地方創生事業実施のためのガイドラインの構成
同ガイドラインは「総論」と「各論」で構成されています。「総論」では、共通的に気を付けたい工夫・留意点を掲載しており、事業のテーマや分野を問わず基本的な要点をまとめた指針となっています。「各論」では、各事業の分野およびテーマごとに分類し、地方創生関係交付金を活用した取組事例を掲載しています。「総論」は、まず目を通しておくべき総合的な指標であるのに対して、「各論」は取組事例を掲載しており、現在検討中事業に対する実践的な指標となっています。
地方創生推進交付金事業のねらい
地方創生推進交付金のねらいは、地方創生の深化・高度化を促すことです。地方創生の目的実現のため、同交付金は「地方版総合戦略」に基づき、地方公共団体の自主的・主体的で先導的な取組を複数年度にわたって、安定的かつ継続的に支援を行います。
6つの先駆性要素
地方創生推進交付金による支援対象事業については、以下の6つの「先駆性要素」を重視して選定すると記されています。
①自立性要素
②官民協働要素
③政策間連携要素
④地域間連携要素
⑤事業推進主体の形成要素
⑥地方創生人材の確保・育成
まず「①自立性」ですが、地方創生推進交付金は、将来的に交付金に頼らずに、事業として自走していくことが可能となることを前提としています。交付金はあくまでも一時的であり、事業の初期段階における円滑な立ち上げ・遂行を後押しする資源(リソース)として活用されることを想定しています。また、「②官民協働」、「③政策間連携」、「④地域間連携」については、従来の「縦割り」事業で顕著だった管轄意識を改善し、複数の事業主体との連携や複数の政策分野にまたがって事業を円滑に行うために、制度設計されています。同時に、利用者から見て意味あるワンストップ型の窓口等の整備を行う事業であることが求められます。さらに、「⑤事業推進主体の形成」、「⑥地方創生人材の確保・育成」も重要な要素です。事業の円滑な遂行にあたっては、事業の立ち上げ段階などの早期段階で方向性が定まっていることが好ましく、交付金事業申請時においてもこれらを重要な要素として位置付けています。地方創生の基盤づくりに必要なこれらの要素は、短期間で設計できるものではありません。そのため、先駆性要素を満たす事業を実現するためには、日頃から地域課題やニーズを的確に把握し、地域住民・関係者と認識を共有したうえで検討を行い、交付金活用事業を進める必要があります。
地方創生推進交付金事業とPDCAサイクルの関係性とは
地方創生推進交付金事業は、PDCAサイクルを通じてKPIに基づいた客観的な効果検証が行われます。地方公共団体が設定したKPIの達成状況は、国においても地方公共団体より報告を受け、検証を行ったうえで、次年度以降の交付金の交付に反映されます。
KPI設定にあたってのポイント
地方創生推進交付金事業においてKPIを設定する際は、以下の点に留意するようガイドラインに記されています。
①「客観的な成果」を表す指標であること
②事業との「直接性」のある効果を表す指標であること
③「妥当な水準」の目標が定められていること
KPIは、交付金を活用した取組によって得られる成果・効果を捉えた「アウトカム指標」と、交付金を活用した取組の活動量を示す「アウトプット指標」の両方が設定されていることが望ましいとされています。また、交付金事業の達成度を適切に評価するために、満足度などの主観的なものでなく、定量化され数値で実測可能なKPIでなくてはなりません。それに加えて、KPIは達成を目指す目標と交付金事業の因果関係を明確にし、交付金を活用した事業の成果だと説明できる指標として設定する必要があります。たとえば、別事業の影響や環境の変化といった交付金事業以外の外的要因に影響を受けない指標を設定する必要があります。
・KPI指標の例
①創業(起業)支援事業における場合
〇事業を通じた起業による新規雇用者数
✖地方公共団体の定住人口
地方公共団体の定住人口のように、事業との因果関係が不明確なものはKPI指標として設定できません。
②観光PR事業
〇事業で実施するキャンペーンの対象施設の入場者数
✖市町村全体の観光入込客数
市町村全体の観光客数には当該キャンペーン以外の観光客数も含まれているため、交付金事業による成果であるか不明確になってしまいます。
ガイドラインによる事業化プロセスの留意点
ガイドラインの「総論」では、事業のPDCAサイクルにおける段階ごとの留意点が記載されています。
①Plan段階「事業の構築」
・事業実施体制の構築
・自立性の確保
・達成すべき目標・水準の設定
まずは事業を開始するにあたって、「既存の組織・ネットワークの活用」「関係者の役割・責任の明確化」を行い、事業実施体制を構築します。事業に必要な機能を整理し、各機能が果たせる人材を集め、組織や実施体制を整える必要があります。実施体制を構築する際は、はじめに地域企業や団体等の既存組織のネットワークを活用することを心掛けます。それでも不足する場合に、自前での育成、外部人材等の獲得、機能のアウトソース等を検討します。同時に、関係者の役割を整理し、それぞれの責任を明確化して機動的な事業実施が行えるマネジメント体制を整えておくことも必要です。これによって大がかりな体制構築の負担をなくすと同時に、事業に生じる課題や改善への迅速かつ機動的な対応が可能です。
続いて、自立性を確保するにあたって、「自走を意識した計画」と「経営の視点からの検証」を行うことが重要です。交付金事業を一過性のもので終わらせず、自立性をもたせるためには、十分な収益性を確保する必要があります。そのために大切なのが、資金調達の方法や事業採算性などの、事業が継続性をもって自走できるプロセスを明確化することです。そして、達成すべき目標・水準の設定を行う際には、「詳細な工程計画の策定」「効果・進捗を確認できるKPIの設定」に留意しながら進めます。
目標達成を実現するためには、目標水準とその達成までのプロセス、スケジュールを定めなくてはなりません。たとえば、6次産業化商品を開発する事業では、商品の生産、供給の計画や需要の確保等のスケジュールをなるべく詳細に固めることで、着実に目標に到達するための計画がより現実的なものとなります。
これに加えて、計画段階で適切なKPIを設定することも重要です。適切なKPIの設定は、事業効果や事業進捗を測定できるようになります。KPIを設定する際の注意点は、妥当な水準の目標値を設定することです。到達を予見できる低い水準のKPIを設定してしまうと、形骸化してしまう恐れがあります。目的はあくまでも客観的な成果を測るためであることを念頭に置いたうえで、目指す水準の根拠が説明できるKPIを設定することが大切です。
②Do段階「事業の実施・継続」
・事業の実施
・事業の継続
実施体制の構築を行ったら、いよいよ事業の実施と継続を行うDo段階に入ります。事業を実施するにあたっては、「こまめな進捗と質の管理」を行うことと、「事業実施主体間の緊密なコミュニケーション」を図ることが必要不可欠です。実施後も定期的にKPIを計測し、事業の現状把握に努め、事業の全体像を客観的に捉える必要があります。事業の継続には、「安定した人材の確保」を行い、事業開始段階だけでなく、継続的に続けることが重要です。成果を生む事業を継続するためには、安定した人材の確保・育成を計画的に行う必要があります。とくに人材育成に関しては短期間では難しく、事業の実施と並行して継続的に取り組み、事業の担い手を育てる必要があります。
さらに、事業を継続していくためには、地域の理解を得る必要があります。積極的に地域とのコミュニケーションを図り、地域住民・事業者や利害関係者に対し「地域の理解醸成を促す情報提供」を行うことで事業への理解を深めます。この取組によって地域の理解醸成が進み、「地域主体のさらなる参加促進」によって、事業に触れられる、参加できる機会を設けることで利用者や支援者の増加が見込めます。これらの取組を継続的に行うことで、地域全体の参加を推進でき、地域主体の事業としてさらなる発展につながります。
③Check・Action段階「事業の評価・改善」
・事業の評価体制・方法(KPIによる事業評価)
・改善への取組(評価に基づく事業改善)
続いて、交付金事業を進める際には、事業の改善に向けて客観的な評価を実施することが重要です。具体的な評価方法はKPIの達成状況を確認します。交付金事業では、外部組織や議会等による効果検証が必要不可欠です。定期的に検証組織や議会等の外部有識者によって検証し、多角的な評価を行うことで問題を洗い出します。またKPIが未達成である場合には、その要因を分析し、事業を進める中で生じている課題を具体的に把握しておくことが肝要です。これらの評価結果をもとに課題を把握したら、「事業改善・見直し方針の明確化」と「事業実績の報告・次年度事業計画への反映」に進みます。
事業改善を行うためには、明らかになった課題への対応策を決定し、実行に移す必要があります。また留意しなければならないのは、交付金事業の改善方針は次年度以降の事業計画に反映するとともに、事業実績(見込み)と合わせ、国に報告する必要があるという点です。万が一、実績や見込みを踏まえた事業計画の改善が不十分な場合は、交付金事業が予定通り認められない可能性があります。そのため、交付金事業を継続的に行うためには、事業計画に対する具体的施策の修正と追加を検討する必要があります。