徴税率をアップして12億円税収増の例も
―人口減少は自治体の財政にどんな影響をもたらすのですか。
「生産年齢人口」が減少することにより税収が縮小することです。一方で、高齢者人口が増加すれば扶助費が拡大。その結果、財政のひっぱくを招くかもしれません。
―それでは税収を増加させる手段を教えてください。
若い世代の移住や企業誘致を促進して、税収をあげるのが王道です。それにくわえて、徴税率をあげることが考えられます。総務省の「平成24年度道府県税徴収実績調査」を見ると、道府県民税の徴税率は93.1%。つまり約7%は税を納めていないのです。ですから、この数字を高めていくことが求められます。たとえば静岡県は平成24年に徴税率を前年より0.6%アップしました。その結果、12億2000万円ほど税収が増加したのです。
それから法定外税も考えられます。地方税法で定められている税目とは別に、自治体が独自に条例を定めて課する税のことです。税金の使いみちを特定しない法定外普通税と、特定する法定外目的税があり、総務省によれば平成26年4月1日現在で前者を19自治体、後者を36自治体が実施しています。次ページ左上の図表①が、そのおもな事例です。
―税収の拡大以外に財政に寄与する取り組みはありますか。
税金によらない収入、つまり税外収入を増やしていくことも今後は重要になっていきます。各種証明書の取得や粗大ごみの回収の際の料金などが代表的なものです。とはいえ自治体が平成24年度に集めた手数料や使用料は、歳入総額の約2%(総務省『平成26年版地方財政白書』)です。そこで最近は「ふるさと納税」や「命名権」、さらには「クラウドファンディング」といった税外収入に注目が集まっています。
自治体の創意工夫による 寄付の獲得競争が過熱化
―「ふるさと納税」はどんな制度なのですか。
「納税」という2文字がありますが、実際は寄付です。そもそもは「進学や就職で都会へ出てきた人に、出身地の自治体に貢献する機会を与えよう」という趣旨で国が始めたものです。
しかし実際は、出身地ではない「ふるさと」に寄付するケースが多いようです。その理由は、自治体が寄付に対するお礼として、その地域の特産品や名産品を謝礼品として送っていることです。そして昨今では、謝礼競争が過熱しています。中之条町(群馬県)や真室川町(山形県)は「一日町長体験」を用意。宮津市(京都府)は、「宮津湾を望む住宅分譲地を無償譲渡する」ことを打ち出しましたが、さすがに総務省から「待った」が入り断念することになりました。
この結果、ふるさと納税で税外収入を“稼ぐ”自治体が多く登場しています。平戸市(長崎県)は平成26年度の寄付申込額が10億円を突破しました。左の図表②は同市を筆頭とする申込額・納付額のランキングです。国が意図した目的とは違う方向に進みつつありますが、自治体が創意工夫をこらした取り組みを展開している点では評価できると思います。
―「命名権」について教えてください。
ふるさと納税が話題になる前は、「命名権」が注目されていました。公共施設などの所有者である自治体が、その施設などの命名権を企業に提供し、その売却益を受ける仕組みです。具体的な事例として、調布市(東京都)の東京スタジアムは「味の素スタジアム」になりました。これで同市は6年間で14億円の税外収入を得ています。左の図表③が、命名権のおもな事例です。
ただし、こうした億単位の事例は少なくなり、最近はよくて1000万円程度が多くなっています。
クラウドを活用して寄付集めに成功した鎌倉市
―税外収入の確保に成功した事例はありますか。
鎌倉市(神奈川県)は、観光スポットを案内する掲示板を市内10ヵ所に新設する際、クラウドファンディングを活用しています。インターネットを通じて、不特定多数から寄付を募る手法です。平成25年11月から一口1万円として寄付を募り、寄付者の名前を新設する観光案内板に刻むことにしました。すると、わずか3週間で目標金額の100万円が集まり終了しました。
同市では手軽に寄付できるようにするため、「Suica」をかざすと寄付ができる取り組みも検討中です。実施への壁となる国の規制の対象から外してもらうため、平成25年9月に国に特区申請をしています。いくつか税外収入の事例を紹介しましたが、基本は税収を確保することです。税収確保をおざなりにして税外収入にやっきになるのは本末転倒です。この点は注意してください。