基調講演では、高知県知事の尾﨑正直氏が「地方創生における高知県の取り組み」について語った。 高知県は平成2年、全国に先がける形で、人口が自然減の状況に陥った厳しい経験がある。尾﨑氏は「人口の減少で経済が縮小するなかでは、商品やサービスを県外に売り込む“地産外商“が重要」と指摘。県産品の仲介・あっせんや、展示・商談会などへの出展支援など、地産外商を前面に出した県の政策について説明した。
また、政策により県内総生産や有効求人倍率などの統計が上向いた成果をあげ、「人が減ってもむしろ拡大する経済に変わりつつある」と政策の手応えを述べた。
全国の地方で人口減少の懸念が高まるなか、「人口減少の最先端」(尾﨑氏)であった高知県の取り組みには、多くの参加者が熱心に耳を傾けていた。
限られた資源をいかに活用し、地域の活性につなげるか。同セッションでは、多くの自治体が悩むこのテーマについて、自治体の課題解決に貢献した3人が語った。
現在、立正大学の客員教授などを務める高野誠鮮氏は、羽咋市(石川県)の職員時代に限界集落を再生に導いた事例を紹介した。
高野氏は当時、コメを直売するための会社を設立するよう農家に提案するなど、新しく大胆な取り組みで課題解決を図ろうとした。しかし、前例のないことにはなかなか決裁が下りない。そこで高野氏は「決裁を取るのを辞める」ことに。「予算を60万円しか要求しないことを条件に、すべて事後報告でやらせてもらうことを認めてもらいました」(高野氏)。
最終的に高野氏の取り組みは実を結ぶことになった。高野氏はこの経験をふまえ、「失敗を恐れずに行動に移せば、壁を乗り越える方法はたくさんある」と強調した。
熱海市(静岡県)の山田久貴氏は、熱海をテレビ番組のロケ地としてメディアに売り込んだことで、年々減っていた観光客数をV字回復させた実績をもつ。
山田氏の赴任当時は、通常のイベントでは観光客数が上向くことはなかった。ところが山田氏は、「箱根などの“優等生“的なリゾート地と比べ、熱海は“不良“な町であり、独自の魅力をもっている」ことに気づく。ビーチだけでなく、レトロな商店街や風変わりな娯楽施設などが「バラエティ番組向け」だと確信し、メディアの呼び込みに注力し始めたのだという。
山田氏は今後について、「熱海が特化している観光をさらに光らせていきたい」と語った。
日南市(宮崎県)の田鹿倫基氏は、企業の誘致により3年間で130人の雇用を創出した公務員として登壇。リクルートやベンチャー企業を経て、日南市長の公約のひとつ「マーケティング畑の民間人登用」に抜擢された経歴をもつ。
田鹿氏は行政運営に当たっての心構えについて、「市民の声をそのまま聞くのではなく、その本質的な想いをくみ取ることが大切」と指摘。「住民から“大手自動車メーカーの工場を誘致してほしい“といわれることが多いが、“若者の雇用を確保してほしい“という想いだと私は理解し、若者に魅力のある仕事づくりに取り組んでいる」と自身の例をあげた。
地方創生に必要なのは、柔軟でユニークな発想力。そう感じさせるスーパー公務員3人の話は、多くの参加者をひきつけていた。
同セッションでは、人事評価制度の構築や関連の支援サービスを手がける、あしたのチーム・マーケティング部長の鯨岡務氏が登壇。人事評価制度を活用した自治体による「働き方改革」への取り組みについて講演した。
働き方が多様化するなか、鯨岡氏は「ベテランか若手かではなく、成果を出した人をきちんと評価する制度が必要」と指摘。年功序列の給与制度が一般的な自治体のなかで、個人の成果を評価しようと新しい試みを実践する鯖江市(福井県)の事例を紹介した。
同市は給与制度の見直しを通じて「働き方改革」に取り組んでおり、今年の4月からは、あしたのチームの評価制度の導入を始めた。
鯨岡氏は「人事評価制度を活用する必要性を伝えると同時に、自治体の人材育成につながるようお手伝いしていきたい」と話した。
約4時間にわたる全セッションが終了した後は参加者交流会が開かれた。それぞれ異なる課題を抱えた自治体の職員と、各社さまざまな製品やサービスをもつ民間企業の社員が一堂に会し、今後のさらなる公民連携をうながす貴重な機会となった。会場では、人脈を広げようと名刺や意見を交換する姿が随所でみられた。
協賛会社の紹介
株式会社あしたのチーム 執行役員 マーケティング部長 鯨岡 務
―これまで、どのような領域で自治体の課題解決に尽力してきましたか。
民間企業で実績のある当社の人事評価制度を、自治体に試験導入してもらうといった取り組みを行っています。
また、地方3ヵ所にサテライトオフィスを設置し、地域の雇用創出にも貢献しています。
一般的な企業のサテライトオフィスによる進出は、自社の社員をかわるがわる赴任させる「循環型」で、自社の福利厚生や研修の施設としてオフィスを活用することが多いです。
しかし、当社では「地元雇用型」にこだわり、地域に根差した企業活動を実践。人事評価クラウドを導入している自治体をはじめ、全国のお客さまをサポートしています。
―今後はどのように自治体との連携を強化していくのでしょう。
地方では、若年層の流出とそれにともなう経済環境の悪化という悪循環が課題になっています。そこで当社では、地方における若い優秀な人材の流出を抑えるため、地元の中高生に対し、卒業後に地元に残っても就職できるということを知ってもらう啓蒙活動を行っています。
今後もさまざまな形で自治体と連携して地域活性化の成功事例を生み出し、さらには「サテライトオフィスによる地方創生の成功モデル」を、ほかの自治体でも実現できるよう推進していきます。
鯨岡 務(くじらおか つとむ)プロフィール
昭和47年生まれ。採用管理システムベンダー、人事ビッグデータを扱う外資系BIシステムベンダーの日本法人勤務などを経て、平成27年に株式会社あしたのチームへ参画。新規事業の立ち上げや広報・マーケティングに従事し、平成29年から現職。
株式会社NTTPCコミュニケーションズ 営業本部 営業企画部 開発営業担当 課長代理 関 一
―これまで自治体の課題を解決してきたサービスと事例を教えてください。
当社では、複数拠点に設置したカメラから送られてくる画像と音声をクラウドに記録する「セキュアカメラクラウドサービス」を平成23年から提供しています。防犯カメラを導入する際の課題である、セキュリティ、信頼性、保守性を、クラウド録画、VPN通信、高画質カメラで解決します。自然環境の厳しい自治体で河川や道路などの監視に活用されています。
近年の異常気象においては冠水対策も自治体の責務となっていますが、大雨・洪水の状況を職員が現場で監視するとなると時間や人数の面で対応に限界があります。こうした課題に本サービスの「遠隔リアルタイム監視」が評価され、「人手不足対策とスピーディな冠水対策を両立できる」と喜ばれています。
―今後はどのように自治体を支援していきますか。
今後も「セキュアカメラクラウドサービス」を通じて自治体の課題解決に最大限、貢献していきたいと考えています。本サービスは自社内で開発しているため、柔軟なカスタマイズが可能です。実際に、「バーチャル水位標」「夜間のナンバー認識」などは自治体からのご要望により実現した機能です。従来の監視カメラサービスでは実現できなかったことや、やりたいことがあれば、ぜひご相談ください。
関 一(せき はじめ)プロフィール
昭和60年、日本電信電話株式会社に入社。パケット通信事業本部、NTTコミュニケーションズ株式会社勤務などを経て、平成16年に株式会社NTTPCコミュニケーションズ経営企画部に出向。平成21年から現職。