地方自治体の政策課題に対する取り組み一覧!地域が抱える問題点を解説【自治体事例の教科書】

政策課題とは?

政策課題とは、行政が対応すべき社会問題のことです。行政・自治体が政策によって問題解決を図る課題を意味します。
例えば「保育所に子どもを預けられず困っている親がいる」という問題も政策課題の1つです。政策課題をもとに「保育所を整備する」「2025年までに待機児童を0人にする」などの政策や政策目標を立てます。
「政策」と聞くと国が対応するイメージがありますが、現在は地方分権社会であるため身近な行政サービスは自治体が運営しており、自治体には政策の遂行能力が求められています。
政策課題の設定の流れは、次のとおりです。
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自治体にどのような問題があるか情報収集し、行政が対応すべき問題とそうでない問題に分けます。問題は住民からの要望や報道、職員による発見で見つかります。対象の問題を公共性・必要性の基準、アンケート調査等で検討を行い選定する流れです。
自治体の重要政策課題は?

多くの自治体が挙げる重要政策課題は「人口減少」と、都市部への労働力流出による「地域経済の縮小」です。
・人口減少
地方では人口減少・少子高齢化が深刻な課題となっており、多くの地域で生産年齢人口が減少しています。人口減少によって、労働力不足や中小企業経営者の後継者不足、税収減による行政サービスの質の低下、空き家の増加などさまざまな問題が生じます。
・地域経済の縮小
人口減少の影響もあり地域経済が縮小することも地方が抱える問題点です。経済が縮小すると労働の機会が減り、地域のサービスや文化の衰退の原因にもなります。各自治体ではこれらの課題を解決するために、若者雇用対策の充実や非正規雇用労働者の処遇改善、子育て環境の整備、移住支援などの対策を行っています。
自治体の政策課題への取り組み一覧

自治体は「高校生の通学費助成」や「アプリ・ガイドブックの作成」など、人口減少や防災・危機管理、農林水産をはじめさまざまな政策課題を解決するために多くの取り組みを行っています。
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それぞれの政策課題や問題点に対する自治体の主な取り組みは、次のとおりです。
1.人口減少対策
自治体名 |
課題 |
課題への取り組み |
詳細 |
鳥取県 |
子育て世帯の経済的負担や妊娠、出産、子育ての身体的・精神的負担 |
高校生の通学費助成や私立中学生・高校生の授業料補助、フリースクール等の通所費用支援などを行っています。また、産後ケア無償化や不妊検査費・人工授精の助成額及び対象者拡大などを行い子育ての身体的・精神的負担軽減を図っています。 |
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和歌山県 |
人口減少や後継者不足 |
意欲のある若者の移住推進のために後継者を求める事業主と移住者をマッチングする官民連携の体制でサポートを行います。また、商工会や事業引継ぎ支援センターなどとも連携して継業の支援や移住者定住促進を図っています。 |
2.商工・労働
自治体名 |
課題 |
課題への取り組み |
詳細 |
佐賀県 |
金融セクター寡占化により、金融機関の積極的な資金供給風土が根付きにくい |
クラウドファンディングの導入により資金調達チャネルの多様化を図ります。また、資金調達希望者による、銀行やVC、投資家向けのプレゼンテーション機会を提供し、資金の受け手と出し手のマッチング環境を形成しています。 |
クラウドファンディングの利活用に関する連携・協力協定締結先一覧 |
愛媛県 |
独自技術等を活用したものづくり、地域経済の活性化 |
愛知県独自のバイオマス資源(柑橘)を活用したセルロースナノファイバー製造技術等の研究、砥部焼の多層塗り技術、CNF製造装置の開発等県内ものづくり企業と連携し、調査研究や試作開発を行います。 |
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静岡県 |
マリンバイオテクノロジーを核としたイノベーションの促進 |
駿河湾などの海洋環境、海洋生物、静岡県の海洋資源を活用してマリンバイオテクノロジーによるイノベーションを促進しています。推進体制の整備や拠点機能の形成、海洋のネットワーク構築などを行います。 |
3.福祉・保健衛生
自治体名 |
課題 |
課題への取り組み |
詳細 |
大阪府 |
要介護認定率の高さと健康寿命の低迷 |
国立健康・栄養研究所と連携して作成した40歳からのフレイル(近い将来介護が必要になりやすい状態)予防プログラムによって健康づくりにつなげています。フレイルに該当する人は保健指導による運動や食事で予防を図ります。 |
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三重県 |
医師と看護師の確保と地域偏在 |
地域医療を担う県立病院と医学部等への進学者を多数輩出する県立高校を連携させています。病院の専門職が選んだ本を高校の図書館へ配置、病院や訪問医療・訪問看護の見学、講演などを行うことで医療について考える機会を創出しています。 |
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奈良県 |
出所者の社会復帰 |
出所者の社会復帰支援体制が十分でないことから、出所者を直接雇用する一般財団法人を設立し、住居の確保や職業訓練等を実施しています。また、出所者の相談に応じたり、社会的な教育も行ったりしています。 |
4.地域振興・まちづくり
自治体名 |
課題 |
課題への取り組み |
詳細 |
愛知県 |
有料道路の利便性向上、民間事業者に対する新たな事業機会の創出、効率的な管理運営 |
県の道路公社が管理する全9路線のうち8路線の有料道路を、公社管理道路運営権を設定して、民間事業者による公社管理道路運営事業を実施します。主な業務としては維持管理や運営業務、改築業務、附帯事業に係る業務、任意事業に係る業務です。 |
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栃木県 |
人口減少等による地域経済の衰退 |
公民連携のまちづくりを担う人材育成、多角的な視点や新たな発想によるまちづくり支援のための3年間研修プログラムを実施しています。プログラムでは、リノベーションまちづくりの専門家の指導の下、課題解決に向けてさまざまな取り組みを行います。 |
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長崎県 |
調和のとれた魅力ある都市景観の形成、複数実施中の都市開発プロジェクトの縦割り的な実施 |
長崎港周辺の整備や再開発など都市開発プロジェクトについて、専門家のアドバイスを受けながら横断的にデザイン調整を行うシステムを構築します。専門家会議メンバーと県、市で構成した会議にて、プロジェクトの進め方等に関して調整を行います。 |
5.環境対策
自治体名 |
課題 |
課題への取り組み |
詳細 |
東京都 |
温室効果ガス排出量やエネルギー消費量の削減 |
東京都地下水道局と民間企業の共同研究で、電力・燃料使用量が実質0、N₂O排出量を半減し、外部からの電力や燃料を必要としないエネルギー自立型焼却炉の開発をしています。 |
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神奈川県 |
火力発電等の集中型電源 |
火力発電等の集中型電源から太陽光発電等の分散型電源へ転換することでエネルギーの地産地消を図ります。太陽光発電を安く購入するために共同購入事業に取り組み、スケールメリットを活かしています。 |
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和歌山県 |
プラスチックごみの海洋流出 |
県全体でごみの散乱をさせない環境をつくるために、ごみの散乱防止に関する条例を施行しています。条例により、プラスチックを含むごみを捨てた人は県から原状回復を迫られ、命令に従わない場合は過料が発生します。 |
6.行財政改革
自治体名 |
課題 |
課題への取り組み |
詳細 |
東京都 |
情報公開の推進と透明化 |
開示請求や情報提供依頼に素早く対応できるよう公文書等をデータベース化して、検索やダウンロードができる東京都公文書情報公開システムを構築しています。システム構築により、都民は自宅などから必要な公文書情報を無料でダウンロードできるようになりました。 |
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鳥取県 |
財政課の時間外勤務の削減 |
「早める」「変える」「なくす」のキーワードを掲げ、予算編成 プロセスを改善し、業務の効率化を図っています。財政課長聞き取りの廃止や議案説明資料のオートメーション作成等によって、時間外勤務が前年比約3割減となっています。 |
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静岡県 |
複雑・多様化する地域行政のニーズへの対応 |
あらゆる悩みや課題について相談をワンストップで受付する市町行財政総合相談窓口を設置しています。知見の共有化や事務執行の支援、円滑な行政財運営のためにガイドブックを作成しています。 |
7.教育・文化
自治体名 |
課題 |
課題への取り組み |
詳細 |
京都府 |
答えのない問いへの取り組み |
認知能力・非認知能力を一体的に育む教育施策に取り組んでいます。企業や大学と連携して、子どもが社会に出たときに直面する正解のない問いに対してグループで協働しながら行う課題解決型学習です。 |
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長野県 |
県立図書館と市町村立図書館のこれから |
これからの図書館像を実現するために事業改革を行い、会議室や閲覧室をリノベーションしています。また、信州・学び創造ラボをオープンさせ、マイクロライブラリーやグループワークスペース、3Dプリンターなどを導入し、新たな社会的価値がつくられる空間となっています。 |
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三重県 |
ツイッターアカウントの存在意義が小さい、反応が薄い |
ツイッター投稿者と1名のチェック、投稿ルールの整備や積極的投稿、他のアカウントへの相互協力依頼などによって平均インプレッション数が前期比15倍まで増加しています。 |
8.農林水産
自治体名 |
課題 |
課題への取り組み |
詳細 |
福島県 |
農林水産物に対する風評被害 |
風評払拭と産地への信頼向上のためにGAP認証数日本一の目標を掲げています。関係機関・団体からなるGAP推進協議会を設置し、県独自の認証制度「ふくしま県GAP」を設立しています。 |
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島根県 |
厚木生産の継続的な拡大 |
林業事業の経営体質強化と事業規模拡大のために、県独自の島根林業魅力向上プログラムとしまね林業士制度を設立しています。県内49林業事業体でプログラムを登録し、支援や林業就業者のキャリアアップ等を行っています。 |
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静岡県 |
農林業・農山村地域の持続的な発展 |
高度な知識や技術を持ち、将来の農林業現場や農山村の地域社会を支える人材育成を目的として、農林大学校を専門職大学へ移行します。実学の府を目指して、教育や研究環境の整備を進めています。 |
9.防災・危機管理
自治体名 |
課題 |
課題への取り組み |
詳細 |
東京都 |
都民の風水害への意識向上 |
東京マイ・タイムラインや水害リスクマップ等を作っています。東京マイ・タイムラインは、風水害時にとるべき行動が整理されたもので、水害リスクマップは大・中小河川の洪水や高潮による氾濫、土砂災害の危険性を視覚的にわかりやすく表示したものです。 |
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福岡県 |
災害時の医薬品供給体制の強化 |
救護所等に赴いてその場で調剤できる機能を持つモバイルファーマシーを整備しています。また、災害薬事コーディネーターの配置や有識者・関係団体等による検討会を実施して、医薬品供給体制の見直しをしています。 |
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静岡県 |
災害リスクの理解促進や非常時の適切な避難行動 |
静岡県総合防災アプリとなる静岡県防災を開発しています。アプリでは緊急防災情報の通知や現在位置の危険度確認、危険度体験、防災学習・テスト、避難トレーニングなどができます。 |
番外.新型コロナウイルス感染症(COVID-19)
新型コロナウイルス感染症の拡大や地域経済の疲弊を防ぐために、自治体独自の取り組みを行っています。以下は、神奈川県の福祉関連の取り組みと福岡県福岡市の主な支援の事例です。
- 神奈川県:障害者等の家族が感染して入院した場合に障害者等の一時保護を行う施設を設置。また、専用施設において福祉的ケアやサービス提供を実施しています。
- 福岡県福岡市:文化・エンターテインメントのハイブリッド開催支援や来店型施設を対象とした感染症対策強化に係る物品・サービス経費支援、飲食店のテイクアウト支援など、様々な支援を行っています。
まとめ

自治体で抱える政策課題は似ていることも多いですが、自治体によって課題解決への取り組みは異なります。居住地の自治体にどのような政策課題があり、解決のためにどのような取り組みを行っているのか、今一度確認してみましょう。