遠隔診療の現在
厚生労働省として遠隔診療は、今後重要となると認識されています。交通手段が少なく離島や病院が遠い場所に住む患者にとって便利になるということや、医療の地域差がなくなるということが理由として挙げられています。
遠隔でできる医療作業は次の4点です。
・遠隔病理診断(テレパソロジー)
手術や診断を遠隔で実施するものです。患者を担当している医師が、顕微鏡で確認している映像を専門医に送信します。受信した専門医が映像を確認し手術する部分などの指示を行い、その指示を受けた現地の担当医が手術を進めるという流れです。
・遠隔画像診断(テレラジオロジー)
患者を診察する医師が、病気の診断などに用いるX線写真やMR画像を遠隔にいる専門医に送信し、病気や症状などの診断を行います。
・遠隔相談(テレコンサルテーション)
患者が遠方にいる医師に対してテレビ電話などで映像や音声を通し、症状について相談する方法です。患者は自宅にいながら地域病院の担当医と離れた場所の主治医、それぞれと通信します。
・在宅医療(テレケア)
患者の在宅に測定機能が付いた端末を設置し、自宅に居ながらにして検査を行えるものです。端末を使って検査した数値を遠方にいる医師に送信し、医師側は数値を元に治療に向けた指導ができます。
遠隔診療推進のあゆみ
○首相官邸_オンライン医療の推進について(平成30年10月)
遠隔診療は、従来は交通手段が少ない地域の患者に向けて使用する技術であり、対面診療を補完するものでした。しかし、情報技術の発達により現場での需要が高くなってきたことにより、平成30年に「オンライン診療の適切な実施に関する方針」を発表しました。
内容として盛り込まれているのは、大きく2点が挙げられます。ひとつは、薬剤師と対面でなければ薬の販売や指導ができないため、テレビ電話などオンラインでの販売や指導を可能にするという点です。もうひとつは、薬を購入するために必要な処方箋がデジタルでの作成や記録が簡単にできるガイドラインではないため、見直しを図るものです。
○厚生労働省_横断的事項(その5)(令和元年12月)
オンラインで薬剤師が薬の服用や保管の指導をできるようにするため、薬機法の改正と診療報酬について改正を目指しました。
・薬機法の改正
改正前は薬を渡す際の指導が一定条件の中でしかオンラインでできなかったため、オンライン診療であることを記載すれば服薬指導を受けられるように改正を目指すものです。
・診療報酬
患者の薬剤服用の履歴を確認して指導する際、そして家にいる患者に対して薬の指導をする際の指導料を加算するという内容です。
遠隔診療の実証事例
○愛知県【国家戦略特区への提案(近未来技術実証プロジェクト)】
愛知県では、平成27年1月15日に内閣府から提案募集のあった「近未来技術実証特区」で、遠隔によるリハビリの実証実験プロジェクトを提案しました。今後高齢者が増加することが予想されている中で、自宅でも医療や介護を受けられると期待されています。
・リハビリ遠隔医療実証実験
自宅でリハビリ体操をしている患者を医療機関にいる医師が観察・指導します。通信をする端末には血圧など体の状況を測定する機能が搭載されており、医師は遠方にいながら患者の数値をチェックすることが可能です。課題としては、遠隔診療についてはリハビリの適用がされていないため、遠隔医療の範囲を緩和してもらう必要があります。
・リハビリ支援ロボット実証実験
医療の現場や患者からニーズのある「リハビリをサポートするロボット」を、市場で流通するように目指すものです。しかし、新たに現場での研究実施の結果をもとした承認後に治験が必要で、現場での研究したデータが治験で活用できないために開発に時間がかかるという課題が挙げられました。
○総務省の遠隔医療に関する取組
総務省では、厚生労働省発表の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を元に、医師・患者・そして通信システム事業者と協力し、安全で効果的に実施できるよう実証を行いました。
実証を行ったのは、それぞれ異なる性質をもった4つの地域です。
・福岡県福岡市
都市部として、オンライン診療が適用されるパターンを洗い出し、医師のオンライン診療から薬の処方や指導までを一貫して検証しました。
・愛知県名古屋市
都市部として、職場との連携を想定した実証です。会社に勤める世代の中から生活習慣病である糖尿病の慢性疾患がある患者を対象に、仕事と医療を両立させた検証となっています。
・茨城県つくば市
通院が必要にもかかわらず交通手段が少なく、定期的に診察を受けるのが困難な地方の患者を想定した検証です。オンライン診療を活用し、地域の訪問看護などの連携がどう協力できるかといった点も含めています。
・神奈川県藤沢市
介護施設と病院をつなぐ地方ケースとしての検証です。介護施設で血圧計などの測定をし、治療を受けている患者の状況を通信機器で病院に伝えています。
○実証の結果
・準備や環境について
オンライン診療の実施として、一部通信状況によって伝える映像に問題が発生することがあったものの、基本的には画質や音声などの制度は問題がないとの評価でした。
・メリット
身体の状況や時間の問題から病院に行くのが難しい患者の負担を減らすことができた、経過観察をしなければいけない患者を細かく確認できるなどのメリットが挙げられました。また、通常の対面診察よりも医師と患者のコミュニケーションが増えて安心感が高まった、医師と患者の時間的な効率が良くなったなどもあります。
・今後の課題
通信機器を用意するために、患者と医師どちら側も負担が大きいことが課題として挙がりました。また、緊急時などオンライン診療の対象範囲外となっている部分も範囲に含めるべきとの現場の意見もあります。
遠隔診療についてのアンケート
従来にはなかったオンライン診療科・オンライン医学管理課の新設にあたり、厚生労働省では病院や診療所で実施状況や考えなどについてアンケートを実施しています。
基本は対面を原則としてオンライン診療は補完として行うべきという回答が、病院では59.5%、診療所では65.1%となりました。また、調査をした医療機関の患者で、オンライン診療を受けたことがないと回答したのは91.3%にものぼりました。受けた経験がある患者の年齢は50代がもっとも多く、24.1%でした。直接患部を触ることができないオンライン診療を受けた際に、充分な診察を受けられないと感じた患者の割合は14.9%で、充分と感じた患者は73.6%となっています。今後の診療についての質問には、オンライン診察した経験がある患者はオンライン診察を続けたいという回答が55.2%、対面診療を受けたいとの回答は6.9%でした。また、反対にオンライン診察の経験がない患者はオンライン診察を続けたいが4.8%、対面診療を受けたいが52.2%です。
遠隔診療の適切な実施に関する指針
厚生労働省が平成30年に発表した「オンライン診療の適切な実施に関する指針」において、次のことを掲げています。
・患者の日常生活情報も得ることにより、医療の質の向上に結びつける
・医療が必要な患者がより医療を受けやすい機会をつくる
・患者が能動的になることにより治療の効果をより高いものとするのが目的
また、オンライン診療における基本理念や考えも掲載されています。初診は原則として直接対面を行い、オンライン診療を行うことが望ましくないと判断される際には対面にするべきであるというのが厚生労働省の考え方です。医師と患者がオンライン診察を行う際の場所も指針があり、医師は医療施設と同様の設備がある場所とされています。患者も自宅などでオンライン診療を受けられる可能はあるものの、基本的には治療や療養できる施設とされています。