自治体による防犯カメラの運用状況は
近年、自治体が公園などの公共施設や児童生徒の通学路等に防犯カメラを設置・運用するケースが増加しています。
防犯カメラが普及した契機は、平成7年年に発生したオウム真理教による地下鉄サリン事件だとされています。防犯カメラは多数の映像をリアルタイムで撮影・記録できるため、防犯対策への活用や犯罪抑止効果等が期待できる一方で、不特定多数の住民を撮影することになるため、被撮影者のプライバシー権等を侵害するおそれがあり、慎重な運用が必要とされます。
しかし、防犯カメラの設置・運用を規定した法律は存在しないため、管理方法は各自治体の判断に委ねられているのが実情です。そのため、それぞれの自治体は条例で防犯カメラの管理方法を規定するとともに設置場所を公開するなどして住民理解を得ながら防犯カメラの管理・運用にあたっています。
一方で、防犯カメラ設置についての住民ニーズは高く、たとえば枚方市(大阪府)が平成27年に市政モニター、校区コミュニティ協議会、PTA協議会の約2,100人を対象に実施したアンケート調査では、「地域の治安をより良くするために効果的な活動は何ですか?」との質問に対し、約25%が「防犯カメラの設置」との回答。「警察によるパトロール」との回答に次いで2番目に多いという結果になっています。
次に、防犯カメラについて先進的な取り組みをしている自治体の事例を紹介します。
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事例①【犯罪抑止に効果】市川市(千葉県)
市川市(千葉県)では、平成17年施行の「市川市防犯カメラの適正な設置及び利用に関する条例」にもとづき、市内全域に設置された街頭防犯カメラ(防犯目的で公道や公園等の公共の場所に設置されたカメラ)の管理・運用を行い、犯罪抑止と市民の体感治安の向上に取り組んでいます。
設置を開始した平成18年時点の防犯カメラ台数は138台でしたが、平成30年12月末段階では328ヵ所の防犯対象区域に861台を設置するまでに増加しています。
内訳は、公園等の街頭が278台、駐輪場が326台、図書館等の施設内が257台。街頭防犯カメラの設置場所を市のホームページで公開しているほか、防犯カメラを設置する場合は防犯対象区域ごとにその場所を利用する市民等の見やすい場所に「防犯カメラ設置中」等の表示を行っています。
防犯カメラ設置などの対策の結果、同市における犯罪認知件数(年間)は、防犯カメラの設置を開始した平成18年は9,835件でしたが、平成29年には3.823件へと約1/3に減少しています。
市川市は令和2年度を最終年度とする「第2次 市川市防犯まちづくり基本計画」において、「女性や高齢者が一人でも安心して夜道を歩けるよう、街頭防犯カメラの運用等、防犯に配慮した道路等の環境整備を推進する」としており、今後も防犯カメラを積極運用する方針です。
事例②【すべての通学路に設置】箕面市(大阪府)
箕面市(大阪府)は安全・安心なまちづくりを進めるため、箕面警察署の全面協力を得て、すべての市立小中学校の通学路に750台の防犯カメラを平成27年3月末に設置し、同年4月から運用を開始しています。
防犯カメラにより撮影された画像は、①防犯・防災・交通安全に必要な場合、②災害現場検証に必要な場合、③行方不明者や子どもの家出などの捜索に必要な場合、④不法投棄の防止に必要な場合、⑤個人の生命・身体又は財産の安全を守るために必要な場合、⑥その他市長が特に必要と認めた場合、⑦①から⑥までの啓発の目的のために画像を公開する場合(個人が特定できないように必要な措置を行い、または特定される個人の同意を得た場合に限定)―この7項目に限って利用し、その他の目的では利用しないことを規定しています。
また、カメラに内蔵されるSDカードに最新の映像が概ね7日間録画され、古いデータから自動的に消去されるほか、モニター監視やインターネット経由で映像を閲覧する機能は設置せず、データを閲覧する時は1台ごとにカメラとパソコンをLANケーブルで繋ぎ、専用ソフトでダウンロードするなど、慎重な運用を行っています。
さらに、カメラを設置する際、できるだけ家が写らないようにカメラの角度やズーム機能による調整を行い、場所によって家が写ってしまう場合はカメラのプライバシーマスク機能により、門扉・玄関・窓のほか、家の敷地などプライバシー保護の必要性がある特定の箇所を黒く塗りつぶしています。
同市では、防犯カメラを設置する自治会へ費用の9割を助成する制度を平成27年度に創設し、現在までに750台が設置済みであるほか、平成28年度には市内のすべての公園、200カ所に300台を設置するなど、防犯カメラを安全・安心なまちづくりに積極的に活用しています。
箕面市の犯罪認知率(1,000人率)は、防犯カメラを積極活用する以前の平成27年は9.51でしたが、運用を開始した平成28年には大阪府内平均の約半分となる4.60へと急減しました。
事例③【回線使用料が不要の通信網】高崎市(群馬県)
高崎市(群馬県)は、通信会社との回線契約が不要な光無線通信を活用した通信網を構築し、回線使用料がかからないシステムで監視カメラを運用しています。
同市は平成29年の市民体育館「高崎アリーナ」の開館にともない、約500m離れた野球場の近くに立体駐車場と公衆トイレを設置し、それぞれに監視カメラを設置しました。公衆トイレのカメラ映像を約100m離れた立体駐車場に送る必要があったことから、さまざまな通信手段を検討しました。
まず、道路を隔てた立体駐車場と公衆トイレの監視カメラを有線接続する案が浮かびましたが、手間や費用の面から現実的ではなく、次にWi-Fiによる電波無線で接続することを検討。しかし、Wi-Fiでは安定した通信の維持に不安があるほか、約100mの通信に回線使用料を毎月支払う必要もあり、さらに別の接続方法を探していました。
そうしたところ、光無線通信を活用した通信網を構築すれば回線使用料などの通信料が不要で、かつ安定的にハイビジョン画質の映像を通信できることが判明。長期的なコスト面でのメリットなどから光無線通信方式で接続することにしました。
同市では、多くの施設間の通信に光無線通信を活用することで通信コストを削減し、住民サービスの充実につなげていけるのではないかと見ています。
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<参照元>
世田谷区「地方自治体による防犯カメラの関する考察」、 枚方市「枚方市防犯カメラに関するアンケート集計」、 市川市ホームページ、 箕面市ホームページ 等