「全国広報コンクール」とは
「全国広報コンクール」(以下、コンクール)は地方自治体等のPR・広報活動の向上に寄与することを目的に、自治体が発行する広報誌などの審査を行い、優秀団体を表彰する日本広報協会主催の事業です。
平成30年の同コンクール審査講評によれば、現在の自治体の主要課題である少子高齢化による人口減少に対応し、観光誘致・移住・定住促進・地域ブランド確立などの重要な政策の実効性をサポートするうえで、自治体PRの役割は大きくなっています。
自治体PRの重要ポイント
自治体PR企画の重要なポイントについて、平成30年広報コンクール の講評のなかで河井孝仁東海大学教授は「最も重要なことは、目的の明確化とそれを実現するためのロジックモデル(論理的説明力)。なぜ、その目的が設定されたのか、その手段がなぜ目的実現に役立つのかが的確に説明されなければならず、そのためには段階的な成果指標の設定とレビューが求められます」と指摘しています。
また、河井教授は「自治体PRの大きな役割として地域の参画者や担い手をどれだけ育てたかという視点も重要」とアドバイスしています。
PR企画のトレンド
自治体PRの傾向について、広報コンサルタントの澤茂樹さんは平成30年広報コンクールの講評で、次の3点を挙げています。
①地域の食材資源の活用とその特色づくりに腐心していること。
②シニア層の活用や地域参加の促進に力作が見られる一方で、若年層の地域愛を少年期から育んでいこうという長期的視点を持った展開。
③映像作成とそれに組み合わせたSNSのフル活用。
では、具体的にどのような自治体PRがこれからの“お手本”となるのでしょうか。次に、平成30年全国広報コンクールの受賞作品から各自治体の事例を紹介します。
事例①【住民にスポット】内子町(愛媛県)
平成30年全国広報コンクール総理大臣賞を受賞した「広報うちこ」は、内子町(愛媛県)のふるさと情報誌。地域の子供たちが将来の夢を語る『ぼくの夢わたしの夢』、その月の町のニュース、内子町の特色を紹介する『うちこ往来』など、住民の声や内子町の特徴や風土などを分かりやすく情報発信しています。オールカラーで、老若男女の幅広い層の内子町の町民が登場しています。
総理大臣賞を受賞した2017年12月号は『地域づくりの源泉』と題して、人口約300人の同町石畳地区の地域づくりを特集しています。審査員からは「人と地域が織りなすまちづくりのドラマがうまく表現されていて、その醍醐味が伝わる」「他のコーナーでも住民にスポットを当て、地域に寄り添った誌面」と評価されました。
「広報うちこ」は、町にあふれる魅力や笑顔を発信しながら町の住民と町役場の歴代担当者が育ててきた、ふるさとの香りがする広報紙です。そんな「広報うちこ」のコンセプトを象徴しているのが、総理大臣賞を受賞した2017年12月号のプロローグ『この子のために』と題した内子町内に居住する河野さんのエッセイです。以下に、抜粋してその内容を紹介します。
エッセイは「石畳地区に嫁いで来て3年―― 『何もないとこでごめん』 と夫は言うけれど、ここには都会にない、 大切なものがたくさんあると思う。」との書き出しからはじまり、「小さな集落だけど、 みんな生き生きとして素敵。 私も、ここでしかできない子育てをして、 素敵な母になりたい――。」と結ばれています。
内子町に住むことの想いや将来への希望にあふれたエッセイです。
事例②【官民連携でPR】静岡県
平成30年全国広報コンクール総務大臣賞を受賞した静岡県の「静岡どぼくらぶ」は、県内の建設産業における労働力不足が危機的状況にあることから、建設産業を盛り上げ、イメージアップを図るために立ち上げた、静岡県の土木産業に携わる者なら誰でも参加できる情報プラットフォームです。動画のほかオリジナルソングなども活用し、官民連携で県内建設産業を盛り上げています。
動画は若者をターゲットに、社会インフラ整備の現場を直観的に伝える内容です。『どぼくらぶ編』では「災害から静岡県を守る」「みんなの生活をつくる」「産業文化をつなぐ」といった3つのテーマで、生活に欠かせない基盤整備に励む土木現場の人々の働く姿を紹介しています。
オリジナルソングの『どぼくらぶソング』は土木の魅力を伝える歌詞と明るくマーチ風のメロディで、土木関連イベントのBGMとして利用されています。通信カラオケ企業との連携でカラオケにも配信されています。
「静岡どぼくらぶ」の受賞理由について、前出の河井教授は「自治体広報部局の役割に事業部局の広報力を高めることがある。この企画は交通基盤部の企画として応募され、広報部局の十分な支援があったことは重要な意義を持っている」「地域の担い手を作っていくことも広報部局の役割であり、『静岡どぼくらぶ』は多様な民間事業者の参加を実現していることは高く評価できる」としています。
クオリティーが高くなっている
平成30年全国広報コンクールの審査講評「審査を終えて」に寄稿したエディターの池田克樹さんは、「この10年ほどの間で、政策広報やシティプロモーションの役割が重要視されるようになり、広報のクオリティーも次第に高くなっている」「企画書の内容もさることながら、ネットメディアを活用した映像や音楽の使い方なども多彩で、表現力あふれるユニークな作品が多い」と傾向を分析しています。
PRは発信するだけで終わりではありません。情報を得た関係者がどのようになってほしいのか、最終的な目的を明確にしながらPR手段を考える広報が、これからの自治体PRのあり方だと言えそうです。
<参照元>(最終閲覧日:2019年4月24日)
川崎市 平成26年度度政策課題研究報告書 「メディアを活用した効果的な広報戦略」
内子町 「広報うちこ」2017年12月号 等