ナショナルサイクルルートの概要
ナショナルサイクルルートとは、「日本を代表し、世界に誇りうるサイクリングルート」を国が認定する制度です。2017年5月に施行された「自転車活用推進法」に基づき、全国で自転車活用の推進計画が進められています。その一環として、各地の新たな観光価値の創造や地域創生を図るために創設されたのが、ナショナルサイクルルートの制度です。走行環境の整った魅力的なルートであることなどの一定の要件を満たしたサイクリングルートが、審査によってナショナルサイクルルートに指定されます。
現在、第1次ナショナルサイクルルートとして「つくば霞ヶ浦りんりんロード(茨城県)」「ビワイチ(琵琶湖岸1周・滋賀県)」「しまなみ海道サイクリングロード(広島県~愛媛県)」の3つが選定されています。将来的には全国ネットワーク構想が検討されており、国内外に積極的にPRを行っていく見通しです。
自転車活用推進法とは
ナショナルサイクルルートの根幹となる法律が、2017年5月1日に施行された「自転車活用推進法」です。環境に影響を及ぼす二酸化炭素などを排出せず、かつ健康増進の効果も期待できることから、国は自転車の活用を推進しています。
この法律により、各都道府県・市区町村は目標および講ずべき法制上・財政上の措置などを定めた「自転車活用推進計画」を国会に報告するとともに、住民の理解を深め、協力を得るように努めることが責務として定められています。
今回ナショナルサイクルルートの制度が始まったことで、各地のサイクリングロードの整備やルール・マナーの啓もう、宿泊施設との連携などが進み、より充実した「自転車社会」の実現につながっていくことが期待されています。
第1次ナショナルサイクルルートの概要
現在、第1次ナショナルサイクルルートとして選定されている3つのルートについて説明します。
●つくば霞ヶ浦りんりんロード(茨城県)
延長 |
176km |
区間 |
JR岩瀬駅~JR土浦駅および霞ヶ浦湖岸一周 |
主な観光地・景勝地 |
筑波山・霞ケ浦・鹿島神宮・牛久大仏ほか |
つくば霞ヶ浦りんりんロードは、日本百名山の一つでもある筑波山と霞ケ浦を中心とした全長176kmのサイクリングコースです。筑波山を望む「旧筑波鉄道廃線敷」を活用したコース(約40km)は車が通らない上、元駅舎を活用した休憩所がいくつか点在するなど、初心者にも走りやすいコースとなっています。
茨城県の約35%の面積を占める霞ヶ浦は、湖岸道路が1周約125kmのサイクリングロードになっており、美しい湖面を眺めながらのサイクリングができます。今後は北浦周辺の環境整備も進め、コースの延伸を目指していく見通しです。
●ビワイチ(滋賀県)
延長 |
193km |
区間 |
琵琶湖岸一周 |
主な観光地・景勝地 |
琵琶湖・里坊・安土城跡・彦根城跡・草津宿・守山宿ほか |
ビワイチは、日本最大の湖「琵琶湖」を反時計回りに一周する、全長193kmのサイクリングコースです。一周を完全走破するだけでなく、琵琶湖大橋の北側(約150km)もしくは南側(約50km)だけを走ることもできますし、船を組み合わせたショートカットも可能となっています。
琵琶湖のほかにも、比叡山で修行を積んだ僧侶が隠居生活を送った里坊や、安土城跡・彦根城跡などの特別史跡、東海道の宿場町など、歴史的・文化的な名所も楽しめる点が魅力です。また、琵琶湖の東側を走る近江鉄道では、車内に自転車を持ち込める「サイクルトレイン」を利用できます。
●しまなみ海道サイクリングロード(広島県~愛媛県)
延長 |
70km |
区間 |
JR尾道駅(広島県)~サンライズ糸山(愛媛県) |
主な観光地・景勝地 |
尾道・瀬戸内海の島々・村上海賊の史跡・資料館ほか |
しまなみ海道サイクリングロードは、広島県尾道市と愛媛県今治市を結ぶ全長70kmのサイクリングコースです。日本初の海峡を横断するサイクリングルートで、尾道から向島、因島、生口島、大三島、伯方島、大島と続き、今治市に入ります。瀬戸内海の島々と、それらを結ぶ橋の造形美を楽しめる稀有なコースで、海外のサイクリストからも人気です。また、日本遺産にも認定された「村上海賊」に関する史跡や資料館、名物「海賊むすび」なども楽しめます。
第1次ナショナルサイクルルートは以上3ルートですが、今後もさらに審査を進め、全国各地の魅力的なルートが選定されていく予定です。たとえば、千葉県銚子市から神奈川、静岡、愛知、三重を通り、和歌山県和歌山市まで続く全長1,400kmの「太平洋岸自転車道」については、2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでの環境整備を目指して、専門の協議会(太平洋岸自転車道ナショナルサイクルルート指定推進協議会)が開催されています。
ナショナルサイクルルートの指定要件
ナショナルサイクルルートは、「ルート設定」「走行環境」「受入環境」「情報発信」「取組体制」の5つの観点から、以下のような指定要件が設定されています。
ルート設定 |
サイクルツーリズムの推進に資する魅力的で安全なルートであること |
走行環境 |
・誰もが安全・快適に走行できる環境を備えていること
・誰もが迷わず安心して走行できる環境を備えていること
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受入環境 |
・多様な交通手段に対応したゲートウェイが整備されていること
・いつでも休憩できる環境を備えていること
・ルート沿いに自転車を運搬しながら移動可能な環境を備えていること
・サイクリストが安心して宿泊可能な環境を備えていること
・地域の魅力を満喫でき、地域振興にも寄与する環境を備えていること
・自転車のトラブルに対応できる環境を備えていること
・緊急時のサポートが得られる環境を備えていること
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情報発信 |
誰もがどこでも容易に情報が得られる環境を備えていること |
取組体制 |
官民連携によるサイクリング環境の水準維持等に必要な取組体制が確立されていること |
さらに細かい要件として、「ルートの延長がおおむね100km以上であること(島しょ部を除く)」などの必須項目や、「急勾配が連続する区間を避けたルートであること」など、満たしていることが望ましいとされる奨励項目があります。
指定手続き・フォローアップ
ナショナルサイクルルートの指定手続きは、以下の手順で進められます。
1 事務局による候補ルートの選定
2 第三者委員会による審査
3 本部長による指定
4 ロゴマークの設置・サイクリング環境の水準維持などの取り組み
指定後も、状況確認や新規追加ルートの確認などのフォローアップが3~5年ごとに実施されます。指定要件を満たさなくなった場合は、指定が取り消されることもあります。
ナショナルサイクルルートまとめ
ナショナルサイクルルートは、環境保護・健康増進・地方創生・観光対策など複数の利点が期待できる注目の制度です。今後も全国各地の候補ルートの審査が進められ、第2次、第3次と指定が続いていくものと思われます。
ルートに指定されるかどうかに関わらず、各自治体では「自転車活用推進法」に基づいた自転車の推進事業を進める必要があります。各地の実情に合わせたサイクリングロードの整備や、「自転車の駅」の配置・サイクルイベントの開催・レンタサイクルの導入・自転車の通行ルールの周知など、さまざまな取り組みを行うことが可能です。自転車の活用は災害時のメリットも大きいため、わが国にとって重要な施策としてさらに推進が進められていくことが期待されます。