北海道赤平市の実施事例
北海道赤平市では少子化や地域の人口減少を背景に、赤平市立小・中学校適正配置計画を立て、統廃合を重ねながら適切な学校規模の維持に努めてきました。その結果、平成30年度に新生赤平中学校が誕生し、市内の中学校はこの1校のみとなっています。
統廃合というとマイナスのイメージがありますが、平成29・30年改訂の新学習指導要領で目指されるべき未来を切り開く子どもたちの育成のためにも、適切な学校規模を図ることは必要な要素となります。限りある教員を適正配置することで、教科ごとに分かれた専門的で適正な指導ができるとともに、生徒数が増えることで子どもたちの闊達な議論の場や、多様な個性を互いに尊重し合いながらの充実の社会生活が実践できるからです。
令和3年度から中学校で新学習指導要領が全面実施されることになりますが、対象校が1校であることは、新学習指導要領が目指すべき子どもたちの姿や、改善すべき指導方針を実践しやすい環境が実現でき、むしろ有利な体制が整ったといえます。
北海道赤平市では平成29年3月に告示された中学校の新学習指導要領の理念である「生きる力~学びの、その先へ」の実現のため、新しい時代にふさわしい学びの姿と教育環境の改善を目指して取り組みを開始しました。学校における教員の働き方改革としてコミュニティ・スクールの導入を進める一方で、安心・安全な学びを支える多様な教育支援を図り、子どもの未来を拓いて地域に根差した信頼される学校教育を推進しています。
グローバルな情報化社会を生き抜く力をつけるためには、基礎となる学力向上が不可欠です。そのため、北海道赤平市では個別学習やグループ別学習、繰り返し学習、学習内容の習熟の程度に応じた学習といった生徒の実情に応じた指導や、校内研修の成果を生かした授業改善を推進しています。
学力向上には規則正しい生活習慣がベースとなることを踏まえ、乱れやすい中学生の生活習慣を整えられるよう、家庭学習の手引を作成して配布したり、家庭学習の習慣化や生活リズムチェックシートの利用を促進したりし、生活習慣の改善に向けた働きかけを行っています。退職教員などの外部人材活用事業を利用したり、ICTの活用促進、学生ボランティア事業をはじめ、子ども塾や公設学習塾、漢字検定、英語検定に対する費用補助の施策を実施したりして、多様な角度から学力向上を支援しているのも特徴です。
平成29・30年改訂でも注目されているのが、道徳が特別の教科として位置づけられ、指導すべき目標や内容が見直された点です。中学校におけるいじめ問題の増加なども踏まえ、北海道赤平市では生命を尊重する心や他者を思いやる心を育てることに軸をおきながら、自立心や自律性を持ち、よりよく生きるための力を育む道徳教育の充実に取り組んでいます。
中学生においては睡眠不足や朝食の欠食といった生活習慣の乱れが起こりやすくなっています。生活の乱れは学習時間の集中力や記憶力の低下をはじめ、脳や体の発達にも悪影響を及ぼすと警鐘が鳴らされています。北海道赤平市では健康教育にも熱心に取り組んでおり、「早寝・早起き・朝ごはん」運動を継続的に推進してきました。
また、パソコン・スマートフォンなどの普及による視力の低下を防ぐため、北海道が推進する「ノーゲームデー」を実践するほか、ネット利用に関する家庭でのルール作りを推進し、学校と家庭での連携を積極的には買っています。
子どもたちの肥満傾向や虫歯の増加が問題視されている点については、中学校第3学年までフッ化物洗口の完全実施を図っています。
神奈川県の実施事例
神奈川県では学校教育法施行規則と学習指導要領の平成29・30年改訂により、「特別の教科道徳」が教育課程に位置づけられることに注目しています。道徳教育が重要視される背景には、中学校などで増えているいじめや痛ましい事件が挙げられます。
神奈川県立総合教育センターでは道徳教育の充実を図るため、平成27年度から2年間にわたって道徳教育の充実に関する研究を行ってきました。そこでは、平成29・30年改訂で新たに登場した「特別の教科道徳」の授業を充実させるべく、授業の方策の研究に重点が置かれました。
研究において整理した方策をもとに実証的な授業を行い、分析・検証した結果を踏まえ、中学校教員の参考となる、中学校第1学年の実践事例を掲載した道徳科の授業作り実践事例集が作成されました。「特別の教科道徳」の授業づくりや授業改善を行う際の、教員のバイブルともなる位置づけで、生徒に提示すべきストーリーの例や課題、授業の進め方、議論のさせ方、板書の内容、評価の仕方まで細かく提案がなされています。
その中でも、「考え、議論する道徳」の授業に主眼が置かれています。生徒に自分ならどのように行動・実践するかを考えさせてから、自分とは異なる意見と向き合えるよう、議論をさせることが基本です。また、ノート指導を充実させることで、生徒が毎時間積み重ねたノートの記述を振り返れるようになり、自分自身を客観的に把握できるようになるとして、ノート指導も提唱されています。
島根県の実施事例
平成29・30年改訂においては、中学校で学ぶべきことや、卒業までに目標とする姿にとどまらず、習得した知識・技能を自在に活用して問題解決ができる力を身につけ、よりよい人生を送れるという生涯にわたっての能力の育成が示されました。学校教育においては、子どもにトータルで育成すべき資質・能力を明確化することが求められ、そのためのカリキュラムを編成して授業を改善していくことが求められます。
そこで、島根県教育委員会は各学校および教職員に理解を深めてほしい点を、Q&A形式でわかりやすくまとめることにしました。中でも、共通認識を図りたいポイントとして、島根の子どもたちに身につけてもらいたい力を示しています。その力とは、変化の激しい社会の中で生き抜いていく力、つまり、論理的思考力、コミュニケーション力や感性・情緒などをフル活用して、主体的に課題を見つけ、さまざまな他者と協働しながら、定まった答えのない課題に粘り強く向かっていく力だと定められました。
教職員による指導においては、各教科の固有の知識や技能を量的に多く習得させるのではなく、急激に変化する社会への対応を図るために生き抜く力を育む教育活動が重要となってきます。改訂に至った時代の変化という背景や趣旨を正しく理解するためにも、独自に学習指導要領の総則を読む手引を作成した島根県の取り組みは注目に値します。
中学校教育課程の編成・実施の手引は学校からの疑問に答えるQ&A形式となっており、気になる事項をどこからでも気軽に読める仕様になっているのも便利です。忙しい業務の中で、教員が短時間で読んで理解ができるよう、各内容は1ページに収まるようまとめられています。キーワードとなる言葉は太字で強調され、重要なポイントもわかりやすくなっています。学習指導要領解説総則編を照らし併せて、より理解を深めることができるよう、全体の構成は解説編の内容の順にそろえたうえで、該当ページを右側上方に小・中学校別に学習指導要領解説総則編のページ数が表示されています。