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医療等分野におけるAI利活用について・実施事例【自治体事例の教科書】

医療等分野におけるAI利活用について・実施事例【自治体事例の教科書】

さまざまな分野で利活用が始まっているAI(人工知能)。もちろん医療や介護の分野でも研究が進んでおり、さらなる実用化が期待されています。AIによって医療はどう変わるのか、国の戦略や実施事例などについて解説していきます。

【目次】
■医療等分野におけるAI利活用の背景
■政府が推進する、医療分野でのAI戦略
■AI医療の「重点6領域」と実施事例
■医療等分野におけるAI利活用まとめ

医療等分野におけるAI利活用の背景

現在の医療で特に問題視されているのは「医師不足」です。2008年から医学部の入学定員は増えたものの、特に地方の医師不足は解消の兆しが見えません。そのため、医師の労働時間は他の業種に比べて相変わらず長く、例えば病院勤務医は「週60時間以上」勤務している割合が全体の4割を超えています。AIを活用できれば、医療や事務手続きの効率化が期待でき、医師の負担軽減につながるでしょう。

もちろん「ヒューマンエラーの減少」も重要なメリットです。画像診断や治療方針の決定、手術などにAI技術を生かすことで、あってはならない医療ミスを防ぐ効果が期待されます。特に膨大なデータを瞬時に分析して異常値を発見する作業は、人間より圧倒的にAIが勝っている部分です。こうした領域では、今後革新的な変化が期待できると思われます。

政府が推進する、医療分野でのAI戦略

2019年3月29日、政府は有識者提案の「AI戦略2019」を発表しました。日本政府が掲げる「Society5.0」の実現に向け、なくてはならないAIの利活用の方策をまとめた重要な指針です。その中で、教育改革や研究開発体制の再構築などに加え、「社会実装」の一つとして「健康・医療・介護」の分野が挙げられています。

具体目標としては、「健康・医療・介護分野でAIを活用するためのデータ基盤の整備」「日本が強い医療分野におけるAI技術開発の推進と、医療へのAI活用による医療従事者の負担軽減」「予防、介護分野へのAI/IoT技術の導入推進、介護へのAI/IoT活用による介護従事者の負担軽減」などが掲げられており、それぞれの実際的な取り組みについてもまとめられています。

また、厚生労働省は2017年1月に「データヘルス改革推進本部」を立ち上げました。世界でも類を見ない急速な少子高齢化が進む中、医療・健康・介護分野におけるICT化を進める目的で発足された組織です。医療機関などがそれぞれ保有する情報を連結させてビッグデータを構築し、これにAI解析などを加えることで、国民がより効果的な健康管理や予防のサポートを受けられることを目標としています。

特に「全ゲノム解析等によるがん・難病の原因究明や診断・治療法開発に向けた実行計画の策定」と「AI利活用の先行事例の着実な開発・実装」は、加速化する取り組みとして掲げられており、今後一気にデータヘルス時代の幕が開けていく可能性が期待されます。

AI医療の「重点6領域」と実施事例

医療等分野におけるAI利活用にはさまざまなものがありますが、ここでは厚生労働省の「国民の健康確保のためのビッグデータ活用推進に関するデータヘルス改革推進計画」の中で選定された「重点6領域」と、それぞれのAI利活用の実施事例や展望などを挙げていきます。

●①ゲノム医療
ゲノムとは、DNAに含まれた遺伝情報、いわば体の設計図のようなものです。これをすべて調べられれば、その人がかかりやすい病気や合っている薬などの情報を得られるため、より効果的な診断・治療に役立ちます。しかし、遺伝子変異に関する膨大な論文や症例のデータを、人間がすべて調べるのは困難です。そこで、ビッグデータの解析が得意なAIの活躍が期待されています。

特にがんは、ゲノム解析による罹患リスクや薬の反応性、副作用などの予測が大きく役立つ病気です。日本では2019年6月から「がん遺伝子パネル検査」が保険適用となり、今後さらにがんゲノム医療の需要が増していくことが予想されています。

●②画像診断支援
日本ではCTやMRIなどの医療用画像機器が諸外国より普及しており、誰もが身近な医療機関で検査を受けられます。しかしその分、病気を見落としてしまう事例も多いため、AIによる診断支援が大きく役立つことが期待されます。また、日本は全医師に占める病理医の割合がわずか0.76%と、非常に低い点も課題です。もしAIによる画像診断支援が広まれば、病理医の負担軽減にもつながります。

厚生労働省の「AIの活用に向けた工程表」によると、2020年から「医療機器メーカーへ教師付画像データ提供」「AIを活用した画像診断支援プログラムを開発」が予定されています。

●③診断・治療支援
問診や診察、各種検査によって得られたデータをもとに診断結果を出し、治療方針を決めることが医療の基本ですが、ここにもAI利活用の余地があります。AIがこれまでの診療録や膨大な論文を解析することで、患者の病態や他疾患リスクなどを把握しやすくなるからです。

厚生労働省の「AIの活用に向けた工程表」によると、2020年から「頻度の高い疾患についてAIを活用した診断・治療支援を実用化」する予定となっています。

●④医薬品開発
医薬品の開発には、素材選びから治験、そして承認に至るまで長い年月がかかります。しかも、最終的に承認に至るのはほんの一部で、臨床試験まで進んだ薬でも約75%が開発に失敗しているのが現状です。その失敗の要因の1つに、「創薬ターゲット(薬が標的とすべき病気の原因)」の選択ミスが挙げられます。この創薬ターゲットの探索に役立つと考えられているのが、AI技術です。

また、膨大な化学化合物やタンパク質のデータの中から薬の種を見つけ出す「バーチャルスクリーニング」や、薬効・安全性を踏まえた薬剤設計なども、ビッグデータの解析を得意とするAIに期待されています。

厚生労働省の「AIの活用に向けた工程表」によると、2020年から「医薬品開発に応用可能なAIの開発」「AIを用いた効率的な医薬品開発を実現」という目標が掲げられています。

●⑤介護・認知症
高齢化社会が進む中、介護や高齢者医療の分野でも人手不足が深刻化しています。そこで活躍が期待されるのが、介護ロボットのような機器です。既に「杖ロボット」や「傾聴ロボット」などは実用化されていますが、今後は睡眠・排せつの監視や、認知症診断支援のAI技術などが実用化される可能性があります。

厚生労働省の「AIの活用に向けた工程表」によると、2020年から「試作機の開発」が予定されています。

●⑥手術支援
手術支援のロボットとしては、既にIntuitive Surgical社の「da Vinci(ダヴィンチ)」が製品化されており、日本でもいくつかの疾患で保険適用となっています。しかし、現在のところ触力覚のセンシング機能がないため、医師は視覚から得られる情報のみを頼りにしてロボットを遠隔操作するしかないのが現状です。

そこでAI技術を生かすことで、医師が触力覚を持てるようになる可能性が期待されています。また、作業に応じて最適な視野が自動調整されたり、加えるべき最適な力の値をAIが示したりする機能も研究が進められています。

厚生労働省の「AIの活用に向けた工程表」によると、2020年から「手術データを統合収集・蓄積」し、近い将来「自動手術支援ロボットの実用化」を目指すとのことです。

医療等分野におけるAI利活用まとめ

現在の日本は、AI技術においては他国と比べて十分な競争力を有しているとは言えないものの、国の総力を挙げて急ピッチで研究や取り組みが進められています。医療・健康・介護の分野のAI利活用はまだ幕を開けたばかりで、制度面やプライバシー管理など、解決すべき課題も山積みです。しかし、今後ますます進む少子高齢化や医師の偏在などを考えても、AI技術の利活用は必要不可欠でしょう。

AI医療が普及すれば、医師による技術の差や地域格差の解消に役立つメリットもあります。住む場所に関わらず、すべての人が質の高い医療を受けられるためにも、AI医療のさらなる発展に期待したいところです。

〈参照元〉

内閣府_AI戦略2019
(https://www8.cao.go.jp/cstp/tougosenryaku/sanko4.pdf)

厚生労働省_医療等分野情報連携基盤に関する経緯と現状及び今後の検討事項
(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000201735.pdf)

厚生労働省_保健医療分野におけるAI開発の方向性について
(https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000337597.pdf)

厚生労働省_保健医療分野AI開発加速コンソーシアム
(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-kousei_408914_00001.html)

厚生労働省_「医師の働き方改革について」
(https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000516867.pdf)

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