SNS等を活用した児童・生徒相談事業が誕生した背景
2017年に発覚した座間9遺体事件は、社会に大きな衝撃を与えました。とくに衝撃的だったのは、被害者の女性を探していた男性を除き、被害にあった女性はすべて犯人とツイッター上で交流を深めていた他、自殺願望を持っていたという事実です。
こうした事件の再発を防止や自殺を防止するため考案されたのが、SNS等を活用した児童・生徒相談でした。手探りではじめられた事業ですが、実績を1つひとつ積み上げた結果、平成30年には自殺対策におけるSNS相談事業(チャット・スマホアプリ等を活用した文字による相談事業)ガイドラインが誕生しました。このガイドラインには、相談の流れや注意点、相談員の育成などについての要項が盛り込まれています。
SNS等を活用した相談体制の構築事業について
平成30年4月1日~12月31日の間に実施された、SNS等を活用した相談体制の構築事業では、30の自治体(都道府県19、市町村3、指定都市8)が参加、寄せられた相談は、11,039件でした。相談内容でもっとも多かったのは友人関係で、学業・進路の悩み、イジメと続きました。SNSでの悩み相談は、相談の入り口的な要素が強く、問題を解決するには他の支援につなげる必要が出てくるケースがあります。寄せられた相談の中で電話相談または対面相談に移行したケースは、120件ありました。
LINEと事業との関わり
文部科学省のSNS等を活用した相談事業が継続されることを受け、平成31年3月、LINE株式会社の出澤社長は、浮島副大臣に事業協力の申し入れをしました。LINEは1対1でのチャットが可能なクローズド的な特徴を持っている上、多くの人に浸透しているSNSであるため、相談ツールとしては理想的です。
SNS等を活用した児童・生徒相談導入事例
文部科学省の報告書は、SNS等を活用した相談を総合的に見た結果ですが、個々の自治体ではどんな結果が出たのでしょうか。実際にSNS等を活用した相談体制の構築事業を展開した自治体の事例を挙げてみます。
・事例1:熊本県熊本市の導入例
熊本市では平成30年8月24日~9月6日の間、SNSを活用した悩み相談等事業・ほっとLINEを実施しました。対象となったのは、熊本市立の中学校・高等学校・特別支援学校に通う生徒およそ22,000名、相談時間は午後5時~9時の間です。
期間中LINEを利用したトークルームには177件(トークが成立したケースのみ)の相談が寄せられ、主な内容は友人関係に関する悩みでした。ほっとLINEを利用したものの、相談者から反応がなかった件数は48件で、訪問者が少ない日は反応が多かったことから、待たされていることで途中でやめてしまった可能性が指摘されています。その他の傾向として、相談内容は人に言いにくいようなものが多く、SNS相談特有の気軽さが要因となったのかもしれません。子どもたちがほっとLINEを利用した理由の多くは、話を聞いてもらいたい、寂しいと言った気持ちからくるものが多く、相手の顔が見えないSNSだからこそ気軽に相談できたのではないでしょうか。
・事例2:千葉県の導入例
千葉県は、令和元年7月20日から9月3日にかけて、そっと悩みを相談してね~SNS相談@ちば2019~を実施しました。対象となったのは、県内の国公私立高等学校と特別支援学校高等部に通う生徒およそ16万人で、相談を開始した時点の登録者数は620人、相談が終了した時点では928人に増えていました。期間中寄せられた相談件数は863件で、一番多かったのが友人関係、心身の健康や保健が続きました。相談後に実施されたアンケートの結果も好評で、悩みを聞いてくれるだけでも気持ちが楽になると感じる相談者もいました。
SNS相談では、文章でのやりとりをリアルタイムでできるという特徴がありますが、そこに安堵感を覚える相談者もいたことから、SNS相談のメリットと考えてもよいかもしれません。子どもを対象にした悩み相談室は以前から存在していました。にもかかわらず、「一度も利用したことがなく、SNS相談がはじめてだった」という相談者もいます。SNS相談は気軽に受けやすいということを、示唆しているようです。
・事例4:大阪府の導入例
大阪府はLINE相談室の普及に積極的に取り組んできた自治体の1つです。LINE相談すこやか相談@大阪府は、平成30年7月15日~7月28日と8月19日~9月9日、平成31年1月6日~1月19日と実施されました。相談時間はいずれも午後6時~9時で、大阪府内の中学校・高校・支援学校(中学部・高等部)に通う生徒が対象です。
対象となる生徒に向けたポスターと、配布するためのカードが作成されました。平成31年1月6日~1月19日向けのポスターには、LINE相談であることを意識し、LINE登録方法の簡略図が添えられています。LINE相談を実施するにあたり、大阪府では教育センターに指導主事を待機させ、緊急のケースに備えました。
またSNS相談から他の支援組織への協力をスムーズに行うため、学校やスクールカウンセラー、子ども電話相談室などの間にネットワークを構築しました。平成31年1月6日~1月19日終了時の登録者数は2,734人で、寄せられた相談件数は合計1,610件、相談内容は交友関係がもっとも多く、その次にイジメ、学習・進路相談と続きました。実施を通してわかったことは、LINEを利用すると相談件数が高くなるということです。改善点や利用率を高めるには、事例を重ねながら見つけていくことが大切になります。