新学習指導要領で求められる、学習環境におけるICTの活用
新学習指導要領では、情報活用能力が「学習の基盤となる資質・能力」と位置付けられ、「各学校において、コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用するために必要な環境を整え、これらを適切に活用した学習活動の充実を図る」とされています。今後、学習で積極的に大型提示装置(電子黒板)、タブレット端末といったICTを活用することが想定されますが、その際、タブレット端末を使うために必須となるのが無線LANです。
現在、学校のLAN環境は、パソコン教室への有線LAN整備は進んでいても無線LAN整備はまったく手付かずの学校、すでにすべての教室に無線LANが整備済みの学校があるなど、学校・自治体によって大きく差があるのが現状です。文部科学省の調査によれば、普通教室の無線LAN整備率は平成29年度時点で34.5%、令和平成31年3月1日時点では40.7%です。
教育に求められているICT環境の整備
国が取り決めた平成30年度以降の学校におけるICT環境の整備方針では、今後、無線LANについて、普通教室と特別教室に100%整備することとしています。
この目的のひとつとして、アクティブ・ラーニングの推進があります。アクティブ・ラーニングとは、従来の教員が一方的に講義形式で行う形式ではなく、児童・生徒・学生など学習する人が能動的に学ぶことを促す参加型の学習法です。学習形式には、発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習などの形式があり、教室内でのグループディスカッションやグループワーク、体験型のフィールド活動なども取り入れます。こうした参加型の学習法は、社会環境が流動化しても、生涯にわたって知識や技能の高度化に対応し、実践的で専門性の高い知識や技能を身につけることができるような教育を目的にしています。
この実現のためには、個の学習ニーズや一人一人の個性に応じた資質・能力を育成するような学びを実現していくことが重要となります。また、自分以外の他者との協働、外界との相互作用を通じて、自らの考えを広げ深める、対話的な学びの過程を実現することも欠かせません。タブレット端末などのICTを活用は、能動的な学習を促すものと期待されており、デジタル教科書やデジタルワークシートとしての利用が期待されています。
デジタル機器を使用するために欠かせない環境が無線LANです。文部科学省はICT整備方針を踏まえ「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画(2018~2022年度)」を策定しました。本計画では、学習者用コンピュータを3クラスに1クラス分程度整備すること(1日1コマ分程度、児童生徒が1人1台環境で学習できる環境の実現)、指導者用コンピュータは授業を担任する教師1人に1台とされています。
ほかにも、大型提示装置・実物投影機を普通教室に100%整備することや、超高速インターネットおよび無線LANの100%整備を掲げています。これらの整備を行うと経費が膨らみますが、必要な経費については、2018~2022年度まで単年度1,805億円の地方財政措置を講じこととしています。
無線LAN整備において考慮すべきこと
無線LAN整備には考慮すべきポイントが3つあります。
1つ目にアクセス負荷が挙げられます。今後、機器整備により1学校あたりの接続端末台数が最大で数百台を超えることが想定され、回線負荷が増加することが見込まれます。また、学校での使用においては、教室で複数の児童・生徒全員が同時にネットワークに接続し、一斉にアクセスする場面もあるため、同時接続の増加によるネットワークの負荷は大きくなります。こうした理由から一般家庭用機器を校内の無線LANには使えません。
また、校務系ネットワークと教育系ネットワークが同じ回線を使用している場合、校務用機器と教育用機器を同時に使用すると通信遅延が発生する可能性があります。無線LANの設定は、電波状況の調査や負荷の分散方法の検討など、高い技術が求められるため、業者選定においてもポイントとして考えるべきでしょう。
ネットワーク回線の負荷増大とデータセンター・インターネット間の回線負荷増加への対策としては、自治体専用回線の設置によりインターネット接続の安定化を目指すといった方法があります。ネットワークの通信遅延に関しては、教育系ネットワークと校務系ネットワークの分離といった方法で、通信の遅延解消が見込まれます。セキュリティ面からも教育系と校務系のネットワーク分離は必要なこととされています。
2つ目に費用についての考慮が挙げられます。ICT活用ではネットワークは極めて重要な要素であり、ネットワーク環境の整備には、コンピュータ端末の整備よりも費用がかかることもあります。可搬式無線LANアクセスポイントは、比較的手軽な反面、利用する教室に持ち込んで限られた時間にセッティングする手間があり、授業時間に影響が出てしまうという運用面の課題があります。そのため、無線LANアクセスポイントは常設設置が好ましいとされています。しかし、多額の予算が必要とされるので、国の環境整備支援事業等の施策も念頭に置き、無線LANの整備を進めることとされています。
3つ目に情報セキュリティポリシーが挙げられます。ネットワークの整備や校務情報の扱いについては、自治体が定める情報セキュリティポリシーに準拠する必要があります。仕様策定をする際には自治体の情報政策担当部署と連携し、学校での利用方法について共通認識を持つ必要があります。その上で、教育活動に支障がないような無線LANを構築することが求められます。
導入したシステムを学校現場で長期にわたり継続的に活用するには、サポート体制の整備も不可欠で、機器導入については企業と保守契約を結び保全をすることが求められます。無線LANは、導入時から電波状況が変わることもあるため、導入後のメンテナンスや保守体制の確保、管理責任体制、特にICT支援員と企業の間の役割分担も明確にしておく必要があります。
また、不正アクセス、情報漏えい等、万一の事態が発生した際の対処方法を決めておくことも重要です。さまざまなリスクに対する備えを事前に行っておき、万一の事態が発生した場合には、速やかに適切な対応を取ることが求められます。日頃のセキュリティ対策としては、データ持ち出しに関する規定を作ることや、機密情報の取り扱いルールの徹底、サーバへ格納するフォルダを決めてアクセス制限を設定するなど、データ管理方法を適切に行うことが挙げられます。
そのほか、ファイル共有ソフトなどのインストール制限や、私物機器からのLAN接続や機密情報の記録を制限することも挙げられます。情報セキュリティ対策は、社会全体のインターネットやデジタルツールへの依存度が高まるにしたがって、ますます重要になります。それぞれの学校や自治体で適切なルールを決め、ICT環境を整備していかなければなりません。