■「震災に強い市街地へ」(愛知県名古屋市)
愛知県名古屋市では、避難地の老朽化対策として、震災に強いまちづくりの施策を行っています。同市が施策に踏み切った背景には、平成23年3月に発生した東日本大震災にあります。震災時の想定をはるかに超える地震動及び津波により、東北地方を中心に甚大な被害がもたらされたことは、自然災害に対する都市の虚弱性をあらわにし、その対策として、起こりうる最大クラスの地震を想定した整備を考える必要性を強く認識させるものとなりました。
この震災以降、国の取り組みとして「南海トラフの巨大地震モデル検討会」が設置されました。同検討会では、過去に南海トラフのプレート境界で発生した地震に係る研究成果整理及び分析を行うことや新たな想定地震の設定方針を検討する等の対策を行っています。これを受けて名古屋市は、 「名古屋市地震対策専門委員会」を設置しました。
前述の国の検討を踏まえたうえで、南海トラフ巨大大地震を想定した対策を検討しています。平成26年2月に公表した被害想定(震度分布・津波高等)では、以下の2つを想定した被害予測調査となっています。
①過去の地震を考慮した最大クラス
②あらゆる可能性を考慮した最大クラス
あらゆる可能性を考慮した最大クラスがもたらす揺れにおいては、平成16年に作成された東海・東南海連動地震の予測震度に比べ全体的に数値が大きくなっています。さらに今回新たに追加された津波被害の予測では、市西南部の広い範囲が浸水する想定が示される結果となりました。
同市は、災害に強い都市構造を構築するために、以下の施策を行っています。
①復興土地区画整理事業などの都市基盤の整理
②大規模地震に起因する市街地火災への都市防災計画
③避難地・避難経路の整備
こうした取り組みの成果として、名古屋市街地で整備された箇所は、以下の通りです。
①道路
②公園
震災に強い市外地を形成する都市基盤である道路や災害時の避難場所となる公園等の公共施設の整備を行いました。この取り組みによって、火災時に延焼遮断効果を発揮する高い水準に達し、市全体としては火災延焼の危険性が比較的低い市街地も形成されています。しかしながら、火災の燃え広がりやすさを示す「地震災害危険度」の評価では、一部に相対的に延焼の危険性が高い地域が残っている他、未整備道路区間においても延焼遮断効果が不足している区間が存在しています。南海トラフ巨大地震による被害の発生が危惧されている同市では、今後も東日本大震災を踏まえた都市防災対策強化及び地域の改善に取り組み、震災に備える必要があります。同市では、東日本大震災発生後に「名古屋市都市計画マスタープラン」を改訂し、目指すべき都市の姿及びその実現に向けたまちづくりの方針の中に、安心安全に暮らすための都市構造を加え、更なる防災対策の強化を図っています。
■「防災に役立つ水とみどりの整備・活用」(東京都品川区)
東京都品川区は、防災性の向上に役立つ水やみどりの整備及び活用を、優先度の高い施策として位置付け、積極的に取り組んでいます。
同区の掲げる目標は、以下の通りです。
①オープンスペース確保と緑化による防災性の向上
②災害に備えた水辺の活用
③都市型水害に強いまちづくり
品川区市街地の防災性の向上に向けて、まちづくり企業との連携や防災広場の整備を行い、防災上役立つ公園等のオープンスペース確保を行います。さらに災害時の活動拠点としての公園施設の充実や都と連携した広域避難場所の機能の強化を目指すものです。その他にも、避難路の安全性の確保に向けた接道部緑化など、みどりを活かした防災に向けて取り組んでいます。臨海部に位置する品川区は、豊富な水辺を持つことが特性として挙げられます。この利点を活かし、災害時の帰宅困難者や物資の輸送ルートとして水運や水辺を活用することが可能です。
同区では実現に向けての施設整備や体制づくりを進めています。その他にも、水害の防止や軽減を図るための取り組みとして、下水道能力の増強や保水・遊水機能の増大についても都と連携しながら進めています。品川区の広域的な環境を支える水とみどりの骨格である河川や運河は、同区を支える資源であると同時に、都市の環境改善に寄与しているのです。これらの水とみどりを効果的に活用するためには、保全及び創出についても向上を図る必要があります。
同区のこれまでの取り組みは、以下の通りです。
①河川の護岸緑化
②沿川の街路樹の整備
③雨水浸透施設の設置
台地の斜面に残されたみどりや旧東海道周辺の寺社林は、都の南北崖線軸の一部として保全し、南北方向のみどりの軸としてつないでいく必要があります。
さらに、みどりや農地が地下水を涵養し、湧水から河川へ流れるといった健全な水循環を回復させるために、雨水浸透の促進への取り組みも行う必要があります。同区では、今後も都市の広域的な環境を支える水とみどりの骨格づくりの施策を進めるとともに、都市の骨格としての機能向上に取り組む方針です。
■「災害に強いまちへ 津波防災地域づくり」(大分県佐伯市)
大分県佐伯市では、津波防災地域づくりを総合的に推進するため、「佐伯市津波防災地域づくり推進計画」を策定し、津波による災害の防止及び軽減に向けて取り組んでいます。同市による計画は、ハード・ソフトの施策を組み合わせた「多重防御」の発想をもとにしており、佐伯市総合計画や地域防災計画等の上位関連計画と連携しているのです。同計画は、国の定める「津波防災地域づくりの促進に関する基本的な指針(基本指針)」に基づきながら、津波浸水想定を踏まえ、市町村の都市計画に関する基本的な調和を図りながら作成されています。
「安全・安心なまちづくり」に向けた施策の一環として、佐伯市は、強大化する台風や今後30年以内に高確率で予想される大地震に備えるため、以下の各施設の整備に取り組んでいます。
①消防新庁舎の建設
②市役所の新庁舎の建設
③蒲江振興の局庁舎の整備
④災害時通信連絡網の構築
⑤ライブカメラ等の総合情報伝達システムの整備
⑥孤立地区内の避難所に「防災倉庫」を設置
さらに同市では、災害防止策として、以下の取り組みを行っています。
⑦河川の改修
⑧沿山施設の整備
⑨護岸や防波堤の回収設備
また、佐伯市が掲げる「災害に強いまち(人)をつくる」施策は、施設の増強の他に人に対してのサポート及び強化を行っている特徴があります。
具体的な取り組みは、以下の通りです。
①防災・減災の知識や技能を学んだ消防士を育成・配置する
②消防職員及び消防団員の相互連携、安全対策の推進、装備の充実、惨事ストレス対策の強化
③消防防災ヘリコプターとドクターヘリの情報共有体制の構築
佐伯市では、市内の耐震化の促進に加えて取り組んでいる上記の取り組みによって、地域避難訓練への参加率向上に努め、地域防災力の向上を図っています。
■「地域公園の確保に向けての再整備」(千葉県松戸市)
千葉県では、公園再整備ガイドラインを設立し、地域公園の整備に向けて取り組んでいます。その取り組みの背景として、千葉県松戸市の公園緑地が不足していることが挙げられます。
松戸市が管理している公園緑地は、平成24年3月時点で387ヶ所、約172ha存在しています。これは住民一人あたりの公園敷地面積が3.56㎡となる数値であり、同市の近隣公園及び地区公園の整備量は不十分ですが、市街地内には今後公園化できるようなまとまった用地が少ないこともあり、近隣公園や地区公園を十分に確保することは難しい現状があります。
松戸市が選定する地域公園の基準は、平成21年3月に制定された「松戸市緑の基本計画」をもとにしています。同市の緑基本計画によると、市内11地域に1ヶ所ずつ、既存の近隣公園及び地区公園などから、その地域の核となる地域公園を位置付けています。しかしながら、地域公園は未整備のところもあるのが現状です。これらの地域公園を今後活用していくためには整備をする必要があり、街区公園の中から再整備対象公園としてふさわしい公園を選定することとなりました。
同市が再整備対象公園として考慮した条件は、以下の通りです。
①公園規模
②整備内容
③周辺状況
これらを踏まえて選定した公園は、基本的に開園日が早いものを含む地域から、同市が順次再整備を行っています。
■「未来につなぐ緑化の推進」(山形県鶴岡市)
山形県鶴岡市では、「鶴岡市緑の基本計画」を策定し、緑の保全について取り組みを行っています。その背景には、平成17年10月に、旧鶴岡市、旧藤島町、旧羽黒町、旧櫛引町、旧朝日村、旧温海町が合併し、さらに平成25年4月に旧鶴岡、旧藤島、旧櫛引、旧温海の各都市計画区域を統合し、同市が市域を大きく拡大したことが挙げられます。これにより旧鶴岡市を対象とした現行計画は、藤島、櫛引、温海の旧都市計画区域を含めた現在の鶴岡市の区域を対象とした策定へ見直しを行う必要性が高まっています。
さらに近年同市が抱える課題として、以下のものがあります。
①公園の維持管理の適正化・長寿命化
②資産としての有効活用の必要性
さらに社会的背景として、以下のような点も挙げられます。
③少子高齢化を含む人口減少
④移住誘導区域の設定
このように、公園や緑地を取り巻く環境は年々大きく変化しており、その在り方から維持管理は、社会の変化に対応した長期的な観点で取り組むことが必要となっています。鶴岡市では、「緑が彩る歴史と文化が薫るまち 鶴岡」として緑の将来像を定めています。
その基本的な方針は、以下の通りです。
①未来につなぐ鶴岡の豊かな緑の保全を図る
②鶴岡の歴史・文化を継承する緑の保全を図る
③定住と健康な生活を支える公園・緑地の保全及び整備を図る
④暮らしや街にうるおいをもたらす緑環境の保全・創出を図る
⑤協働とマネジメントによる緑の保全・創出を図る
また、同市が取り組む施策の特徴として、緑の空間構成が挙げられます。これは各地域の緑の現状と特性を踏まえたうえで、緑の将来像を構成したものです。
緑の空間構成による設定は、以下の通りです。
①森林ゾーン
②田園ゾーン
③海浜ゾーン
④市街地エリア
⑤水辺の軸
⑥歴史拠点・緑の拠点
さらに、同市が環境保全のために行っている取り組みは、以下の通りです。
①都市の緑の骨格となる優れた自然の形成
②農地、海岸の保全とその環境を活かした身近な環境教育の推進
③生物多様性に配慮した緑の保全と連続性の確保
④市街化区域内の緑化の推進
鶴岡市では、同市の緑の骨格を位置付ける優れた自然として、南部一帯の「森林」と、西武の「日本海と海岸線」、山々からそそぐ「河川」を位置付けています。同市ではこれら中核となる地域を、引き続き自然公園法及び県条例などの緑地保全に関連する規制制度を活用し、優れた自然環境の維持に努めました。
また、市街地周辺の農地や河川沿いの自然地、海岸や漁場などを身近な環境教育の場として位置付けて活用する取り組みも行っています。本取り組みは、山形県水産試験場と県立加茂水産高校の協力のもとで行われており、さらに水産・海洋に関する研究施設とも連携に向けても取り組んでいます。また同市の森林・山林と市街地をつなぐ主要な河川などの水辺や河川沿いの緑地は、多様な生態系の拠点となっているのが特徴です。市内に生息する生物の生息環境をネットワークする緑地としての役割も担っており、市民の水辺空間として動植物の再生と活用が期待されています。
また同市の水辺には、冬に多くの水鳥が飛来し、全国的に見ても重要な越冬地として位置付けられていることから、その環境の保全と連続性の確保も必要です。その他にも同市は、公共施設や大規模な民間施設の緑化を推進しています。地区計画制度のまちづくりルールを活用し、生垣の設置や、敷地内緑化などを推進し、計画的な市街地の緑化に向けて取り組んでいます。鶴岡市は、人と自然の共生を図り、森林地域以外でも安定的に野生動物が生息できる緑地を確保するため、配慮しながら緑の保全と整備を進めています。
■「市民が実感できるまちづくりとしての公園整備」(兵庫県赤穂市)
兵庫県赤穂市では、「緑の豊かさを市民が実感できるまちづくり」を施策として挙げており、その実現に向けて身近な公園の整備や住宅敷地内の緑化に向けて取り組んでいます。同市はまちづくりの一環として、豊かな自然環境や歴史的風土の保全を図りつつ、快適な生活環境を創出するために住宅地内の緑を増やす取り組みを行っているのです。また、同市固有の自然及び歴史と文化の活用を図り、緑の豊かさを市民が実感することができるまちづくりを推進しています。
赤穂市が定める公園・緑地の整備方針は以下の通りです。
①身近な公園
②大規模な公園
③公園施設
市民の日常的な交流の場や遊びの場として利用される住区基幹公園は、児童遊園地などの整備状況を含めた住区間バランスや人口の見通しを踏まえて整備を行っています。特に、土地区画整理事業内の未整備公園については、優先順位を検討したうえで着実に整備ができるよう配慮しています。また、大規模な地震災害等における市民の安全性確保を目的として、一次避難所に位置付けられている野中・砂子公園についても優先順位を検討し、防災公園としての整備及び活用を推進しています。また、本市のシンボルである赤穂城跡公園には、観光客の半数以上が来訪している現状があり、今後更なる見所づくりが望まれています。
これを踏まえて同市では、赤穂城跡公園の未整備区域の整備を推進しており、赤穂市らしさを象徴する歴史文化的遺産の保全と復元を図っています。また既設公園のうち老朽化により改良を必要とする公園も存在しており、これらについても市民ニーズに応じて更新整備を計画的に行っています。これにより適正な維持管理による公園施設の長寿命化が期待できます。