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災害大国と呼ばれる日本では、国や自治体をあげて災害対策が行われています。
非常時にすぐに行動がとれるよう、災害対策基本法などの法整備によっても減災が講じられています。
災害発生時に国と自治体が一丸となって地域住民を守れるよう、ここでは災害対策の基礎知識に加え、災害時に自治体に求められている役割や、実際に災害対策を行っている自治体の事例を紹介します。
自治体の災害対策とは
日本は災害が多く、政府の地震調査研究推進本部によれば、今後30年間に大規模な地震が起こる確率は関東地方で60%を超えるという公表もされています。
もちろん災害は地震だけでなく、台風、津波、水害、竜巻、火山噴火など多岐にわたります。自然災害については、どんなに技術が発達したとしても、人間の手ではどうにもできない問題です。このような、いつ発生するかわからない災害に備えて、国民の命、そして財産を保護するために災害対策基本法があります。
今回は、具体的に自治体の災害対策とはどのようなものなのか、自治体の災害対策の事例もあげながら説明します。
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災害対策基本法とは
災害対策基本法は、防災計画の作成、災害時の応急対策、災害予防などの役割を明確にすることで、国民の命と財産を災害から保護する法律です。いつ起こるかわからない万が一の事態に備えて、計画的に国民の命を守るため1961年(昭和36年)に制定されました。
この法律に基づいて作られた国の防災計画は「防災基本計画」と呼ばれます。さらに、指定公共機関の「防災業務計画」や、地方自治体の「地域防災計画」といった計画も作成されています。
災害対策基本法の制定は、1959年9月の伊勢湾台風がきっかけとなっています。この台風では死者・行方不明者が5,000人以上、そして負傷者は4万人近くとなり、当時は戦後最大の災害と言われていました。
災害被害を少しでも抑えるために防災意識が高まり、災害基本法の条文で、国、都道府県、市町村、さらには住民等それぞれの立場で防災への取り組みを行うことが義務付けられたのです。
また、電力、水道、ガス、通信などの生活インフラ、鉄道などの交通インフラ、生命維持に必要な物資の流通にかかわる機関などは「指定公共機関」に位置付けられ、防災業務計画の作成や災害予防の実施、災害発生時の災害応急対策の実施などの責務が与えられています。
災害対策基本法改正案とは
災害対策基本法は、実情に合わせ毎年少しずつ改定が行われています。
日本は昔から台風や地震などの災害が多く発生しています。その教訓を法律に反映することで、非常時に適切な行動がとれるよう、平常時から意識を高めて被害を少しでも少なくすることを狙いとしています。
特に2011年から2019年の8年間で大幅な改正が行われていますが、これにも東日本大震災をはじめとしたさまざまな実例から得た教訓が反映されています。
改正案のポイントとしては、以下の通りです。
- プッシュ型支援の導入
- 住民等の円滑かつ安全な避難の確保
- 被災者保護対策の改善
- 平素からの防災への取り組みの強化
地域や市区町村を中心として行っていた防災対策ですが、緊急時に国や自治体が代行する機能が拡大されています。2012年の改正までは、災害時の救援活動は原則各自治体が行うものとされており、国は被災した自治体から要請を受けてから支援を行う流れでした。
しかし東日本大震災では、市役所庁舎ごと津波に流されるなど自治体そのものが機能しないケースもあったことから、2012年改正ではプッシュ型支援が導入されました。
これにより、被災した自治体からの要請を待たずに、国が物資を調達し自治体への緊急輸送を行うことができます。
国が自治体の災害応急対策を応援し、救助や救援活動を妨げるような障害物の撤去などを代行する仕組み、平素からの防災への取り組み強化もされています。
自治体の役割
災害対策基本法の改正によって、自治体には災害時と平常時で役割が与えられました。
それぞれについて解説します。
災害時の対応
自治体が災害時に対応すべき対策は、以下のようなものです。
- 災害対応体制の実効性の確保
- 情報の収集、発信と広報の円滑化
- 避難対策
- 避難所等における生活環境の確保
- 応援受入れ態勢の確保
- ボランティアとの連携・協働
- 生活再建支援
- 災害救助法の適用
- 災害廃棄物対策
災害の規模にもよりますが、対応が長期化することも考えられます。独立した災害対策本部事務室の確保をし、全庁で実施体制を確保する必要があるでしょう。
また、正しい情報収集は必須です。これまでの災害時にも、不安な状況下で根拠のないうわさが本当のことのように伝播する事態が起こっています。自治体では、重要で正確な情報を確実に受信、そして発信できる機器を早急に確保していくことが求められます。それらの情報を分析し広報することと、住民からの問い合わせ窓口を一元化することも大切です。
さらに、避難勧告や指示の発令は必要に応じて遅れることなく行う必要があります。避難所での生活環境の確保も自治体の重要な役割となるでしょう。
自衛隊など応援の受け入れ体制や、ボランティアの受け入れも自治体が把握して策定していく必要があります。とにかく応援が欲しい、というのでは本当に応援を必要とする場所に救援を送ることはできません。人命にかかわることですから、災害対策業務の把握や整理を行い、スムーズな連携ができるよう策定が必要です。
平常時の対応
災害は起きた時だけではなく、起きる前の対策、つまり平常時の対応も重要です。自然災害はいつ起こるかわかりませんが、万が一に備えて準備しておくことで、減災を行うことも可能だからです。平常時には、以下のような対策が求められるでしょう。
- 避難所と避難場所の確保
- 防災マップの作成
- 定期的な防災会議
- 避難所の備蓄
まずは避難所の確保です。「避難場所」と「避難所」は混同されがちですが、緊急時に一時避難する場所が「避難場所」、そして一定期間の間滞在する場所を「避難所」と区別します。多くの市区町村では、これまで区別されずにいましたが、生活環境を満たす施設をあらかじめ指定することが提案されています。
また、高齢者や障害者など、災害時に避難する際に配慮を必要とする人の名簿をあらかじめ作成しておき、本人の了解を得たうえで消防や民生委員などの関係者に情報提供をしておくことも大切です。さらに、防災マップを作成しておき、住民に普段から、避難場所やルートを周知しておくようにしましょう。
定期的な防災会議を行うことで、いざという時にすぐにアクションが起こせます。異動があった場合でも、定期的に会議を行っていれば、担当する人への情報などを最新の状態に保つこともできます。また、避難所の備蓄の消費期限などのチェックを怠らないことも大切です。せっかく備蓄していても、いざという時に使えないのでは意味がありません。
自治体の災害対策の事例
実際に、自治体はどのように災害対策を行っているのでしょうか。その事例を3つご紹介します。
1.山梨県
山梨県は、東日本大震災や熊本地震での教訓を踏まえ、平成29年度に県内全域の避難所運営マニュアルの策定支援を行っています。また、平成30年度からは、県をあげて防災対策を将来にわたり総合的に推進していくために防災基本条例を施行しています。
地域防災計画の策定支援で、地域の危険箇所、災害リスク、避難時に配慮すべき人に対する支援方法など、市町村を中心とした普及を図りました。地域防災計画未策定地区には、県の有識者の紹介、相談対応など継続的に支援を行い、災害対策をしています。
地域住民への防災意識についてもフォーカスしています。例えば災害の備えや、発災時にとるべき行動を掲載したリーフレットを配布し、防災意識や知識を高める活動はそのひとつと言えます。
また防災シンポジウムでは、実際の災害を題材に山梨県で起こりうる災害について個人や地域でできる対策を事例発表や講演などを行います。これにより防災意識を高め、いざという時の災害に備えています。
2.長野県
長野県では、地域の特性に配慮した住民主導型の警戒避難体制の構築を掲げ、災害対策を行っています。自然に囲まれた地域であることで土砂災害の危険性もあり、災害時の要援護者への対応や避難の遅れなどが懸念されています。そのため、災害の予兆や避難場所の情報を個人個人が的確に把握していることが必要です。避難行動が適切にとれるよう、地域防災力向上に取り組んでいます。
住民懇談会はワークショップ形式で行われ、災害予兆現象や地域の危険箇所、そして避難場所等の整理を行い、地域の防災マップを作成しています。
自主避難基準や自主避難経路など地域住民が主体となり決定し、さらに市町村が作成したハザードマップを活用して避難訓練を実施しました。その地域の特性を熟知しているからこそわかる避難場所、避難経路を使用し、実際に避難を行うことで万が一の際も的確な避難を誘導するものです。
また、地域柄、土砂災害の対策に力を入れており、過去の災害についての実例から地域住民の啓発や住民主導型警戒避難体制構築作りをしています。
3.青森県
青森県では、東日本大震災や近年の集中豪雨などの経験から地震時における防災対策はもちろん、水害や土砂災害の防災対策を課題とし、防災・減災対策に取り組んでいます。
まず、避難所、避難経路について危険箇所対策事業を推進しています。
- 最適な避難場所、避難経路の確保
- 外部から避難場所への救援物資等の輸送手段の確保
- 役場から避難場所への経路の確保
無事に避難できることは大切ですが、避難所への輸送経路が確保できていなければ、備蓄がなくなる不安も抱えなければなりません。近年の災害では土砂崩れや川の氾濫などで道路が分断され、避難所が孤立しているというニュースを目にすることもありました。災害時の物流拠点の実態を調査し、救援物資支援を機能させることなど、輸送路の機能確保に向けた「防災物流インフラ強化計画」の策定が進められています。
また、役場と避難場所の経路が確保できていることで、発災時に自治体がさまざまなアクションを起こせます。災害の状況によっては、電話やネット環境も分断される恐れがあります。そのため実際に職員が役場と避難所を行き来できるような経路確保が重要となるでしょう。
まとめ
災害はいつ起こるかわかりません。発災した時に備え、平常時の対策も重要になります。自治体では、地域住民と協働し、避難場所や避難経路の確認、訓練などを行っています。また、災害が起き避難した後の救援物資の輸送路の確保なども、平常時に対策している事例もありました。
戦後最大の被害をもたらした東日本大震災の経験から、災害対策基本法の改正を行い、それまで地域や市区町村中心で行われてきた防災対策を、緊急時には国や自治体が代行するよう、機能を拡大させました。自然災害が起きたとしても、国、自治体が一丸となって減災できるように、実情に合わせ災害対策基本法は改正され続けているのです。
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