働き方改革の必要性が認識されるにつれて、テレワークの導入が国内企業における重要事項になっています。それは地方公共団体においても同様ですが、様々な理由から進められない地方自治体も多数あるのが実情です。
現在地方公共団体がテレワーク導入において抱える問題を整理し、先行地方公共団体の事例を確認することで、導入のポイントが見えてくるでしょう。
そもそもテレワークとは
テレワークとはICT(Information and Communication Technology)を利用した、働く場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことです。
テレワークは、働く場所によって主に以下の3点に分けられます。
1.在宅勤務
自宅を勤務場所とする働き方です。
通勤・移動時間がかからないため身体の負担が軽減され、時間の無駄も少ないと言えます。
2.サテライトオフィス
企業や団体の本社・営業所とは別のところに設置されたオフィスのことです。
営業所に通勤するよりも通勤しやすい場所につくられた場所とのニュアンスがあり、企業が場所を指定するケースと個人で選択するケースがあります。
3.モバイル勤務
電車や新幹線、飛行機の中、待ち時間中のカフェや出張先などで就業する働き方です。
これまで無駄にしてしまっていた時間を従業時間に変えられるため、業務効率化につながります。
地方公共団体のテレワーク導入の現状
【出典】総務省|「平成29年版 情報通信白書|地方自治体、政府機関によるテレワーク普及に向けた取組」
上記によると、平成29年度時点で既に取り組みを進めている地方公共団体は7.0%、検討や情報収集を進めているのが12.5%程度に過ぎませんでした。
ただし、「関心があるが取り組みは行っていない」という地方公共団体が36.8%も存在しており、多くの地方公共団体がテレワークに関心がありつつも導入までには至っていないことがわかりました。
また、区分別に見ていくと、都道府県においては8割以上の団体が取り組みを行っているか検討・情報収集を行っており、市・特別区、町、村の順番で徐々に行動をとっている割合が少なくなっています。
テレワークに関心が高まる背景
【出典】総務省|「平成29年版 情報通信白書|地方自治体、政府機関によるテレワーク普及に向けた取組」
上記は、地方公共団体において実施している、または関心のある取り組みの内容を調査したものです。
これによると、「職員を対象にテレワークを導入」することに対して最も多くの関心が集まっていることがわかります。これは、近年になって「長時間労働の是正」「ワークライフバランス」などが取りざたされ働き方改革の機運が高まってきたことが背景にあるでしょう。
さらに、近年では新型コロナウィルス対策のためにテレワークを導入する企業が多く、地方公共団体においてもさらに関心が高まっていることが想定されます。
また、他地域の企業を対象にしてサテライトオフィスの設置を誘致したいと考える地方公共団体も多いことがわかります。多くの地方公共団体が、全国的なテレワーク導入の流れを地域の活性化に活かそうと考えているということでしょう。
【出典】総務省|「平成29年版 情報通信白書|地方自治体、政府機関によるテレワーク普及に向けた取組」
地方公共団体が抱えるテレワーク導入の課題
上記から、地方公共団体はテレワーク導入にあたって以下の投資・制度面における課題を感じていることがわかります。
- セキュリティの問題がある
- できる業務が限られる
- 労務管理がしにくい
- 導入コストがかかる
- 導入効果がわかりにくい
1.セキュリティの問題がある
地方公共団体はマイナンバーなどをはじめとする地域住民の個人情報を大量に扱うため、なかなかテレワークに前向きになれない面があります。紛失や盗難による情報漏洩のリスクを考えると、個人情報を事務所以外で扱うことは難しいのです。
例えば、職員の業務用パソコンの持ち出しや外部パソコンでの庁内ネットワークへのアクセスを許可することは難しいと言えます。テレワークを推進していくと言っても、庁内のデータにアクセスしたり紙ベースで保管されている情報を持ち出したりする必要のない、一部の仕事でしか進められない状態に陥りやすいでしょう。
2.できる業務が限られる
個人情報を事務所以外で扱うことが困難なため、必然的にできる業務が限られてしまいます。結果として文書の集約作業等の業務や資料作成等、庁内データにアクセスする必要がない業務にテレワークが限定されてしまうのです。
また、地方公共団体ではまだまだ紙ベースで行う業務が多いことも、テレワークを推進することを難しくしています。できる業務が限られることは、紙ベースの仕事が多い業界ではテレワーク推進の大きな障害になっており、ペーパーレス化を進められない以上は課題として残ってしまうと考えられます。
3.労務管理しにくい
テレワークを導入すれば職員が事務所以外で業務をすることが増えるため、労務管理がしにくくなるという問題も挙げられます。
テレワーク中は、職員がタイムカードなどで出退勤時間を記録することができません。職員が業務時間内に怠けてしまい必要な業務を行わなかったとしても、上司が近くにいなければ気付いたり注意したりすることができません。結果的に管理者による仕事量の把握が不十分になると、職員ごとの業務量に偏りが出てしまうのです。
そして職員の長時間労働を管理・回避することも、テレワークが進展することで難しくなってしまいます。業務効率化や長時間労働の是正のために働き方改革を行っているわけですから、テレワークを行うことで長時間労働が放置されてしまっては本末転倒です。
4.導入コストがかかる
どんなにテレワークの重要性・緊急性が高かったとしても、予算がなければ導入を進めることは困難です。テレワークの導入にあたっては情報通信機器や勤怠管理・コミュニケーション等のツールの導入が必要であり、そのためにはコストがかかります。
地域住民が負担した税収によって運営を行っている地方公共団体においては、新たな取り組みに予算を投入することへは慎重にならざるを得ないでしょう。また、そもそも十分な収入を得られていない地方公共団体では、導入コストを賄うことができないことも考えられます。
5.導入効果がわかりにくい
まだ多くの地方公共団体でテレワーク導入を進めている段階であり、導入によって得られる効果が明確でないことも課題の1つになっています。先ほどのグラフから特にまだテレワークを導入していない地方公共団体において、このことを課題に感じているケースが多く、多くの地方公共団体が慎重になりすぎているとも言えるかもしれません。
今後地方公共団体でのテレワーク導入事例が集積されていくにしたがって、こうした懸念は少なくなっていくと想定されます。しかし、「まずは導入してみる」というスタンスをとれていない地方公共団体が多いことも、現状でテレワークが進んでいない原因の1つなのかもしれません。
テレワーク導入の対策
テレワーク導入にあたっての対策には、以下のようなものが挙げられます。
- テレワークを推進地方自治体への国による支援
- 先例(先行地方公共団体や企業の事例)からノウハウを学ぶ
- 各種ビジネスツールを導入する
上記のビジネスツールについては、以下のような機能・要件を持つものが求められるでしょう。
1.万全のセキュリティ対策
地域住民の個人情報を大量に扱う地方公共団体においては万全のセキュリティ対策がとられているものが求められます。
2.労務管理機能
テレワーク推進には、労務管理を適正に行える機能を持ったツールも必要です。
3.低コスト
税収により運営している地方公共団体は、可能な限り低コストで導入できるツールが求められます。
4.コミュニケーション機能
テレワークにおいては、同僚間や上司部下間でコミュニケーションをとれるWeb会議システムやチャットツール等が不可欠です。
地方公共団体の導入するテレワーク事例
既にテレワークを導入している地方公共団体の事例は、以下の通り多数あります。
- 職員を対象としたテレワーク事例
- サテライトオフィスを利用した企業誘致事例
実際に成果を挙げている地方公共団体も多数あり、成功例として参考にすることもできるでしょう。
1.職員を対象としたテレワーク事例
・東京都
2017年よりも在宅型テレワークの導入を提言しており、移動中等でも利用しやすい軽量端末の配布やサテライトオフィスの設置などを進めています。さらに毎月第3月曜日を「都庁テレワーク・デイ」とし、在宅勤務やサテライトオフィスの活用状況等を全庁で共有するなどの活動をしています。
・神奈川県
2017年5月からテレワークを導入しており、合同庁舎や東京事務所などにサテライトオフィスを設置しています。テレワークの環境づくりを積極的に行っており、グループウェアの活用やペーパーレス化のルール整備などを進めています。
・愛媛県
県庁全職員を対象として在宅勤務・モバイルワーク・サテライトオフィス利用を実施しています。Web会議システムの導入なども活発に行っており、外部からでも自席での作業と変わらない環境で業務を遂行できます。
2.サテライトオフィスを利用した企業誘致の事例
・徳島県
徳島県では多くのサテライトオフィスを開設しており、その数は北海道と並んで全国最多です。中でも美波町では活発にサテライトオフィス開設を進めており、サテライトオフィスを軸に地方創生をすすめる先進地として全国から地方公共団体関係者等が視察に訪れています。
サテライトオフィスによる企業誘致を行ったことで飲食店を中心に新規開業が促進されており、一時期人口増加も記録するなど地方創生の効果が出ている事例です。
・長野県小諸市
長野県小諸市では市と県や軽井沢へのアクセスしやすさを活用したサテライトオフィスの誘致を推進しています。小諸ワインの知名度は国際的にも高まりつつあり、地域特性を活かした海外のIT企業誘致などを積極的に実施しています。
地方公共団体のテレワーク導入プロセス
【出典】総務省|「自治体テレワーク導入ガイド」
地方公共団体におけるテレワークの導入には、堅実なプロセスの構築が重要です。
上記の通り総務省では地方公共団体に向けた導入プロセスのガイドラインが提示されており、民間企業における導入プロセスと基本的には変わりないことがわかります。
また、導入に際しては財政措置として「特別交付税措置」が、テレワーク導入地方公共団体には経費の上限無し・措置率0.5%(財政力補正あり)で講じられています。
対象となる経費には、以下が挙げられます。
- ICT 機器導入にかかる費用
- 外部接続情報システム・コミュニケーションツールにかかる費用
- ソフトウェア費用
- ライセンス費用
- シンクライアント化等のセキュリティ対策にかかる費用
- サーバ設置費用
- 導入にあたってのサポート費用 等
まとめ
多くの地方公共団体がテレワークに対して興味を持っているものの、なかなか思うように導入が進んでいないのが現状です。
地方公共団がテレワークを導入するにはセキュリティの問題や導入コストの問題などがあります。先行事例を踏まえて良い取り組みを横展開していくことで、地方公共団体においてもテレワークの導入が進んでいくことでしょう。
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