―まずは、保育園の運営方針を教えてください。
「生涯を通して社会を生きる力を培うことができる共異体の創造」という理念のもと、保育士が全部やってあげるのではなく、子どもたち自らが「どう考えてどう動くか」という観点に立った「見守る保育」を実施しています。
たとえば、「コーナー保育」。パズルコーナーや積み木コーナーなど数種類の遊ぶ場を用意し、どこで遊ぶかを子どもに選んでもらいます。また、違う年齢の子どもたちでクラスを形成する「異年齢保育」も特徴です。「先生がやって」と子どもにお願いされた場合「年上のお兄ちゃんが上手だからお願いしてごらん」と、うながします。そこで年上の子には主体性がめばえ、年下の子に教えようとします。一方、年下の子は「お兄ちゃんができるなら僕も」と自分でやる努力をするのです。
主体性をうながす取り組みは、ゼロ歳児の後半頃から実施。おやつを皿に2種類入れて、どちらかを選んでもらったりしています。
人間形成のファーストステップは乳幼児期。その時期から主体性を学び、生きる力を培ってもらいたいと考えているのです。
―午睡チェックにICTを導入した背景はなんだったのでしょう。
やはり、現場の保育士への負担が大きかったことですね。子どもたちの命を守るため、午睡チェックは欠かせない業務です。ただ、保育士の業務は多岐にわたります。子どもたちが起きているときはコミュニケーションを図り、午睡中に休憩をしたり、保護者の方への連絡帳を書く場合がほとんどでしょう。そんななか、5分ごとに子どもたちの状況を確認し、身体がどこを向いているかを手書きで帳簿に細かく矢印を記入する。すべての子どもが同時に寝るわけでもないため、業務は簡単ではありません。
カーテンを引いた薄暗い部屋のなか、ほかの業務と同時並行してチェックすると、どうしても記入モレも起こってしまいます。
そんなとき、午睡チェックをICTシステムで行える保育園専用サービスの存在を知り、実証実験を行うことにしたのです。
身体の向きまで、感知できるのに驚き
―使用した感想はいかがでしたか。
体動の有無だけでなく、身体の向きまでセンサーで感知できてデータ化されるのには驚きました。保育士の目にくわえ、システム面でバックアップされる安心感がありましたね。
また、子どもの上半身の服にセンサーをつけるだけで、午睡状況をタブレット端末でチェックできる点も評価。「子どもを見守るICTシステム」というと、病院のような大きな機器を想像しがち。ただ、そんなモノを保育室には置けませんから。午睡チェックサービスは高性能で使いやすいうえに、子どもの負担にもならないため、今年の4月から導入しました。
―今後どのように活用していこうと考えているのでしょう。
ICTに依存しない活用を行っていきたいと考えています。大事なのは「ICT化したからラクになった」というレベルの話ではなく、負担が減ったぶんをどう今後の保育に活かしていけるかということ。
以前は、平等かつ画一的に子どもと接する保育士が優秀だとされていました。しかし現在は、子どもたち一人ひとりの個性を伸ばす保育が求められています。そのためには、子どもや保護者に語りかける機会を増やし、個々の子どもが求めている保育を見極める必要があります。今後は、機械ができるところは機械にまかせ、より本質的な保育にシフトしていく必要があると考えているのです。
これからは、単純作業をICT化していくという発想ではなく、ICTを活用することで子どもたちの情報を蓄積し、それを保育に活かせるようになればいいと思っています。
―導入以前はどのような状況でしたか。
佐藤:うつ伏せになっていたり、お腹の浮き沈みがなくなると「大丈夫かな?」と心配ばかりして大変でした。
鴇田:チェックシートの書く場所を間違えたり、書きモレがありました。
―午睡チェックサービスの感想は。
鴇田:自動的に矢印が記録されていくのは、すごく助かっています。
佐藤:5分間隔で音がなるので確認している実感があり、記録された矢印と身体の向きがあっていると安心できます。