妊娠・出産・子育て支援PHRモデルの概要
妊娠・出産・子育て支援PHRモデルは、妊娠・出産・子育て関連において、医療や介護、健康の個人データを集約し、ネットワークでつないで医療機関に提供し、母子に対する健康支援などへ活用するものです。各自治体が保有している乳幼児健診や予防接種関連のデータ、産科医院で受診した妊婦健診関連のデータのほか、お薬手帳のデータ、妊婦本人のバイタルデータなどが含まれます。
収集されたデータは、母子に対する効果的で適切な健康支援のみならず、緊急時の迅速な救急搬送や応急措置にも活かされます。さらにデータを二次使用することで、疾病予防研究にも活用されるなど、多角的で効果的なデータ活用が可能です。
妊娠・出産・子育て支援PHRモデルの目的および背景
政府が早急に取り組むべき重要分野のひとつとして、子育て支援を挙げています。近年ではデータの利活用の基盤が整備されつつあり、今後は全国各地への利活用拡大が見込まれている状況です。
その背景には、少子化・出生率の低下を少しでも食い止める目的があります。本人同意の上で妊娠・出産・子育て関連のデータを利用し、各個人の状況に応じたサービス提供によって子育て負担を軽減する対策が必要だと考えられているのです。
「ICT地域活性化大賞2017」では、信頼できる知人や友人とつながって利用できる「子育てシェア」を運営しているAsMamaが大賞/総理大臣賞を受賞しました。ICTを活用した取り組みも近年高まっており、今後政府としても積極的にICTを活用した子育て支援強化を図ろうと考えています。
地域IoT実装推進ロードマップにおける妊娠・出産・子育て支援PHRモデルの概要
政府は地域IoT実装推進ロードマップを作成し、2016年度から5か年計画で取り組んでいます。その中で、子育てに関する各家庭の負担を少しでも軽減することも掲げられています。
開発・展開・促進を進め、最終的な2020年度の目標としては、実装する主体が20団体、利用者は3万人です。実装主体とは、自治体やPHRサービスを展開する民間事業者ですが、各地域での積極的な取り組みが欠かせません。政府は、目指すべき目標を達成することで、子育て不安の軽減および安心な子育てにつながると考えています。
妊娠・出産・子育て支援以外のPHRサービスモデル
近年では、クラウドやモバイルなどが急速に普及し、PHRの活用もされるようになってきました。日本では日本研究医療開発機構(AMED)の研究開発事業において、2016年度から2018年度の3年間で、妊娠・出産・子育て分野以外にも、以下のような分野の開発などを実施しています。
・疾病・介護予防PHRモデル
・生活習慣病重症化予防PHRモデル
・医療・介護予防PHRモデル
疾病・介護予防PHRモデルでは、介護保険や健康診断データ、個人のバイタルデータを活用するものです。その結果、個人の介護リスクスコアの評価によってそれぞれに応じた介護予防サービスを提供できるように整備します。
生活習慣病重症化予防PHRモデルでは、保険者が保有している特定健診データや、病院などから取得する新設・検査データ、薬局などから取得する調剤データ、腕や服などにつけられるウェアラブル端末などから取得するバイタルデータを活用するものです。疾病管理事業者のサービスとうまく組み合わせることにより、糖尿病の重症化を予防することが期待されます。
医療・介護連携PHRモデルでは、かかりつけ連携手帳を電子化して、各種データを利用します。引越しや震災などの際、転居先・避難先などでデータを提示することにより、適切な診療や介護サービスができるようにするものです。
群馬県前橋市の妊娠・出産・子育て支援PHRモデル事業
妊娠・出産・子育て支援PHRモデルとして、群馬県前橋市の取り組みを例にして見てみましょう。前橋市は2016年度から2018年度まで、「妊娠・出産・子育て支援PHRモデル」に取り組みました。本人から同意・認証を受け、マイナンバーカードを使って、妊婦健診など妊娠・出産・子育て関連に必要な各種データを集約しました。
調剤データについては、既存の電子お薬手帳と認証連携する形でデータを共有することができます。一方でユーザーは、市が提供する母子手帳アプリを活用できます。健診や予防接種データなどの閲覧ができるだけでなく、子どもの成長記録も入力できるようになっています。
さらに、子どもの身長・体重・産後の問診情報などを研究機関がデータ分析することで、成育状況に応じた適切な情報を提供できるよう整備されます。成長曲線を把握して子どもの成育状況を分析、母親に関しては産後うつリスクなどの面から分析するものです。子育てに関して養育者のストレス軽減につながると期待されます。
この他、個別データを活用することで、万一の救急搬送時などにも生かすことができるようにしました。マイナンバーカードによる認証方式で、救急車に搭載されている専用タブレットからPHRを閲覧できるしくみです。本人の意識状態などによって説明できない場合も、迅速で効果的な応急措置が実現しました。
PHRに必要なデータ項目は、日本小児科学会、日本小児保健協会、日本小児科医会、日本小児期外科系関連学会協議会と協力して最低限のミニマムデータを検討しました。
前橋市における母親約40名のへのアンケート結果では、妊娠・出産・子育て支援PHRは育児に役立つと回答した人が80%にものぼりました。この他、2018年度に約250名の母親に対して行なった実証では、PHR利用者は非利用者と比べて、3月末の時点で任意の妊婦健診における受診率が約20%も高かったことがわかっています。
「情報通信技術利活用事業費補助金(地域IoT実装推進事業)」について
地域IoT実装推進ロードマップの実証・取り組みなどをもとにした「分野別モデル」の普及・展開を目的に、2019年度予算として「情報通信技術利活用事業費補助金(地域IoT実装推進事業)」が公募されました。
公募された要件のなかには妊娠・出産・子育て支援PHRモデルも含まれており、横展開事業であることとされています。子育て支援プラットフォームでの提案・採択候補に入っている申請も複数あります。補助金をうまく活用することで、地域で子育て支援の強化にもつながるでしょう。