学校現場でのタブレット活用について
自治体で公立の小中学校や高校へ、教育現場へのタブレット導入を推進するケースや、モデル事業などを行って学習への効果、地域や教育現場で抱えるさまざまな課題の解決や目的を達成できるかを実証実験しているケースが増えています。どのような活用の仕方ができるのか、代表的な活用事例をご紹介します。
・授業での活用
今の時代の子どもたちは、幼少期より親からタブレットを渡されたり、スマホに触れたりする機会が多いことから、タブレットを使いこなすのはお手のものです。初めて利用する児童や生徒であっても、視覚的かつ手元の操作で気軽に利用できるので、パソコンよりも使いこなすスピードや操作性が高いのもメリットです。
授業で外部の教育サービス業者が提供するコンテンツを利用したり、教員が作成した教材を用いたりして、絵や画像、動画などを用いた授業や、ネット接続をして情報を検索する調べ学習、クラスメイトとの話し合いや別の学校とネットワークで結んでの交流学習、ネイティブ講師とのオンライン英会話授業などに活用されています。児童や生徒からは、画像などを1人ずつ画面で見られるので、わかりやすくて楽しいと評判も高く、学習意欲の向上や理解の促進といった効果が期待できます。
・持ち帰り学習への活用
タブレットを導入している学校の多くが活用しているのが、持ち帰り学習です。宿題や家庭学習を各自がタブレットを持ち帰って行うもので、調べ学習をはじめ、コンテンツを利用した国語や計算、理科や社会などの問題まで幅広くドリル学習などに利用されています。
プログラミング教育に必要なデスクトップパソコンは持ち帰りには適さず、ノートパソコンであっても、小さな児童には重たくて持ち帰りには適しません。タブレットは比較的軽量で持ち帰りやすく、1人1台を用意するコストも比較的低コストです。
・塾に行けない貧困世帯にも平等な学習環境を
持ち帰り学習ができることは、貧困世帯における学習環境の改善にも役立ちます。公立学校においては、収入が少ない家庭やひとり親家庭、子どもが多い家庭など、塾に行かせたくても費用面で行かせられないケースも多いです。また、共働き世帯では塾への送り迎えができずに、近隣に塾がない地域では通わせることが難しいケースもあるでしょう。送り迎えができ、費用もある教育熱心な家庭と、そうでない家庭の子どもで教育環境での格差も問題になっています。
学校が貸与するタブレットを持ち帰って、受験対策の学習コンテンツなどを利用できれば、家庭教育における格差の解消が期待できます。
・不登校の子どもへの学習支援
全国的に増え続けている不登校の児童や生徒への学習支援にも、タブレット端末は有効です。不登校の子どもの多くが学校に行くことは嫌でも、勉強はしたいと思っているケースが多く、勉強が遅れることに不安を持っています。勉強が苦手で不登校になったケースでも、タブレットを使った学習はゲーム感覚で楽しめるので、自宅における学習支援につながりやすいです。
・部活動での活用
生徒たちの積極的な発案で、部活動にタブレットを活用しているケースもあります。練習の様子を動画で撮影してフォームを確認したり、教員などが撮影した試合の動画を見直して反省をしたり、対戦相手のチェックをして戦略を練るなどの事例が挙げられます。
ICT支援員の導入や配置の必要性
学校教育におけるタブレットの活用は、児童や生徒にはなじみやすく、アイデア次第で幅広い活用が期待できます。むしろ課題となるのはデジタルに慣れていない指導する側の教員のほうかもしれません。幼少期から家庭でデジタル機器に触れてきた子どもたちと異なり、ベテランの教員などを中心にデジタル機器には疎い人も多いでしょう。相応に使いこなせる人でも、学校専用の設定をしたり、授業中に子どもたちが使う端末の動作がおかしくなるなど、トラブルが発生した際にすぐに解決できたりする人はそう多くありません。
そこで、授業における操作や設定の支援をしてくれるICT支援員を導入することが望まれます。自治体が必要に応じて派遣しているケースもありますが、授業での活用が増えるほど、学校ごとに常勤させるケースも増えてきました。操作や設定のサポートだけでなく、教員の要望や指示に基づき、教材の作成の支援やコンテンツの提案などもできるITの専門知識を持った人材配置の検討が求められています。
購入か貸与か
タブレットを教育現場で活用する場合、どのように整備するかがひとつの検討課題となります。それぞれのメリット、デメリットを踏まえ、自治体の予算や各学校の実情などに応じて検討しなくてはなりません。
まず、1人1台を公費で整備するケースでは、子どもたちが必要な時に必要なだけ利用できるメリットがあるものの、公費負担が高額にのぼります。複数人で1台利用とする場合には整備費用は抑えられますが、各自が好きな時に利用できない制約があります。いずれにしても、自治体における予算確保が必要です。
私費で学校指定端末を購入してもらう場合は自治体や学校の費用負担はなく、全端末を自治体や学校が一括管理できるメリットがある反面、どの端末を使うか、事業者や端末の選定が求められます。家庭の負担が増えて保護者の理解を得ることが難しく、自費で購入しながらも利用制限がある点で不満が出やすいです。
各自が私費で購入した個人所有の端末を利用する場合は、自治体や学校の費用負担はなく、すでに購入している端末を使えば、家庭での新たな費用は発生しません。児童や生徒が普段から使い慣れたタブレットを利用できる利点があるものの、端末によって利用できない機能があるなど差が生じてしまい、授業や持ち帰り学習がスムーズにいかない懸念があります。
すでに導入している学校のケースでは、1年目は貸与し、学習効果などがあることがわかり、保護者も理解を示した段階で2年目以降は購入してもらうという事例があります。保護者としては実際に書いたり計算したりしたほうが、学習能力が養われるのではとの不安を持っているケースが多いです。そのため、学校では調べ学習、撮影や録画などカメラを使った学習にとどまらず、伝えたり表現したりする学習にもつながることを授業参観などの機会を通じて伝えることも必要です。
どのようなモデルを使うべきか
携帯電話の通信網を利用するセルラーモデルのタブレットを導入している学校が目立ちます。携帯電話の電波が利用できるので、場所にとらわれず利用が可能です。また、学校側で通信環境を用意する必要がなく、通信品質は携帯電話会社が保証してくれるので、通信環境のアウトソーシング化ができます。もっとも、毎月かかる通信費を携帯電話会社と交渉することで低コスト化を図る必要があります。
Wi-Fiモデルの場合、Wi-Fi環境を整えなくてはなりません。地域のイントラネットを使えれば、低コストかつセキュリティに優れた環境を整備しやすく、通信の暗号化や情報漏えい対策などのセキュリティ対策が自治体などを通じて管理されているので、安心して使えるのがメリットです。
Wi-Fi+セルラーモデルなら、環境や場所にとらわれず利用でき、学校内ではWi-Fi、Wi-Fiのない家庭など学校外ではセルラーといった使いこなしも可能です。Wi-Fiなら災害時でも効果的に情報の送受信ができるため、学校にWi-Fiを整備しておくと、学校が避難場所になった時にも役立てられます。
セキュリティ対策の整備
タブレットを導入する上では、各種のリスクを洗い出して、あらかじめセキュリティ対策を整えなくてはなりません。物理的な紛失や盗難への対策として、施錠管理やセキュリティ会社の利用、貸出ルールの設定、盗まれた場合に備え、ログイン認証機能などのロック機能を活用することが挙げられます。
ウイルス感染対策、不正接続や不正侵入への対策も必要です。また、児童や生徒が望ましくないサイトにアクセスしないようフィルタリング対策、深夜などの利用や過度な利用を防ぐため決められた時間以外は使わないよう、ルール化と家庭での監視対応なども整備が必要です。