事例1滋賀県
滋賀県の直近の災害被害例としては平成25年の台風18号によるものが挙げられます。滋賀県の地形は山が多く、これまでも豪雨に見舞われたら土砂災害が深刻化するだろう、という観測が経っていました。県ができる限りの対策をしていたおかげで被害は最小限に抑えられたといって良いでしょう。
たとえば滋賀県の土砂災害区域には姉川沿いの集落があります。ここには民家が21戸経っていますが、もしここで土砂崩れが起こった場合住民はどこに避難すれば良いか、ということが明確になっていました。民家の近くには避難所が3つ設えられており、住民はそこに避難すれば良かったのです。その他、滝川では台風がもたらした豪雨によって土石流も発生しました。しかしながら、土石流は事前に設置しておいた堰堤によって大半が防がれ、麓の集落にまで届くことはなかったのです。
また全国的に災害によって避難勧告が発令された時、どのように住民に避難を促すかは課題になっています。滋賀県はその点で相応の対策をしたといってといっても良いでしょう。大津市の住民には平成19年の段階から避難の重要性を説明していたおかげで、平成24年の豪雨災害ではすべての住民が早期に自主避難を成し遂げたという成果が上がっているのです。
とはいえ、課題も浮き彫りになっています。たとえば先ほど取り上げた滝川では、土石流こそ防げたものの流木の流入は防げませんでした。これによっていくつかの民家が浸水し、流木被害を食い止めることの重要性が明らかになったのです。
事例2北海道
日本にやってくる台風は沖縄のほうから上陸し、北東へと進むものが一般的です。東北地方に差し掛かるころには勢力を弱め、温帯低気圧に変わり、北海道に台風が来る例はあまりありませんでした。
しかしながら平成28年に発生した台風10号は観測史上初めて、太平洋の東北地方側から上陸するものだったため、北海道にも被害をもたらしたのです。これによって北海道の災害対策は、従来の常識に捉われることなく行うことが求められるようになりました。
北海道では「北海道強靭化計画」と銘打って様々な災害対策を実施しています。たとえば老朽化している河川管理施設に対して補修を行うことや災害区域の基礎調査などはその一例といえるものでしょう。ただ北海道は他の県と比べて広大な土地を有しているという特殊事例も見逃せません。これによって対策を行うべき地域が多く、限られた予算と照らし合わせながらどれだけ対策を行っていけるかということも課題になっています。
事例3長野県
長野県では住民の迅速な避難行動こそが被害を防ぐとみて、避難行動にあたって心掛けておくべき点を住民に周知することを重視しています。長野県では避難行動にあたってWhere、When、そしてHowを踏まえておきべきだ、と言っています。
Whereにはどこで土砂災害が起こるかという情報を確認することが含まれています。もちろんこれについては自治体側がハザードマップなどの情報を開示することも重要で、長野県もホームページなどで公開しています。
Whenについては避難すべきタイミングなどが含まれています。国の定めるガイドラインでは大雨特別警報が発令されたら無条件で避難することが明記されていますが、実際に被害が生じるタイミングはまちまちです。望ましいタイミングとしては特別警報以前の大雨警報の段階で避難を行っておくのがベストでしょう。長野県でもこうした避難警報の発令は速やかに行っているようです。
最後にHowについてはどのように避難すべきか、ということを指します。どこに避難すべきなのか、持っていくべきものは何か、もし避難所が災害に見舞われていたらどうするか、といったことを明確にしておくことは欠かせません。これについては日頃から準備を行っておくのが大切ということで、長野県では普段から避難訓練などを欠かしていません。
事例4福島県
福島県では災害時の受援応援計画というものを立てています。福島県には東日本大震災に見舞われた際、県外から多くのボランティアがやってきたという経験があります。よってどうやってボランティアを受け入れるべきか、どのように支援物資を受け入れるか、というノウハウを作っておくことが課題となっているのです。
実際のところ、市民がボランティアをしたり、寄付をしたりする意識は高くなっている一方で、自治体のボランティア受け入れの知識はそこまで浸透しているとはいえません。ボランティアが多すぎて宿泊施設を確保できなかったことや支援物資が多すぎて廃棄せざるを得なかったという例もあるくらいです。
福島県のように受援計画を立てておくことで、あらかじめトラブルを避けられるでしょう。また福島県では指定河川の洪水予報を行っているところも特徴といえるでしょう。大雨や土砂災害の警報は一般的なものですが、洪水予報については市区町村ごとに発令するだけで、河川ごとに予報されることはあまりありませんでした。しかし、どの河川が氾濫するかを予測することによって近隣住民の避難意識も変わってきます。こうした取り組みは全国でも行われるべきものといえるでしょう。
事例5広島県
広島県は県土を山地が占める割合が県土の約7割を占めていて、土砂災害危険箇所数は全国最多となっています。これによって近年の豪雨災害などでは甚大な被害がもたらされてきました。土砂災害を防ぐための作業は喫緊といえるもので、砂防堰堤を始めとした対策は急ピッチで行われています。
しかしながら予算との兼ね合いもあって、必要な対策はすべての地域に行き届いていないのが現状です。よって県ではそれを補うために、「減災」と称して住民の意識を高めることで災害を少しでも減らす取り組みが行われています。自治体が住民に情報を発信することで少しでも早く災害発生を知るためのシステムもその一つといえるでしょう。近年の豪雨被害などでは想定を超えた雨量がもたらされるため、十分に対策を整えたはずの施設でも崩壊してしまうことが少なくありません。よって災害が起こるのは仕方ないと受け止め、多くの人命を助けるために災害発令をスムーズに行うための仕組みづくりを行っておいたほうが、結果的に被害は最小限に食い止められます。
事例6愛媛県
愛媛県では平成30年7月に集中豪雨によって被災しました。これを教訓としてとらえ、今後の安全意識向上に役立てようという動きがスタートしています。
愛媛県では以前から防災計画を立てて有事の際に臨むことにしていましたが、豪雨災害を受けてまずこの防災計画を見直すことから始めました。特筆すべきところとして挙げられるのが被害状況の情報収集の迅速化でしょう。災害が広範囲にわたった場合は、そもそもどこで被害がもたらされているのかということがわからないことがあります。結果、人命の救助が遅れたことや食い止められるはずの被害がさらに深刻化してしまうということもあったようです。こうした事態を防ぐためには、各地域に点在している県職員からの情報が災害本部に速やかにもたらされる必要があります。
その他、自治体から発令される情報よりも、テレビのニュースから情報を手に入れる住民のほうが多いという状況を踏まえて、マスコミに情報を提供するような仕組みを作る取り組みも進んでいます。愛媛県は豪雨災害のほかにも、南海トラフ地震の範囲に入っている地域でもあります。もしもの時に備えて、自治体の職員や住民の対応意識を高めることが求められているのです。