の役割分担は、以下のとおりです。
1.北海道(檜山振興局)
当該地区を含めた総合的な産業振興策を推進し、道南連携の政策展開方針を策定しています。そのほかにも、管内各町や渡島総合振興局と連携しながら、北海道新幹線開業などの観光客誘致対策を進めています。また、新たな租税特別措置については、積極的な情報提供に努めるなど活用の促進を図っています。
2.上ノ国町
農業基盤の整備充実を図ると同時に、担い手の育成・確保を担います。低コストでできる農業の実現のため、機械化・省力化を目指し、安全で生産性の高い安定した農業経営を積極的に推進しています。また林や林業生産基盤の整備についても、町有林の保育事業を重点として町有財産造成に取り組み、緑豊かな景観の保全・形成に努めています。漁業基盤の整備充実を図り、漁業振興を担います。安全で新鮮な水産物を安定的に供給できる漁業経営を積極的に推進するとともに、付加価値を高めた産業開発も推進しています。秋サケなどの広域回遊魚については、管内各町と連携して資源増大を図っています。また、以下の取組についても担当しています。
①前浜資源の確保
②養殖漁業の推進
③町融資制度、利子補給
上ノ国町商工会の育成と指導対策も行います。さらに、商店街の活性化と消費者ニーズに対応した経営の確保を行うことで、消費者サービスの向上を推進します。観光産業についても、観光施設の整備充実を図るため以下の取組を行っています。
①観光レクリエーション・体験型観光の推進
②魅力ある特産品の提供促進
③観光イベントの推進
④広域観光ルートの整備促進
そのほかには、設備投資についても推進しています。たとえば、旅館業や製造業等にかかる設備リニューアルなどが該当します。半島振興地域の事業者に対して租税特別措置の活用を促進するなど、積極的な情報提供を行っています。雇用については、企業立地促進条例を活用し、地元での起業および雇用の拡大の促進、担い手育成に係る事業の拡充を担当します。
3.関係団体
関係団体は、以下の3つがそれぞれ役割分担をしています。
・上ノ国町商工会
・上ノ国町観光協会
・上ノ国町観光振興公社
上ノ国町商工会は、地元企業の経営改善指導や、中小企業向け研修による人材育成を担当し、地域資源を活用した特産品野販路拡大の取組等を実施しています。上ノ国町観光協会は、観光振興に向けた各種イベントの開催、協会に加盟している会員のための情報発信力強化を担当しています。たとえば、観光ナビの仕組みづくりや、町内各種団体・個人のネットワークを活かした観光客誘致に向けた取組などが該当します。上ノ国町観光振興公社は、第一次産業従事者の起業支援、交流人口拡大、移住定住の促進を担当しています。具体的には、特産品のお試し販売や販路拡大等のイベント、本町の魅力等情報発信するためのモニターツアー等に取り組んでいます。