「耐震改修促進法」とは
地震の多い日本では、過去に幾度となく大地震による被害を受けています。そのため、全国の各自治体は住宅や建築物等の耐震化を促進するため、「耐震改修促進法」に基づく耐震改修促進計画を策定し、住宅・建築物等の耐震診断や耐震改修等を進めています。
平成7年の阪神淡路大震災では、犠牲者の約8割が建築物の倒壊による圧迫死でした。同年に発表された建設省(現:国土交通省)の建築震災調査委員会の中間報告書では、昭和56年施行の耐震基準で建築された建築物の被害はそれほど多くはなく、それ以前に建築された旧耐震基準(昭和25年制定)の建築物に被害が多かったことが報告されました。
これらを受けて、国は平成7年12月に「建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)」を施行し、新耐震基準を満たさない住宅等について積極的に耐震診断や改修を進めることを決定しました。
耐震改修促進法では、まず早急に安全確認が必要な大規模建築物(不特定多数の人が利用する大規模建築物)、及び自治体の安全確認計画に記載された建築物(都道府県又は市町村が指定する避難路沿道建築物、都道府県が指定する防災拠点建築物)の所有者に対し、耐震診断の実施と診断結果の報告を義務付けなどを実施しました。
また、耐震改修を円滑に促進するため、耐震改修計画の認定基準を緩和しました。これにより、耐震改修計画の対象工事が拡大し、新たな改修工法も認定可能となったほか、耐震改修のために必要と認められた場合に容積率や建ぺい率の制限を緩和する特例措置も講じられました。
耐震改修の必要性の認定を受けた区分所有建築物についても、大規模な耐震改修を行おうとする場合の区分所有法における決議要件を4分の3以上から2分の1超へと緩和しました。
さらに、耐震性に係る表示制度を創設し、耐震性の確保について認定を受けた建築物について、その旨を表示できるようになりました。また、平成30年の大阪府北部地震で小学生が倒壊したブロック塀の下敷きになる被害が発生したことを受けて、過去の地震災害でも被害が報告されていた避難路沿道の一定規模以上のブロック塀等について、建物本体と同様に耐震診断の実施及び診断結果の報告を義務付けました。
住宅の耐震化の推進は、災害に強いまちづくりの視点だけでなく、倒壊した建物による復旧・復興活動の阻害を少なくし、復旧・復興がしやすいまちづくりの視点からも重要です。
住宅や建築物の耐震化を促進するためには、住民の理解や協力が必要不可欠です。建築物等の耐震化とあわせて、家具の固定やブロック塀等に対する転倒防止対策について、周知啓蒙のほか、住宅耐震化について自治体の支援を整備することも大切でしょう。
次に、住宅耐震化の促進について、さまざまな工夫を行っている事例を紹介します。
事例①【官学連携】愛知県
愛知県では、官学連携で得られた耐震化戦略策定手法、低コスト高耐震化構法、技術普及プログラム等の成果が幅広く地域に普及しています。
具体的には、県および名古屋市の建設部局・防災部局と名古屋大学・名古屋工業大学・豊橋技術科学大学の3つの国立大学法人の建築構造を専門とする教員との連携を図り、「愛知建築地震災害軽減システム研究協議会」を設立し、総合的な地域災害対応力向上に取り組んでいます。
事例②【民間から募集】東京都
東京都は木造住宅の耐震改修の実施例や地震から命を守るための装置を広く民間から募集し、学識経験者・実務経験者等で構成する評価委員会の審査により一定の評価を受け選定された工法や装置を紹介する「安価で信頼できる木造住宅の『耐震改修工法・装置』の事例紹介」を東京都耐震ポータルサイトに掲載しています。
また、震災時に避難・救急消火活動・緊急支援物資の輸送及び、復旧復興活動を支える緊急輸送道路が、建築物の倒壊により交通不能になることを防止するため「東京における緊急輸送道路沿道建築物の耐震化を推進する条例」を制定し、沿道の建築物の耐震化も促進しています。
事例③【助成制度】墨田区(東京都)
墨田区(東京都)は耐震性の判定基準に基づいて、住宅の耐震化工事費用等について一定の助成を行う「木造住宅耐震改修助成事業」を実施しています。
対象となるのは昭和56年5月31日以前に着工された木造建物で、日本建築防災協会が定める「木造住宅の耐震精密診断と補強方法」に基づいた総合評点で補助を決めています。
具体的には、次のような仕組みです。
①総合評点が1.0未満の建築物を総合評点1.0以上の建築物にする工事・簡易改修工事
②総合評点が1.0未満の建築物について、改修工事前に比較して耐震性能が向上する工事及び、東京都が選定した「安価で信頼できる木造住宅の、耐震改修工法・装置」の耐震改修工法部門の工法により改修工事前に比較して耐震性能が向上する工事
これらの基準に適合すれば、所有者等が行う耐震改修に要する経費の一部を助成しています。
事例④【要援護者対策】南伊勢町(三重県)
南伊勢町(三重県)では災害時の要援護者の避難を容易にするため、シルバー人材センターを活用し、高齢者の住宅の家具を金具で固定化する事業を行っています。事業費用は県の補助を活用して実施されています。
地震による住宅の倒壊から居住者の生命を守るため、高齢者など災害時要援護者の住宅に耐震シェルターを設置した際に、その費用の一部を補助する事業も行っています。この事業費用についても県の補助を活用しています。
事例⑤【無料診断】東海市(愛知県)
東海市(愛知県)では、住宅について具体的にどの部分がどの程度耐震的に悪いのかを知り、その後の改修工事の参考にするため、専門家による耐震診断を無料で行う制度を実施しています。
また、地震による木造住宅の倒壊による被害を防ぐため、昭和56年5月31日以前の旧耐震基準で建てられた木造軸組住宅の耐震補強工事を行う者を対象とし、工事費用の一部を補助する制度も設けています。
<参照元>
国土交通省 建築物の耐震改修の促進に関する法律等の改正概要(平成25年11月施行及び平成31年1月施行)
国土交通省 中部地方整備局 建政部HP 等