自治体通信ONLINE
  1. HOME
  2. 自治体向けサービス最新情報
  3. スマート漁業について・実施事例【自治体事例の教科書】

スマート漁業について・実施事例【自治体事例の教科書】

スマート漁業について・実施事例【自治体事例の教科書】

日本では平均寿命の伸びや出生率の低下により、少子高齢化が急速に進んでいます。日本経済の成長を支える生産年齢人口の減少は、経済成長の停滞や生産性低下といった懸念を生んでいます。林業、農業、漁業など第一次産業でも、若者離れや高齢化による人手不足が深刻化しており、後継者確保や産業活性化のための施策が急務となっています。その取り組みのひとつとしてICT(情報通信技術)など最新技術を取り入れた動きがあります。ここではAIやドローンの活用など実施事例についてご紹介します。

【目次】
■漁業にもAIを取り入れる
■宮城県東松島市の事例
■福井県小浜市の事例
■長崎県五島市の事例

漁業にもAIを取り入れる

近年、日常生活に身近な商品やサービスにもAIが組み込まれるようになり、多くの人が一度はAIを利用したことがあるという時代が到来しています。普及が広がる「AI」という言葉は、1956年の国際学会で初めて使用されましたが、その定義は研究者によっても異なっています。「そもそも『知性』や『知能』自体の定義がない」ため、AIを定義することも困難である背景から、現状では大まかに「知的な機械、特に、知的なコンピュータプログラムを作る科学と技術」と説明されています。

今後も着実に実用化が進むと期待されるAIは、幅広い分野で研究・活用されています。自動運転もそのひとつです。画像認識と音声認識から得られた情報に、車両の運行情報・位置情報・地図情報など他の情報を加え、車両がおかれた状況をリアルタイムに識別した上で、衝突の危険性などを予測します。安全で効率的な運転が可能になるとして、実用化を目指し盛んに研究されています。

また、農林水産業におけるAI活用も試みが進んでいます。担い手の高齢化が進み、労働力不足が深刻な課題である日本の農業においては、AIの活用による省力化・精密化や高品質生産を目的としたスマート農業が推進されています。画像認識を用いて成熟の度合いを確認して、収穫すべきもののみを収穫するなど、これまで機械化できていなかった複雑な作業の機械化が実現しています。農作業における省力・軽労化とともに新規就農者の確保や栽培技術力の継承も期待されています。

このようなAI活用の流れは漁業にも及んでおり、スマート漁業として各地で導入が進められています。

宮城県東松島市の事例

宮城県東松島市は早くからKDDIと提携し、スマート漁業の導入を進めていた自治体のひとつです。東松島市が特に力を入れているのが、長年漁業に携わってきた漁師だけが持っているとされる「勘」の定量化でした。

海の状況は常に変化するものです。天候によって漁獲量は変わりますし、潮の流れによって魚が棲みつく位置も変化してきます。その時々の状況に合わせて漁師は漁のやり方を変化させなくてはいけません。特に、事前に網を海の中に仕掛けておくことで魚を捕まえる定置網漁業は、その最たる例と言えるでしょう。

どこに網を仕掛ければより多く魚を捕まえられるかは、これまで漁師自身の経験に委ねられる部分が多分にありました。ベテランの漁師が適切な仕掛けを行う一方で、若手の漁師は悪戦苦闘しつつ、経験を積むしかなかったのです。こうした一人前になるまでの時間の長さが、漁業に携わる人を減らす一因にもなっていました。

そこで東松島市は、スマート漁業を取り入れることで課題を解決しようとしています。例えば、海の中の塩分濃度はどこも一定とは限りません。岸に近いほうが塩分濃度が薄かったり、遠ければ遠くなるほど塩分濃度が濃くなったりします。魚は塩分濃度を見極めながら棲み処を見さだめようとしています。漁師はこれまで、海の色を見極めることで塩分濃度を測りながら、どこに魚がいるかを予測してきました。当然ながら、そうした判断は長年培った「勘」によるものですから、何を基準にしているかは本人にしかわかりません。他人に伝えられるものではないですし、時に本人も判断を見誤って魚を捕まえられないことさえあります。漁師の「勘」に頼った漁業を続けていては、安定した漁獲量にはつながりません。

そこで、東松島市はKDDIが発明したスマートセンサーブイを用いて、塩分濃度と漁獲量との関連性を調査することにしました。まず、定置網を置いた場所の近くにスマートセンサーブイを設置し、その地点の塩分濃度を測ります。そして、網を引き揚げた後漁獲量をチェックすれば、漁獲が多い塩分濃度をデータとして残せるようになるのです。

スマートセンターブイの利用方法はそれだけにとどまりません。水温や潮流の計測、カメラを設置することによって網の中の様子もチェックもできます。こうしてこれまでコツをつかむことが難しかった漁のやり方をわかりやすくできれば、これまで以上に効率的な漁業を行えるようになるでしょう。

そのほか、後継者の育成も、より容易になります。これまでなら何年も漁に出てようやく一人前になれる、というのが漁業の常識でしたが、スマート漁業を導入することで1年目から即戦力の人材を育成することが可能になるのです。

福井県小浜市の事例

福井県小浜市は「鯖街道」が日本遺産に認定されたことを追い風に、小浜市を象徴する魚である鯖の養殖に力を入れています。小浜市は「海の底から湧いてくる」と言われるほど大量の鯖が獲れていた時期があり、全盛期には12,000トンもの漁獲量を誇っていました。しかし、全国的な鯖の漁獲量の減少に伴って小浜市の漁獲量も激減し、現在では0.7トンという厳しい状況にあります。

そこで小浜市は、鯖の養殖技術確立のため、スマート漁業を導入し、養殖の効率化を図ることにしました。養殖の鯖は、人口種苗に配合飼料や冷凍魚を餌にしているため、寄生虫のアニサキスがつきにくく、食べさせる餌の質と量を変えて味を調整できるメリットがあります。しかしその反面、養殖業を営むには餌のコストが占める割合が高く、漁労支出の6割以上を占めています。従来の養殖では、船を出して現場に行き、海の状況を確認した上で餌やりを行っており、状況の把握や給餌量の管理は漁師の経験や「勘」に委ねられていました。

しかし、スマート漁業を導入することで、こうした作業の効率化に成功しました。水温はAIを活用することで自動的に記録できるようになり、餌の調整もデータを用いることで、より効率的になったのです。

現在、小浜市では、酒粕を餌にすることで養殖した鯖を「よっぱらいサバ」と名付けることで新たな名産にしようと取り組んでいます。

長崎県五島市の事例

日本は世界最大のマグロ消費国であり、世界第2位のマグロ漁獲国でもあります。しかし、日本近海から北米大陸西海岸にかけて生息している「太平洋クロマグロ」の資源量は激減しており、絶滅危惧種に指定されました。資源回復のため、漁獲量を適切に管理するとともに、マグロ養殖の研究が推進されています。

長崎県は全国で最もクロマグロを養殖している場所で、今後の日本の食卓を守っていく存在と言えます。もっとも、クロマグロの養殖にはさまざまな課題があります。その中のひとつが、赤潮をどう防ぐかという点です。

有害赤潮はマグロの天敵とも言える存在で、これによって養殖マグロが死んでしまうという被害もこれまで起こってきました。クロマグロの養殖には時間がかかるため、こうした被害が起こると損害金は莫大なものになってしまいます。そのため、養殖に携わる漁師にとって、赤潮の到来を予測することは欠かせません。従来は海に船を出した上で採水し、クロロフィル計測を行って赤潮の様子をチェックしてきました。こうした予防策は、大変コストがかかります。

そこで長崎県五島市では、ドローンを使った赤潮の予測を導入しました。ドローンには2種類あり、空撮用のものと採水用のものがあります。ドローンを使って空撮すれば、海の色の変化はこれまで以上に明確に測定できるようになります。また、ドローンを使って水を採取し、プランクトンの量をチェックすることで船を出すコストも削減できます。

こうしたデータを収集することで、いち早く赤潮の到来を予測できるようになり、五島市で養殖しているクロマグロの被害は最小限に抑えられるようになりました。

〈参照元〉

総務省_人工知能(AI)の現状と未来
(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h28/pdf/n4200000.pdf)

農林水産省_農林水産省ホームページ
(https://www.maff.go.jp/j/heya/sodan/17009/02.html)

農林水産省_農林水産省ホームページ
(https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1508/spe1_02.html)

農林水産省_農林水産省ホームページ
(https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1508/spe1_04.html)

宮城県東松島市_東松島市とKDDIグループ、地域活性化を目的とした連携に関する協定を締結
(http://www.city.higashimatsushima.miyagi.jp/index.cfm/22,17287,c,html/17287/
20181130HM-KDDI_agreement.pdf
)

総務省_平成27年度補正予算IoTサービス創出支援事業成果報告書
(https://www.soumu.go.jp/midika-iot/admin/wp-content/uploads/2016/07/H27-8_Report.pdf)

首相官邸_KDDIが取り組むスマート漁業
(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/suishinkaigo2018/
nourin/dai13/siryou3.pdf
)

福井県小浜市_広報おばま
(https://www1.city.obama.fukui.jp/file/page/3594/doc/3.pdf)

電子印鑑ならGMOサイン 導入自治体数No.1 電子契約で自治体DXを支援します
自治体通信 事例ライブラリー
公務員のキャリアデザイン 自治体と民間企業の双方を知るイシンが、幅広い視点でキャリア相談にのります!