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【事例解説】交通安全における自治体の課題と取組事例3選

【事例解説】交通安全における自治体の課題と取組事例3選

痛ましい事故を防ぐ交通安全のための事業や施策とは? 自治体の取り組み事例などを通じて、そのポイントを探りました。
 
【目次】
■交通死亡事故の現状とは
■事例①【緊急対策事業】松阪市(三重県)
■事例②【交通安全基金】東松山市(埼玉県)
■事例③【働き盛り対象の啓発】世田谷区(東京都)
■住民生活・安全関連ソリューションまとめ

交通死亡事故の現状とは

平成28年の道路交通事故死者数は前年比マイナス213人の3,904人で、昭和24年以来67年ぶりの3千人台となるなど長期的には減少傾向にあります。

しかし、国内の交通死亡事故件数全体のうち、生活道路での死亡事故の発生割合はやや増加傾向にあります。そのため、生活道路における交通事故防止対策の見直しや強化が望まれています。

なお、「生活道路」の明確な定義はありませんが、国の調査などでは「主として地域住民の日常生活に利用される道路で、自動車の通行よりも歩行者・自転車の安全確保が優先されるべき道路」とされています。

交通事故死者数を欧米諸国と比較すると、日本は歩行中・自転車乗用中の占める割合が高く、人口あたりの歩行中及び自転車乗用中の死者数は主な欧米諸国と比較して2~3倍となっています。状態別の死傷者数の推移を見ると、平成20年以降、歩行中の死者数が自動車乗車中を上回って最も多くなっており、平成27年では死者数全体の約4割を占めています。

本来、もっとも安全であるべきはずの身近な生活道路を歩いている最中に、欧米と比較し、高い確率で交通事故にあうといった事態は、言うまでもなく早急に改善されるべきです。

このような状況から、平成28年3月に制定された第10次交通安全基本計画でも歩行者や自転車が多く通行する生活道路における安全の一層の確保が重要とされています。

その実現のためには、交通事故の発生地域、場所、形態等を分析し、よりきめ細かな対策を効果的かつ効率的に実施していく必要があると指摘されています。

次に、生活道路の交通安全確保について、効果をあげている事例を紹介します。

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事例①【緊急対策】松阪市(三重県)

松阪市(三重県)は平成22年に交通事故死者数が人口10万人以上の都市で全国ワースト1位となったことから緊急対策事業を実施しました。具体的には、市内445自治会を対象に交差点等の危険箇所を掲載した“ヒヤリハット地図”の作成、危険箇所へ向けた路面標示シートの設置、高齢者を対象とした交通安全教室開催等です。

ヒヤリハット地図は、各地域で危険箇所をピックアップしてもらうことで、地域住民全体で危険箇所への認識を深めることができたと同時に、交通安全意識の高揚を図ることができました。

路面標示シートは市で作成し、配布しました。地域住民に飛び出しが多い箇所や細い路地などに設置してもらい、危険箇所である認識を高め、交通事故防止を図りました。

そのほか、市で作成した交通安全のぼり旗の地域住民による設置、高齢者を対象とした交通安全教室の開催、反射リストバンド配布なども集中的に実施しました。

こうした取り組みにより、平成22年には21件だった交通死亡事故件数は平成30年には6件に減少しました。

事例②【交通安全基金】東松山市(埼玉県)

東松山市(埼玉県)は子どもたちを事故から守るため、市民・企業・行政が共同で出資する「子ども安心安全基金~虹色ファンド」を設置し、交通安全対策を含む7つのテーマに基づく安全・安心確保の取り組みを実施しました。

虹色ファンドは、次の3つの取り組みから構成される仕組みです。

①市は毎年1,000万円を5年間積み立てる
②市民・企業からの出資(寄附)金を5年間積み立てる
③市は、市民・企業からの出資(寄附)金額と同額を「マッチングギフト」として翌年度に上乗せして積み立てる

短期集中的な投資で成果をあげるため、ファンドの開催時期は平成24年度から同28年度に限定しました。

基金を原資として実施した安全安心のための事業概要は次の7つです。

①交通安全対策事業(防護柵設置・交通安全教育等)
②防犯・事故防止対策事業(防犯カメラ・安全マップ等)
③施設等安全点検事業(公園設備・施設危険個所点検、修繕等)
④地域安全情報提供事業(メール一斉配信・災害危険情報等)
⑤見守り活動支援事業(見守り隊・自主防犯活動等)
⑥世代間交流事業(地域寺子屋・食育・昔の遊び講座等)
⑦その他安心安全に資する事業

基金による総事業費は、平成24年度は1,096 万7,416円、25年度は1,711万629円、26年度は1,576万7,394円、27年度は1,518万1,295円。これにより、路面標示の早期対応やオリジナル看板の作成等、これまで実施できていなかった取り組みが実現しました。

基金は平成29年6月をもって終了しましたが、一部事業については一般財源により継続されています。

事例③【働き盛り対象の啓発】世田谷区(東京都)

世田谷区(東京都)では、平成23年度の区内の交通事故や自転車事故件数がともに都内ワースト1位となっていました。また、自転車関与率も 39.1%と、全国平均20.8%のほぼ2倍の水準に達していました。自転車事故件数を年齢別で見ると20~40歳代が多く、全体の 60%以上を占めていました。

これに対し世田谷区では、平成24年4月に自転車に乗る際の心構えを示した「世田谷区民自転車利用憲章」を制定したものの、同憲章の認知度が11.4%と低いことが判明します。これをうけて、区の事業と接する機会の少ない20~40歳代に対し、区内事業者、区内大学、子育て世帯の3つを主なターゲットとして、自転車安全利用啓発に重点的に取り組むこととしました。

具体的には、次のような特徴的な取り組みを行いました。

①自転車安全利用推進員の育成・支援
区民が自主的に自転車安全利用啓発を進めるための仕組みです。育成講習を受け、活動プランを提出した推進員が講習等を企画実施し、区が講師を務める等の支援をおこないます。

②小学校での交通事故再現型交通安全教室の実施
PTAの要望により実施します。授業の枠以外で実施、高学年のみを対象、低学年は保護者同伴、家庭での振り返りを求めるなど、体験の消化に特に配慮しています。

③自転車実技教室等を通じた交通安全意識の向上
自転車安全利用推進員の自転車NPOが主催するスロープ等を設置した自転車実技教室などの中で、交通安全について学びます。同伴の保護者も対象です。

④地域が主体となって定める自転車ローカル・ルール
「自分たちで決めたルールだから、自分たちが率先して守り広める」との考えの下、二子玉川で「たまチャリルール」を制定。キャンペーン等も地域主体で実施しました。

⑤体感を通じて学ぶ体験研修「初めてのママちゃり」
チャイルドシート2脚付自転車に子どもの体重分のおもりを実際に乗せ、押し歩き等の体験を通じて安全な運転のコツや注意点を学ぶ研修です。子育て支援イベント等で実施しました。

⑥交通安全を家庭につなぐ「交通安全シート」の活用
その場限りになりがちな交通安全教室について、終了後に児童に誓いの言葉を書かせ定着を図るとともに、保護者へのメッセージとして家庭教育につなげています。

⑦幼児向け交通安全教室の試行
交通安全NPO(演劇経験者)が、全身のアクションで幼児の関心を惹き付けつつ、横断歩道の渡り方等を模擬的に体験しながら学ぶ内容です。

こうした一連の活用により、平成24年と平成28年を比較して、自転車事故件数は30%以上減少しました。また、交通安全に対する意識の高まり(講習受講者アンケート等により把握)、自転車・自動車の運転マナーの向上(講習受講者アンケート等により把握)がはかられたほか、小学校での地域ぐるみの交通事故再現型交通安全教室を開催するなど、小学校PTA(保護者)の中から非常に意欲的な取り組むも生まれてきています。

世田谷区では「区の交通事故・自転車事故の現況を説明し、課題意識を共有した上で、それぞれの強みを活かしてできることを提案し、実施の中で手応えを感じてもらったことが大きな要因」だと考えています。

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<参照元>(最終閲覧日:2019年4月24日)
内閣府 特集「道路交通における新たな目標への挑戦」、  内閣府 第10次交通安全基本計画案 概要、  国土交通省 生活道路の交通安全確保に関する地方自治体等の施策の実態調査 報告書    等

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