森林整備事業とは
森林の機能を持続的に発揮しながら、林業の成長産業化を目指すための取り組みが森林整備事業です。この事業の目的は、新たな森林管理システムを構築し、市町村が経営意欲を失っている森林所有者から経営・管理の委託等を受け、意欲と能力のある林業経営者につなぐことなどを通じ、森林の経営管理の集積・集約化などを図ることです。
ここからは、自治体で行われている事業の事例を見ていきましょう。
長野県の事例:信州の森林づくり事業
戦後一斉に植えられた人工林の約8割が「間伐」などの手入れが必要な時期を迎えている長野県では、平成20年度より「長野県森林づくり県民税」(通称:森林税)が導入されました。国の補助事業や県単独補助事業のほか、この森林税を活用した事業も進められています。
(1)森林環境保全直接支援事業
施業の集約化や路網整備を通じて低コスト化を図りつつ、森林経営計画等に基づいて植栽や保育、搬出間伐等、森林整備を実施。生物多様性の保全等に資する森林整備を推進することにより、森林の有する多面的機能の維持・増進を図るなど、森林環境の保全に貢献する森林づくり全般を支援します。
(2)特定森林再生事業
自然条件等や気象害等による被害などによって、適切な整備が期待できない森林について、所有者等との協定に基づいて行う人工造林等を支援します。
自然条件等の理由で更新が困難な森林については「公的森林整備」(主な補助率は標準経費の72%以内等)、気象害等による被害森林は「被害森林整備」(主な補助率:標準経費の70%以内等)の対象です。
また、森林病害虫防除法に掲げる松くい虫が運ぶ線虫類による被害が発生している松林においては「保全松林緊急保護整備」(主な補助率は標準経費の70%以内等)の対象に。公益的機能の高い健全な松林の整備、または被害防止のための樹種転換を支援します。
(3)みんなで支える里山整備事業(長野県森林づくり県民税活用事業)
長野県森林づくり県民税を活用した事業として、次の3つの補助制度を導入しています。
①集落周辺の里山等の森林がもつさまざまな機能の回復・維持・増進を図るとともに、森林環境の保全、防災・減災に資する間伐を支援する「防災・減災のための森林整備」(主な補助率は標準経費の90%以内)。
②森林と地域との関係性を再生し、自立的で持続可能な森林管理の構築に資する森林整備を支援する「県民協働による里山整備」(主な補助率は事業費の90%以内)。
③森林所有者による適正な処理が困難な送電線、線路、道路等のライフライン、家屋の周辺森林内で倒木の危険のある立木および枯損木等の伐採を行う「ライフライン等保全対策」(主な補助率は事業費の90%以内)。
(4)合板・製材生産性強化対策交付金事業(定額補助)
地域材における競争力の強化、生産性向上等の体質強化を図るため、実施されている事業です。県が定める計画に基づき、合板・製材工場等の木材加工施設に向けて原木を安定的に供給するための間伐材の生産、路網整備等を支援します。
(5)林業成長産業化総合対策事業(定額補助)
意欲と能力のある林業経営体に森林の経営・管理を集積・集約化することを通じ、森林資源の循環利用を促進し、林業の成長産業化に貢献する森林整備への支援を行う事業です。
(6)県単独森林整備事業
国庫補助の対象とならない間伐等の森林整備を推進し、森林の多面的機能の発揮を図る県単独補助事業。主な補助率を標準経費の50%以内とする間伐対策事業のほか、次のような取り組みも行っています。
・グレースの森創生事業(定額補助)
寄付金を活用し、森林所有者と市民や森林ボランティア団体などが協力して森林整備に取り組む「グレースの森」の整備を支援する取り組みです。
・県単森林被害災害復旧事業
国庫補助の対象とならない森林において、気象害等による倒伏木・折損木の整理、倒木起こしといった復旧作業への支援を実施しています。
北海道の事例
北海道では「森林管理・環境保全直接支払制度」および「森林整備地域活動支援交付金制度」を導入しています。
(1)森林管理・環境保全直接支払制度
今後の森林・林業のイメージの実現に向けて、フォレスターによる指導や地域における合意の形成、境界の確認を実施。森林施業の集約化(5ha以上)を企図。面的なまとまりをもった森林において、地形を活かした路網整備と搬出間伐を一体的に進めることによる施業のコスト削減を目指します。
支援対象となる作業のうち、間伐と更新伐については、搬出材積が多いほど、ヘクタールあたりの助成単価が大きくなるよう設定されています。
支援の条件としては、次の3点を定めています。
①集約化実施計画の対象となる森林(または国有林との森林共同施業団地内)
②5ha以上の実施箇所をまとめて申請すること(共同による申請も可能)
③実施箇所1haあたり平均10立方メートル以上の木材を搬出すること
(2)森林整備地域活動支援交付金制度
施業の集約化に必要な境界確認や、間伐等の実施のために関係者の同意の取り付け等を図る地域活動を支援するための制度です。
そのメニューは大きく分けて3つあります。
①森林経営計画作成促進
・森林の情報収集:
・森林調査(立木調査、路網線形調査等)
・森林経営計画の策定に係る合意形成
・不在村森林所有者へのはたらきかけ(現地立会等)
・不在村森林所有者の森林でのGPSによる境界の確定
②森林境界の明確化
・森林境界の確認
・森林境界の測量
・不在村森林所有者の現地立会
③森林経営計画作成・森林境界の明確化に向けた条件整備
・「森林経営計画作成促進」「森林境界の明確化」の対象活動を行うために必要となる既存の作業路網の簡易な改良(路盤補強、土留め設置等)
以上の支援によって、健全な森づくりに向けた活動を促進しています。
兵庫県丹波市「緊急里山林整備事業」
この事業は、人家裏の危険木で困っている地域のうち、県民緑税事業「里山防災林整備」の採択要件(人家裏の森林が5ha以上)に満たない小規模箇所を対象としたもの。
傾斜木といった危険な木や繁茂した竹林を、土地所有者に代わって伐採や間伐を実施します。あわせて、人家裏の森林において、枯損木の伐倒や間伐等の森林整備を行います。伐採した危険木は、付近への集積や林内での土留工として処理されます。
丹波市では、この事業のほかにも、これまで既存事業では取り組めなかった未整備林の環境整備や当事業など、森林環境税を活用した取り組みを進めていく予定です。