※下記は自治体通信 Vol.29(2021年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
地方創生の柱として、地域への観光客誘致は各自治体にとって長く課題となってきた。移動や外出が制限されるコロナ禍であっても、経済・社会活動を支えるうえで、地域活性化はむしろより一層重要になっている。そうしたなか、佐賀県では、県庁舎を舞台に地域の魅力を発信する「アート県庁プロジェクト」という独自のイベントを開催し、大きな集客効果をあげている。担当の田島氏に、取り組みの詳細を聞いた。
佐賀県データ
人口:80万7,712人(令和3年2月1日現在)世帯数:31万6,513世帯(令和3年2月1日現在)予算規模:7,459億1,500万円(令和3年度当初案)面積:2,440.69km²概要:九州の北西部に位置し、東は福岡県、西は長崎県に接し、北は玄界灘、南は有明海に面している。東京まで直線距離で約900km、大阪まで約500kmであるのに対し、朝鮮半島までは約200km足らずと近接しており、大陸文化の窓口として歴史的、文化的に重要な役割を果たしてきた。
いかに夜間に楽しめる、コンテンツを強化するか
―「アート県庁プロジェクト」を企画した背景を教えてください。
当県が観光施策を推進するなかで、課題に感じていたのが、「いかに夜間に楽しめるコンテンツを強化するか」でした。県内での消費を増やしてもらうためには、地域での滞在時間を延ばし、地域を回遊してくれる観光客を増やす必要があります。当県の場合、佐賀城公園に隣接する県庁舎が地域のランドマークとなっており、展望ホールからの景観が一部で評判になっていました。そこで、この資源を活かし、夜間でも佐賀の魅力を発信できる方法はないかと考えたのです。平成28年のことでした。
―具体的に、どのような検討を行ったのでしょう。
「展望ホールからの夜景」という、ここでしか見ることができない資源を活かしながら地域の魅力を高める方法を募集したところ、ネイキッドから、窓ガラスに投影したプロジェクションマッピングと夜景を融合した「夜景体感イベント」を提案されました。プロジェクションマッピングのスクリーンには、ENEOSが開発した『カレイドスクリーン』というフィルムを使用。これはガラスとほぼ同じ光透過率を誇るもので、窓ガラスに貼りつけても透明性が維持され、昼夜を問わず、景観の魅力を損なうことはありません。
プロジェクションマッピングであれば、時々にテーマを設定して、コンテンツを定期的に変更することができ、長く設備を有効活用できます。当時は、東京駅でのイベントが大きな話題になったこともあり、当県でも「アート県庁プロジェクト」と銘打ち、イベントの立ち上げを決めたのです。
5年間で18万人の来場者、周辺への回遊も増加
―効果はいかがでしたか。
期待以上の集客効果があり、イベントの来場者数は年間約4万人、この5年間で18万人を数えています。県庁という施設は、一般の住民にとっては普段足を運ぶところではありませんから、夜の来庁者数はせいぜい年間1万人程度でした。なかには、本イベントを目的とした県外からの観光客もおり、周辺地域の振興にも貢献しています。
平成30年度までの3年間は無料の常設展というカタチでイベントを開催してきました。しかし、持続可能な方法を考えるなかで、県の事業費を投入しなくても維持していける形式を模索。地域色を活かした魅力あるコンテンツを企画し、平成31年度からは有料化に挑戦しましたが、それでも半年で2万人ほどと予想を上回る来場者を獲得できています。
―今後の計画を教えてください。
資源を活かした誘客としては、一定以上の成果を得られたと考えています。課題だったナイトエコノミーの強化にもつながりましたし、「佐賀の魅力を再発見できた」という声も寄せられています。今後は、来場者の4割程度と見られる周辺地域への回遊を促し、地域経済への波及効果をさらに高めるプロジェクションマッピングの新たな活用法を検討していきます。