<目次>
自治体が、多くの方に満足してもらえるサービスを提供するためには、早急な業務効率化が鍵となります。そのため、自治体の中にはIT・ICTを活用して、業務改善に取り組み始めているところが増えています。そこで今回は、自治体のIT・CT化における課題と、ICTの活用方法を解説していきます。
自治体のIT・ICT化の現状
まずは、自治体のIT・ICT化の現状を見ていきましょう。
引用:総務省 地域におけるICT利活用の現状に関する調査研究(平成29年)
総務省の「地域におけるICT利活用の現状に関する調査研究」によると、全体で平成24年に3,502でしたが、平成26年では5,646、平成28年では6,440となっています。
分野ごとに見てみると、教育では平成24年520だったのに対して平成28年には857、交通でも平成24年239だったのに対して平成28年には436となっており、年々自治体のIT・ICT化が進んでいることがわかります。とはいえ、上記の情報は平成28年のものなので、令和に入ってからは参照したデータより、普及率が上がっている可能性が高いです。
しかし、中にはIT化があまり進んでいない分野も存在します。なぜなら、「導入・運用コストが高い」「自治体の人材やノウハウ不足」「費用対効果が不明確」などの課題が存在するからです。
スマート自治体について
スマート自治体とは、AIなどを活用して自治体の「事務処理の自動化」や「業務の標準化」を行い、行政サービスなどを効率的に提供する自治体を指します。
スマート自治体が推進された背景には、2040年問題があります。これは、2040年に65歳以上の高齢者人口がピークになり、約4,000万人にも達するとされているものです。さらに、都市部と地方の人口差も深刻な状況となりつつあり、一極集中に伴う人口流出から全国自治体の4分の1で人口が半減すると予測されています。
こうした背景の中、それぞれの自治体が従来のサービスを提供し続けるためにどうすればいいのか、自治体間の連携を深める施策としても注目を集めているのがスマート自治体です。スマート自治体の推進への施策として、AI・RPAを含めたICT活用を推進しています。
スマート自治体の実現によって、住民・企業などの利用者にとっての利便性向上や、自治体においても質の高い行政サービスを提供できることを目的としています。
自治体が抱えるIT・ICT化への3つの課題
ここからは、自治体が抱えているIT・ICT化の課題を紹介していきます。
まずは、総務省の「地域におけるICT利活用の現状に関する調査研究」を見てみましょう。
引用:総務省 地域におけるICT利活用の現状に関する調査研究(平成29年)
「図表69 ICT利活用事業推進する上での課題」によると、自治体がIT化を進める上でさまざまな部分で課題に感じていることがわかります。
今回は、その中でも特に重要度の高い上位3つのことについて解説していきます。
- 導入・運用コストが高い
- 自治体の人材やノウハウ不足
- 費用対効果が不明確
|
それでは見ていきましょう。
・導入・運用コストが高い
限られた財政状況により予算の確保が困難な場合、ICTの企画・調達などの際に、質について十分考慮せずにイニシャルコストが過度に重視されがちです。そのため、計画・予定通りにICTを利活用できず、システムの操作性・長期的耐久性に乏しく国際規格に準拠していないメンテナンスなど、導入・運用のコストが高く、環境配慮が不十分などといった結果を招いています。
つまり、各自治体の財政状況により実施内容に差が出やすくなっています。そのため、さまざまなノウハウを活用し、予算の制約を満たしながら質を十分に考慮した比較優位制の高い技術を搭載したICTを調達する必要があります。
・自治体の人材やノウハウ不足
自治体の人材は1994年以降減少が続いており、2017年のピーク時と比べると、54万人減少しています。また、自治体クラウドの導入・番号制度導入を踏まえた団体間連携など、自治体の情報システムを取り巻く環境が大きく変化する中で、これらに取り組むために専門的な知識や技能を持っている人材を確保・充実させることが求められます。
これらの新しい取り組みへの正しい理解と導入に必要なノウハウ習得の支援を図るために、人材教育支援事業を実施して研修教材を開発したり、CIO・CIO補佐官を設置するといったことが必要です。
・費用対効果が不明確
費用対効果が不明確である点も、自治体がIT・ICT化を進められない要因の一つです。運用のためにキャッシュ・アウトが発生することから、運用を任せている側からすると運用コストが高いと認識されやすい傾向にあります。その結果、コストの一律カットなど、後ろ向きの効率化が横行してしまいます。
コストカットは、運用の本質的な改善活動を制約することにもつながってしまいます。これが、現場のモチベーション低下・定常的な負荷上昇の要因ともなるため、見えない運用を可視化していくことが大切です。
自治体がIT・ICTを活用したいと思っても、どのように活用すればいいのか具体的なイメージが湧きにくい部分も出てくることでしょう。そこで、各自治体の先行事例や総務省の「ICT地域活性化ポータル」を参考にしてみると、イメージが湧きやすくなります。
自治体におけるIT・ICTを活用した事例
これから、実際にITを活用した自治体の事例を分野別で紹介していきます。実際の事例を詳しく知りたい方は「ICT地域活性化ポータル」がおすすめです。
詳しいIT・ICTを活用した事例を知りたい方はこちら:総務省 ICT地域活性化ポータル
それぞれ詳しく紹介していきますので、IT・ICTをどのように活用すればいいのか分からないという方は、ぜひ参考にしてみてください。
- 教育
- 医療・介護
- 福祉
- 防犯
- 防災
- 観光
- 交通
- 産業振興
- 農林水産産業振興
- 雇用
- 地域コミュニティ
- 環境エネルギー
- インフラ
|
・教育
自治体名
|
導入費
|
維持費
|
概要
|
詳細
|
宮城県女川町・茨城県古河市・奈良県奈良市・香川県土庄町
|
2,160,000円
|
年額:2,100,000円
|
国立学校が、これまで培った知見を生かして遠隔会議システム・SNSによる助言・クラウド上でのノウハウ共有などにより、被災地・離島などの地方におけるプログラミング教育へ貢献。
|
THE NARAJO PLAN|総務省「ICT地域活性化ポータル」
|
新潟県(上越・中越・下越)・福島県群山市
|
無料
|
年額:学生数(社員・会員) × 1,200円
|
カード型の学生証をスマートフォンアプリに変更。連絡・通知・出席確認などが確実に手元に届くようになり、学校側では発行・紛失・回収などの手間が大幅削減された。
|
スマートフォンを利用した学生証革命|総務省「ICT地域活性化ポータル」
|
島根県隠岐郡海士町
|
2,500,000円
|
2,062,000円
|
遠隔授業によって持ち込まれた多様性(大人・高校生・中学生)の中で、競争心・表現力・多文化協働力を身につけるべく、遠隔授業の安定運用の実現・協働オファーを獲得。
|
小規模校集合体バーチャルクラス(クラウド遠隔授業システム)|総務省「ICT地域活性化ポータル」
|
福島県神山町
|
5,000,000円
|
0円
|
プログラミングによって、郷土芸能「阿波人形浄瑠璃型の人形」に縁起をさせる教材を開発。また、テレワークのサテライトオフィスの従業員を指導者として育成する。
|
プログラミングによる地域伝統芸能復興|総務省「ICT地域活性化ポータル」
|
参考:事業テーマ別 事例100選|総務省「ICT地域活性化ポータル」
・医療・介護
自治体名
|
導入費
|
維持費
|
概要
|
詳細
|
京都府京都市
|
130,000,000円
|
5,000,000円
|
通常医療機器ごとに管理されている住民の診療・投薬履歴を医療機関などが連携してクラウドで一元管理、利用者がスマートフォン・ケーブルTVなどのインターネット経由で自ら確認・管理できる仕組みを構築する。
|
「ポケットカルテ」及び地域共通診察券「すこやか安心カード」|総務省「ICT地域活性化ポータル」
|
広島県呉市
|
-
|
年額:約28,000,000円
|
レセプト(診療報酬明細書)データを独自ICT技術で分析し、効率的・効果的な保険事業の実施に必要な情報を提供できるサービスを実施する。
|
ICTを用いた広島県呉市における「データヘルス」の取り組み支援|総務省「ICT地域活性化ポータル」
|
福岡県福岡市
|
89,489,000円
|
36,465,000円
|
データ集約・データ分析・在宅連携支援・情報提供で構成される情報通信基盤「福岡市地域包括ケア情報プラットフォーム」を構築。積極的なビッグデータの活用によって健康寿命の延伸・地域経済の活性化・行政コストの削減を同時に実現する。
|
福岡市地域包括ケア情報プラットフォーム|総務省「ICT地域活性化ポータル」
|
新潟県佐渡市
|
1,621,250,000円
|
43,900,000円
|
電子カルテに頼らず、医療情報を自動収集して施設規模に問わない双方向に情報共有するネットワークシステムと、ICTを離れたオフ会を開催しながらコミュニケーションをベースとした協働ができる体制の構築。
|
佐渡地域医療連携ネットワーク「さどひまわりネット」|総務省「ICT地域活性化ポータル」
|
参考:事業テーマ別 事例100選|総務省「ICT地域活性化ポータル」
・福祉
参考:事業テーマ別 事例100選|総務省「ICT地域活性化ポータル」
・防犯
参考:防犯まちづくり取組事例集
・防災
参考:事業テーマ別 事例100選|総務省「ICT地域活性化ポータル」/
・観光
参考:事業テーマ別 事例100選|総務省「ICT地域活性化ポータル」
・交通
参考:事業テーマ別 事例100選|総務省「ICT地域活性化ポータル」
・産業振興
参考:事業テーマ別 事例100選|総務省「ICT地域活性化ポータル」
・農林水産産業振興
自治体名
|
導入費
|
維持費
|
概要
|
詳細
|
北海道岩見沢市
|
40,778,000円
|
5,136,000円
|
ICTを活用したスマート農業の推進に加えて異なる分野での活用による効率化・コスト削減、匠の技継承などの社会実装を図る。
|
北海道岩見沢市におけるICT利活用の社会実装|総務省「ICT地域活性化ポータル」
|
和歌山県和歌山市
|
1,000,000円弱
|
月額*100,000円
|
NKアグリのリコピン高含有人参「こいくれない」は、育成・栄養価と相関性のある環境条件を解明、IoT環境センサーを設置することで、複数の産地でも導入できる収穫時期予測システムを構築する。
|
地域をつないで一つのバリューチェーン「リコピン人参プロジェクト」|総務省「ICT地域活性化ポータル」
|
千葉県いすみ市
|
24,190,000円
|
0円
|
平成28年8月に内閣府から地域再生計画として認定された「美食の町いすみ〜サンセバスチャン化計画〜」での美食素材となる農産物について科学的栽培技術・知見を持っているICT技術継承プラットフォームを構築する。
|
農業情報を活用した技術継承プラットフォーム事業|総務省「ICT地域活性化ポータル」
|
福井県小浜市
|
15,935,400,000円
|
661,272,000円
|
鯖養殖業に、水産業におけるリソース・シェアリングを実装する。「うみのアメダス」導入によってリアルタイム水温・水中酸素濃度データを活用した養殖、「デジタル操業日誌」導入によって職人技のデジタルデータ化=マニュアル化を実現する。
|
「鯖、復活」養殖効率化プロジェクト|総務省「ICT地域活性化ポータル」
|
参考:事業テーマ別 事例100選|総務省「ICT地域活性化ポータル」
・雇用
自治体名
|
導入費
|
維持費
|
概要
|
詳細
|
沖縄県沖縄市
|
80,000,000円
|
55,168,000円
|
プログラミング教育・創業支援が生み出した高度ICT人材と雇用。
|
ICT人材教育と創業支援による地域活性化|総務省「ICT地域活性化ポータル」
|
北海道斜里町
|
71,130,000円
|
-
|
施設の整備・企業誘致に取り組み、地域での受入体制強化に取り組む。
|
北海道オホーツクふるさとテレワーク推進事業|総務省「ICT地域活性化ポータル」
|
宮城県日南市
|
1,506,000円
|
5,412,000円
|
企業との協業によるテレワークを推進し、月収20万円ワーカーを重点的に育成する。
|
「日南市式テレワーク」の推進による新たな働く場の創出|総務省「ICT地域活性化ポータル」
|
岐阜県群上市
|
19,944,000円
|
-
|
クラウドTV・Web会議システムを利用し、極小規模校における遠隔授業の実施や、情報・校務ノウハウの共有、岐阜県白川町・東京都港区との連携、その他地域との教育交流の実施を行う。
|
小規模校のハンディキャップをIoT技術により乗り越えるグローカル人材の育成|総務省「ICT地域活性化ポータル」
|
参考:事業テーマ別 事例100選|総務省「ICT地域活性化ポータル」
・地域コミュニティ
参考:事業テーマ別 事例100選|総務省「ICT地域活性化ポータル」
・環境エネルギー
自治体名
|
導入費
|
維持費
|
概要
|
詳細
|
長野県須坂市
|
4,515,000円(事業費)
|
-
|
「須坂市地域新エネルギービジョン」の重点プロジェクトである小水力発電の普及啓発を図るために信州大学工学部・地元自治会・庁内関係課と連携して、米子地区の安定した水流を活用した小水力発電モデル事業を推進する。
|
米子水車(環境緩和型ナノ水力発電)と電気柵について
|
参考:米子水車(環境緩和型ナノ水力発電)と電気柵について
・インフラ
参考:事業テーマ別 事例100選|総務省「ICT地域活性化ポータル」
まとめ
自治体のIT化における課題と活用方法について解説しました。さまざまな自治体で、IT化が進んでいる一方、「導入・運用コストが高い」「自治体の人材やノウハウ不足」「費用対効果が不明確」といった課題もあるため、IT化が進んでいない分野もあります。今回紹介した活用方法を参考に、IT化を進めていってください。