福岡県の実施事例
福岡県では学習指導要領の平成29・30年改訂とともに、高大接続改革など、高等学校教育においては大きなターニングポイントとなる改革が同時進行で進められている点を重要な検討課題と捉えています。新学習指導要領では予測困難な時代に一人ひとりが未来の創り手へと成長するための資質や能力を明確化し、各高等学校においてカリキュラム・マネジメントを実施し、主体的で対話的で深い学びを提供すべくアクティブ・ラーニングの視点に基づく授業改善の推進が求められています。
福岡県では全校でのアクティブ・ラーニングの導入に先立ち、アクティブ・ラーニングの視点に基づく授業改善の進め方について、研究開発校を指定して1年間にわたって取り組みを検証してきました。その実践内容を「新たな学びプロジェクト」平成29年度報告書にとりまとめ、各高等学校において、主体的で対話的で深い学びの実現に向けた授業改善や教育活動に活かせるよう、配布、公表を行いました。新たな学びに関する教員の資質能力向上のためのプロジェクトとして、福岡県立北筑高等学校を研究開発校に指定し、1年間にわたりアクティブ・ラーニングの視点に基づく授業改善に取り組んでもらい、その検証を行っています。
北筑高等学校では、未来の創り手としてこれからの時代に不可欠となる問題解決力を育成するために、生徒たちが積極的に学習に取り組むモチベーションを高めることが必要であると位置づけました。学習は志望大学に合格するためや、受験するからという理由でやらなければならないものではなく、自分が取り組んでいることに価値があるから行う自己決定的な動機が重要です。
北筑高等学校では、問題解決者としての資質や能力を育成するために、論理的に説明することを大切にした授業に継続的に取り組み、自ら積極的に学ぼうとするモチベーションも高める環境づくりを実践しました。たとえば、従来のように教科書に掲載されている流れや、教員がこうやるようにと板書をしたり、プリントを配って定型的な方法で実験をさせたりするのではなく、生徒たちに実験の方法を自分たちで考えさせ、そこから得られた結果の妥当性や信頼性、一般化の可能性を話し合わせるといった、これまでにない授業スタイルへのチャレンジも行われています。
教員が一方的に説明をする従来型の授業スタイルは生徒たちが受け身となり、深い理解がなされない、理解できなくてもその場で解決できないケースが少なくありません。これに対して、自分たちで能動的に方法を提案し合って編み出し、実際にやってみて評価し、その結果を他のグループに説明するというプロセスを取ることで、理解が深まるのはもちろん、記憶にも強く残ることになります。他者に説明するアウトプットを通じて、自分の理解についての理解、すなわち、メタ認知による自己調整学習が促進されるのです。
北筑高等学校で1年にわたって授業改善を行っていくことで、教員側も従来の教科書から得た知識の伝達者から、学びのファシリテーターへと変化が見られました。指導者として、いかに知識をわかりやすく伝えるか、大量にインプットさせるかを考えるのではなく、学習をする生徒の目線に立って授業を計画して実践し、生徒の反応を見て振り返っていくPDCAサイクルもスムーズに行われるようになっています。これからの時代に求められる自己調整学習やアクティブ・ラーニングは、1時間の授業時間ごとに限定される方法ではありません。
平成29・30年改訂による新学習指導要領で求められる新たな学びを各高等学校で展開していくためには、学校としての方向性を明確にするトップダウンと、授業を担当する個々の教員の提案による新たな授業スタイルの実践というボトムアップのバランスが大切です。教員の多様な実践の成果を共通の枠組みで振り返る目的で「北筑高校版ルーブリック」が作成されるなど、教員のモチベーションも高まり、バランスのよい授業改善の実証成果が出ました。
東京都の実施事例
東京都教育委員会では平成29・30年改訂による高等学校学習指導要領改訂のタイミングで、平成16・17年に発行した「性教育の手引」を改訂し、都内の全公立学校に配布しました。なぜ、このタイミングかといえば、学習指導要領に示された内容をすべての生徒に確実に指導する必要があること、現代的な課題を踏まえて保護者の理解を得た必要な指導を行う必要があると判断したためです。
新たな課題となっている性同一性障害等に関する正しい理解をはじめ、近年、若者の間で広まっている性感染症への対応、インターネット等をはじめとする性情報の氾濫など、性をめぐる現代的な課題に対応する必要が生じています。時代の変化や性をめぐるトラブルが発生した際、ニーズに応じて学習指導要領に示されていない内容を含む授業を実施する場合に、保護者の理解や了解を得る方法も具体的に提示されました。
愛知県の実施事例
愛知県教育委員会では、教員の働き方改革を目指し、平成29年3月に策定した「教員の多忙化解消プラン」柱となる部活動指導の負担軽減に基づき、部活動指導全般の指針となる「部活動指導ガイドライン」を策定しました。部活動は平成29・30年改訂の高等学校新学習指導要領でも、適正な方法で行われるべき特別活動として位置づけられました。これを受け、現在の部活動が抱える課題を解決するべく、量から質へ、指示から支援へ、一律の形態から多様な形態への3本柱で「部活動指導ガイドライン」を提示するものです。
これからの部活動指導に求められる方向性として、第一に経験則に基づいた長時間にわたる部活動から科学的なデータや根拠に基づく効果的で効率的な活動への転換が求められます。試合期、充実期、休息期に分けて年間活動計画を立て、参加する大会やコンクールも精選しなくてはなりません。
第二に、部活動は生徒の自主的、自発的な参加によることを前提に、生徒の主体的な運営を基本にすることが大切です。部活動の顧問は生徒とのコミュニケーションを密にしながら、誰がいつどこで何をどのような目的でどう行えばよいのかを理解させ、生徒が自発的に役割分担を行い、自立的にチームワークよく活動していけるように支援をすることが求められます。
第三として従来の競技種目単位の部活動だけでなく、生徒のニーズを踏まえて季節ごとに異なる競技を行う部活動を形成したり、競技志向ではなく、レクリエーションとして行う部活動や体力づくりを目的とした部活動など、多様な選択肢を与える、より気軽に楽しく取り組める部活動のスタイルを提案したりすることも大切になる時代です。