【小中一貫教育の実現】静岡県静岡市
静岡市では、静岡型の小中一貫教育の実現に向けて研究を進めています。国語の分野では、少人数学校である美和小学校の5年生(9名)が作った俳句に対して、小中一貫教育グループ校である安倍口小の5年生(40名)と、美和中学校の3年1組の26名がICTを使ってアドバイスを送るという学習を実現しました。
美和小学校は普段、少人数のため、授業内で自分が作った作品に対して十分な感想やアドバイスを得ることが難しい環境にあります。今回の取り組みは9名の俳句に対して、計66名の生徒がアドバイスをすることになり、参加した学校の生徒それぞれに良い刺激になったという効果が見られました。少人数学校の生徒が普段経験することが困難である、多くの人たちの見方や考え方に触れる機会を設けられたのは、もっとも大きな収穫と言えます。
また、インターネットを使って交流する際の配慮を勉強する機会提供にもなりました。意見を送り合う際、相手に対して、伝わりやすい説明や表現にすること、相手の気持ちを考えてやりとりすることの大切さを生徒たちが考えるきっかけとなり、学習にも積極的に取り組む様子が見られました。
【中山間地域高校の遠隔教育】高知県
高知県では、過疎化が著しく生徒数が少ない中山間地域の高校において、高等学校教育の質を維持するために遠隔教育を導入しています。生徒数が少ないと、開設できる選択科目の数に制限がかかり、生徒の進路希望に添った選択科目の設置が難しくなること、多人数との交流の機会が少ないことなど課題がありました。また、遠隔教育のノウハウの蓄積することで、早期の学校再開の可能性を探り、南海トラフ地震による震災被害後のリスクを少なくすることが期待されています。
そこで、中山間地域の6高校において合同授業の形式で、ICTを活用し遠隔授業を行いました。良い点として挙げられた意見としては「対面による授業のように問題なく受けられた」「相手校の人がいるから自分も頑張ろうという気になれる」「集中力が高まるレベルの高い授業を受けられた。わからないところを友達と教え合ったりしてコミュニケーションをとることができた」などがありました。一方、悪い点として挙げられたことは、「タイムラグが発生すること」「目が疲れるしディスプレイに書き込む文字が見にくい」「相手の画面に自分たちが映り込まないようにしてほしい」などがありました。
また、配信側の学校では目の前に教員がいて授業を行っているのに、その注意が自分たちだけに向けられていないことにいらだちを感じていたという意見もありました。受信側のサポート教員については、機器のサポート、授業についていけなくなった生徒のフォロー、機器に不具合が生じた際の代講など、その役割が非常に重要であることがわかっています。今後、遠隔授業が対面による授業と同等の効果を上げるために、講義形式の授業からアクティブ・ラーニング型授業を目指すとしています。
【農業系高校における遠隔教育】大分県
農業の専門家による授業は特別授業という形で全国的に取り入れられていますが、大分の農業系高校では遠隔システムを活用して、大学の講師も含む農業の専門家による質の高い「遠隔合同授業」を行っています。学校規模が縮小する中で合同で授業を行うことにより、他校と交流しながら授業を進められ、少人数で遠隔教育を実施することで生じる弊害をなくせます。
合同授業では、授業はじめの号令や挨拶を一緒に行い、タイミングを合わせることで合同授業らしくする、また、生徒座席表を共有し配信する講師が確認できるようにして、どちらの学校の生徒にも質問するという工夫をしています。Wi-Fiルータの使い方では、契約しているデータ通信容量を上回ったことにより通信速度が遅くなり、画質の乱れが見られたという問題もありました。また、ICT支援員を配置して、授業を行う講師への技術指導やトラブル対応を行いました。
遠隔合同授業の留意点として、2校の授業時間にズレがあり支障があったこと、相手にわかりやすくするために、講師・生徒ともに大きな声やジェスチャーをする必要があったことなどが挙げられています。
一方メリットとして、大型ディスプレイを使って講師を画面に表示することで、臨場感が生まれ、緊張感のある授業になるというものがありました。講師側のメリットもあり、「サポート講師として合同授業に参加することで、さまざまな講師の授業を生徒と一緒に受けながら学ぶことが多い」と指導力向上につながったようです。
講師へのアンケートでは「今後実習や実験を見せながらの授業をしたい」という声や、「農業自営者の現場から実際の生の声を聞ける学習がしたい」と遠隔授業に前向きな意見が寄せられました。
【部活動での遠隔教育】神奈川県横浜市
横浜市では、競技経験の無い部活動の顧問を担当することへの不安や負担を感じている教職員への支援として、ICTを活用した部活動の遠隔技術指導を試行実施しています。教職員の精神的な負担を軽減することに加え、生徒がより専門性の高い技術指導を受けることができます。
これは産学官協働による取り組みで、ソフトバンク株式会社がタブレットの貸与、システムを提供し、桐蔭横浜大学が学校向け遠隔地支援システムを構築しています。このシステムは、部活動の種類に応じて、段階的に技能を習得するためのステップを組み立てて作られています。ケガをしにくく、効率的・効果的に部活動に取り組めるよう考慮されたものです。
中学校では、部活動で生徒が活動している様子を動画で撮影し、遠隔指導システムにアップロードします。アップロードされた動画は大学が内容を確認し、指導コメントや動画編集をしてシステムへアップロードします。大学側が編集した動画を再び中学校で生徒たちが確認することで、スキルアップや目標達成を目指すものです。
生徒は、動画を通して自分の動作を客観的に把握できるため、意欲的に部活動に取り組めます。また、自ら課題を解決する力、思考力・判断力・表現力を高めることが期待されています。
【離島での遠隔教育】長崎県
長崎県では、生徒の学力向上を図ったり、離島教育などの地理的な負担を解消したりする目的で、教育のICT化を推進しています。小中学校・県立学校において、ICT教育推進事業として電子黒板、タブレットPC、デジタル教科書などを整備しました。
また、5校の県立学校と、12校の小中学校をICT教育推進モデル校として指定し、効果的な学習形態等の実践研究を実施しています。さらに、遠隔授業システムを活用することで離島における指導が充実するよう、県内18箇所に双方向通信による遠隔授業を実施できるためのシステムを配置しました。