事例1「松之山温泉の源泉による地熱発電事業」新潟県十日町市
新潟県十日町市は、松之山温泉の温泉熱エネルギーを用いた地熱発電事業に取り組んでいます。
松之山温泉は、日本三大薬湯の1つとしても有名な温泉です。地層の中に閉じ込められた海水が高圧で湧出する特殊な「ジオプレッシャー型温泉」であることでも知られます。
新潟県は2010年度から「球温暖化対策技術開発等事業」として弘前大学および独立行政法人産業技術総合研究所と共同で「温泉発電システムの開発と実証」を実施しました。一般に温泉では、約70〜120℃と高温の温泉を冷まし、利用します。そのときに発生する温度差エネルギーを利用すれば温泉発電が可能になることから、松之山温泉の温泉熱エネルギーに着目し、バイナリー発電の実証実験が行われました。
このように100℃以下の温泉熱を用いたバイナリー発電システムの実用検証は、国内でも今まで例のないものでした。
松特別目的会社として立ち上げた「松之山温泉合同会社 地・EARTH(ジアス)」と契約し、一般家庭約300世帯相当量、年間5千万円の電力を売電することが見込まれ、2020年11月から東北電力へ売電する計画となっています。
事例2「霧島市温泉の地熱発電開発にかける官民の思い」鹿児島県霧島市
活火山の多い鹿児島県は地熱資源に恵まれ、地熱先進県と呼ばれています。県内には大霧発電所、山川発電所、霧島国際ホテル 地熱バイナリー発電施設があります。霧島市は九州を代表する温泉地の1つで、霧島市の南東には約130の温泉地で形成される温泉郷があります。
大霧発電所は、活発な火山活動を続ける霧島連山のふもとにある地熱発電所です。1975年から地熱開発精密調査が始まり、1980年代には活発な地熱流体や安定した蒸気量が確認されました。このことから、大規模な地熱資源が長期にわたって安定するとして、地熱発電の開発が始まり、1996年から運営が始まります。大霧発電所は、ジオパークである霧島屋久国立公園内に設置され、発電所そのものもジオサイトになっているユニークな発電所です。豊かな自然と共存しながら、年間に石油ならドラム缶27万本分にあたる電力を作り出しています。
さらに温泉地の豊かな地熱資源を活かし、第二の地熱発電所を建設する計画を立てますが、井戸の掘削地点が温泉街に近いことから観光地である霧島市温泉への影響が懸念され、プロジェクトは進んでいません。霧島市温泉資源の保護と適正な利用を図るため、2015年には「霧島市温泉を利用した発電事業に関する条例」を、2018年には「霧島市再生可能エネルギー発電設備の設置に関するガイドライン」が策定され、無理な開発をすることが抑制されています。
一方で、地熱帯には豊富な地熱資源が眠っており、他の自治体で同様の事例で成功例があったことからから「クリーンエネルギーは観光客の呼び水になる」として、地熱発電と観光地の共存を図る動きも広がっています。
事例3「地熱ポテンシャルを産業振興に活かす取り組み」青森県
青森県の地熱は、主に融雪システム、暖房システムに活用されてきました。しかし、青森市下湯地区でバイナリー発電が実証されているものの、地熱発電所の設立にはまだ至っていません。コストが高いなどの事情があるためです。
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は2013年から国全域を対象に「地熱発電技術研究開発プロジェクト」を実施し、地熱発電所の導入を拡大するための調査、技術開発を行っています。青森県では、下北、下湯、八甲田西部、沖浦の4つの地域で調査が行われました。そのうち、八甲田地区では2013年からJOGMECの事業費助成金交を受けて「八甲田北西地域地熱資源開発調査事業」が行われ、JR東日本など民間3社が自治体や弘前大学と産学官連携連携で事業を進めています。
そのほか、2014年からはむつ市が弘前大学と連携して地熱資源の調査を開始しました。2019年からは、オリックスも青森県風間浦村・青森市で調査を開始し、地熱発電所の開発を計画しています。
事例4「地熱発電の先駆けとなる岩手県」岩手県
岩手県は青森県に次いで地熱資源の多い県です。現在、県内には松川地熱発電所、葛根田(かっこんだ)地熱発電所、松尾八幡平地熱発電所があり、認可・認定出力の合計は111MWと国内トップクラスを誇っています。
八幡平市にある松川地熱発電所は、1966年に国内で初めて商業運転をした地熱発電所です。10月8日に運転を開始したことから、10月8日が「地熱発電の日」に指定されています。
雫石町にある葛根田地熱発電所は、1978年から運転している1号機と1996年から運転している2号機があり、発電量は合計80MWと国内最大級です。1995年に行われたNEDOの調査により、世界最高温度の512度が記録されたことも注目されています。そして、2019年1月からは八幡平市で松尾八幡平地熱発電所が稼働を始めました。発電所の認可出力は7499kW、国内でこの規模の地熱発電所が開発されたのは20年以上ぶりのことです。
発電した電力は東北電力へ売電し、市内施設の電力にも利用しており、地域資源で自給している点でも評価されています。なお、八幡平市にある2つの発電所は井戸を斜めに掘り、周辺環境に影響を与えない工夫もしています。