新潟県新潟市の取り組み
ウィズコロナ時代の観光推進策①
地域色豊かな体験型コンテンツで、急増する「教育旅行」ニーズに応える
新潟市 観光推進課 畑 友教
※下記は自治体通信 Vol.37(2022年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
長引くコロナ禍を背景とした観光産業の苦境を打開するため、マイクロツーリズムの推進といった観光推進策に力を入れ始める自治体が増えている。新潟市(新潟県)もそうした自治体のひとつで、修学旅行や宿泊学習など「教育旅行」の誘致に向けたプログラムの造成に取り組んでいる。教育旅行に着目した理由や取り組みの詳細を、同市観光推進課の畑氏に聞いた。
[新潟市] ■人口:77万8,260人(令和4年2月末現在) ■世帯数:34万5,342世帯(令和4年2月末現在) ■予算規模:7,737億5,400万円(令和4年度当初案) ■面積:726.27km2 ■概要:古くから港町として栄え、明治22年の市制施行以来、近隣市町村との合併によって人口が約81万人となり、平成19年には本州日本海側初の政令指定都市となった。国際空港や港湾、新幹線、高速道路網などが整備された交通拠点であると同時に、国内最大の水田面積を持つ大農業都市でもあるという特徴を兼ね備えている。
近隣の小中高100校から、6,300人が市内を訪れた
―観光産業の苦境を前にして、教育旅行の誘致に着目したのはなぜですか。
コロナ禍を背景に、令和2年の春ごろから新潟市内での教育旅行を検討する近隣の学校が増えてきたためです。教育旅行の実施自体を中止する学校も多くあるものの、大人数での遠方への移動を控えて近隣地域で実施する学校も少なくないことが背景にあります。実際に令和2年度は、小中高の約100校から合計で約6,300人の児童・生徒が日帰りを含む教育旅行のために新潟市を訪れました。
誘致を進めるなかで観光業界からは、「探究的な学習」をキーワードとした体験型コンテンツのニーズが非常に高いとも聞いていました。これには、新学習指導要領の実施を背景とした学校側の事情があるようです。そのため当市は、教育旅行に適したプログラムづくりに着手したのですが、そこでは課題を感じていました。
―どういった課題でしょう。
市内に点在する既存の地域資源から、「教育的価値」と「地域的な独自性」を備えたプログラムをいかにつくるかということです。観光推進課では、美術館や農業施設などでの体験プログラムを十数ほど独自につくってみたのですが、そもそも教育プログラム造成の経験が乏しく、「新潟市ならでは」と言える要素を探すのが難しいこともあり、手探り状態のまま議論が煮詰まってしまいました。そこで我々は、教育コンテンツの企画に関する知見が豊富な事業者にプログラムの造成を委託しようと、令和3年10月に公募を実施。幅広い教育事業を手がける学研グループで、旅行ガイドブックの制作などを行う地球の歩き方社への委託を決めました。実際のプログラムの造成は、同じ学研グループのアイ・シー・ネット社による支援のもとで進めることとなりました。
地域事業者との協力による、受け入れ体制づくりにも期待
―実際、どのようにプログラムの造成を進めていったのですか。
アイ・シー・ネットからはまず、「食と農」「伝統文化」「地形」「環境」「まちづくり」という5つの教育テーマごとに、市内3泊4日のプログラムを企画する方針が提案されました。その後は、アイ・シー・ネットの社員が市内のさまざまな場所を実際に訪問したうえで、具体的なプログラムの造成を進めています。その訪問先には、当市の農村整備関連の部署や商工会議所など、観光とは分野が異なる場所も多く、我々が発想しえなかったアプローチにより企画が進んでいると感じています。
―どういったプログラムの企画化が進んでいるのでしょう。
たとえば、「伝統文化」というテーマでは「芸妓文化」や「にいがた総おどり*1」。「環境」のテーマでは「潟」や「浜」といった、地域資源を組み入れたコンテンツを企画しています。いずれも当市の特徴的な地域資源であり、これらをさらに歴史や文化といった地域のバックグラウンドと融合させることで、コンテンツの教育的価値を高める内容になりそうです。「新潟市ならでは」と言える非常に地域色ある内容でもあり、完成を楽しみにしています。
また、アイ・シー・ネットではプログラム造成に際し地域の多くの事業者と協力関係を構築してくれているので、持続可能な受け入れ体制づくりにも期待しています。
―教育旅行誘致に関する今後の方針を聞かせてください。
教育旅行の誘致に着目できたのはコロナ禍がきっかけとなりましたが、コロナ後も見すえた重要かつ長期的な地域振興策のひとつとして、引き続き力を入れていきます。より多くの学校にプログラムを採用してもらうことで、「探究的な学習の場」という、新潟市の新しいブランドの確立につなげていきたいですね。
支援企業の視点
ウィズコロナ時代の観光推進策②
地域振興の新たな方策。いまこそ教育旅行誘致に着目せよ
アイ・シー・ネット株式会社 グローバル事業部 マネージャー 山中 裕太
ここまでは、教育旅行の誘致に向けた新潟市の取り組みを紹介した。ここでは、同市の教育旅行プログラム造成を支援しているアイ・シー・ネットを取材。教育旅行をめぐる学校の現状や、教育旅行プログラムを造成する際のポイントを、同社の山中氏に聞いた。
レジャー性よりも、教育的価値が求められる
―教育旅行の実施をめぐる学校の現状を聞かせてください。
新型コロナの感染拡大防止の観点から、大都市への移動を控え、教育旅行を近隣で実施する学校が急増しています。これにより、従来、教育旅行を誘致したことがなかった地域にも、他地域の児童・生徒 たちを受け入れる機会が生まれています。このほか、令和4年4月より、高校教育の現場では「探究的な学習」が盛り込まれた新しい学習指導要領による教育が開始されるため、教育旅行にレジャー性よりも教育的価値を求める学校も増えています。そのため、従来的な視点による観光資源がない自治体にとっても、いまはまさに教育旅行を誘致する好機だと言えます。
―教育旅行を誘致するにあたってのポイントはなんですか。
教育的価値の高い旅行プログラムを用意することです。たとえば、農林水産業や伝統文化などの地域資源を社会課題と関連づけるのは、その一つの方法です。「探究的な学習」では、児童・生徒自らが課題を設定し、その解決策を探究することに重きが置かれます。そのため教育旅行は、課題解決に向けた情報収集を行う貴重なケーススタディの場となるのです。当社では、こうした教育旅行の受け皿となりたい自治体に対し、体験型コンテンツの企画を支援しています。
―具体的に、どのようなコンテンツを企画できるのですか。
たとえば、三重県伊賀市では、「忍者の里×情報リテラシー」をテーマにコンテンツを企画しました。忍者にはさまざまな幻術を繰り出すイメージがありますが、なぜそのような忍者像が定着したのか。その経緯について、児童・生徒に古文書解読などを通じて探究してもらい、情報リテラシーというテーマの本質に触れてもらうのです。
ここではわかりやすい地域資源の活用例をあげましたが、地域内に有名な資源がない自治体に対しても、当社は地域的な独自性が高いコンテンツ企画を支援できます。
複数の地域資源を融合し、独自性あるコンテンツを企画
―企画の独自性については、どのように追求しているのでしょう。
地域の歴史や風土、文化についての事前調査や住民へのヒアリングを通じ、独自性の高いコンテンツを企画します。当社が支援した新潟市で例えると、「港町」や「花街文化」といった地域の特色を個別に注目するだけならば、他地域にも同様の資源が見当たりますが、「明治の一時期、人口が日本でもっとも多い県だった」という地域固有の歴史と融合させれば、オンリーワンの地域資源になります。こうした視点から、学校側に「ぜひ、この地域で教育旅行を実施したい」と思ってもらえるような企画に当社はこだわっています。
―自治体に対する今後の支援方針を聞かせてください。
教育旅行の受け入れ体制構築を含め、自治体の教育旅行誘致を幅広く支援します。当社はこれまで、政府開発援助に参画し、「ソフト系」と呼ばれる、発展途上国における制度や現地人材育成に関する開発支援を長年手がけています。その実績と知見は、地域における引率者の育成や、域内経済循環を促す仕組みづくりに活かせると考えています。関心のある自治体のみなさんはぜひ、ご連絡ください。
山中 裕太 (やまなか ゆうた) プロフィール
昭和61年、京都府生まれ。平成25年に広島大学大学院国際協力研究科を修了後、人事コンサルティング企業に2年間勤務。平成27年、アイ・シー・ネット株式会社に入社。令和2年より現職。おもに地方創生事業や教育事業に関連した新規事業開発を担う。
アイ・シー・ネット株式会社
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