京都府の取り組み
「オール京都」体制で挑む、スタートアップ・エコシステム形成
京都府 商工労働観光部 ものづくり振興課 課長 足利 健淳
※下記は自治体通信 Vol.39(2022年6月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
企業誘致や中小企業助成など、各自治体が地域経済の活性化を目的としたさまざまな振興策を展開するなか、地域性を活かした京都府の取り組みが注目されている。歴史的に多くの大学や研究機関が所在し、「知の集積」が図られてきた強みを活かし、スタートアップ企業の育成支援に「オール京都」体制で取り組んでいるのだ。取り組みの概要やこれまでの成果などについて、この取り組みを主導する商工労働観光部ものづくり振興課課長の足利氏に話を聞いた。
[京都府] ■人口:254万6,189人(令和4年4月1日現在) ■世帯数:119万2,986世帯(令和4年4月1日現在) ■予算規模:1兆6,506億1,200万円(令和4年度当初) ■面積:4,612.20km2 ■概要:南北に細長い形の京都府は、そのほぼ中央に位置する丹波山地を境にして、気候が日本海型と内陸型に分かれる。丹後・中丹地域の海岸線は、変化に富むリアス式海岸で、豊富な景勝地や天然の良港に恵まれている。中丹地域から中部地域は、大部分が山地で、丹波山地を源に桂川水系、由良川水系に分かれ、その流域には、亀岡、福知山盆地のほか小盆地が点在する。京都・乙訓、山城中部・相楽地域は、桂川、宇治川、木津川の三川合流を要に、山城盆地が広がっている。
京都の強みを融合する、「共創の場」をつくる
―いま、スタートアップ支援に力を入れている理由はなんですか。
府内に存在する1万4,000社弱の製造業や、職人技が活きる伝統産業は、いずれもデジタル化やグローバル化による厳しい競争環境にさらされています。この危機を乗り越えるためには、新しい技術と発想を持ったスタートアップの力を借り、新産業創出を図ることが不可欠と考えているためです。幸い、京都には大学や研究機関が集積し、多彩な技術シーズやそれらを基盤とした「重層的な産業構造」があります。この京都の強みを融合する「共創の場」をつくることで、スタートアップ・エコシステムを形成することが、我々の目指すところです。まずは、京都府など31団体が結集した「京都スタートアップ・エコシステム推進協議会」を設立し、「オール京都」体制を構築。さらに京都府、京都市、京都商工会議所、公益社団法人京都工業会の4者による「京都知恵産業創造の森」が支援事業の推進母体となっています。
「オール京都」体制でスタートアップを支援(京都府と「京都スタートアップ・エコシステム推進協議会」のみなさん)
―どのような支援を行っているのですか。
京都府では、一定期間にわたる継続的な支援が重要だと考えてきました。我々が、現存する府内スタートアップ450社すべての存在を把握し、継続的に情報収集を図っているのも、そのためです。そこで、京都府のスタートアップ支援策としては、3つのステップを設定しています。最初のステップは「起業家支援」です。ここでは、起業相談や企業内人材の起業創出支援など、令和2年度だけで年間約150件のプログラムを実施し、約3,700人を支援してきました。そして次のステップが「支援者創出」です。これまで京都府内には比較的少なかったエンジェル投資家といった支援者を府外から呼び込み、スタートアップにとっての成長リソースの充実を図ったのです。現在、連携する府外投資機関数は80以上、資金調達額は年間160億円以上に達しています。
ピッチイベントを介して、110件のマッチングが進行
―3つ目のステップは、なんでしょう。
いまもっとも力を入れている「事業者間連携」です。スタートアップが事業を飛躍させるためには、既存の事業会社との協業がひとつの重要な要素となります。そこで我々はイシン社と連携し、今年2~3月にかけて「スタートアップ・アライアンス・リンク」というオンラインによるピッチイベントを開催し、スタートアップと事業会社とのマッチングの場をつくりました。第1回が「メディカル&ヘルステック」、第2回が「エネルギー&クリーンテック」というテーマで、各回9社のスタートアップに登壇してもらいました。
―どういった成果がありましたか。
2回のイベントで、事業会社から250人に参加いただき、メディカル&ヘルステック分野で約40件、エネルギー&クリーンテックで約70件のマッチングが進んでいると聞いています。イシン社のネットワークを活かし、新規事業担当者に直接コンタクトできたのが、成功の大きな要因でした。今後は、ロボットやIoTといった分野でのマッチングや、異業種間の連携を図れるようなスキームも検討し、支援の幅を広げていく考えです。
事業者マッチングイベント活動報告
「スタートアップ・アライアンス・リンク」
前ページで紹介した京都府によるスタートアップ企業支援。この一環として事業者マッチングイベント「スタートアップ・アライアンス・リンク」が開催されている。今年2月には「メディカル&ヘルステック」を、同3月に「エネルギー&クリーンテック」をテーマに、それぞれ9社の京都発スタートアップ企業が登壇した。ここでは、その発表内容を紹介する。
[第1回] 京都から医療・健康の未来を開く「メディカル&ヘルステック」
クアドリティクス株式会社 (創設年 : 2018年)
心拍変動解析AIの社会実装で導く発作・重症化の予見
「心拍変動解析AI技術」を活用し、てんかんをはじめ、心不全や脳梗塞などさまざまな病気・発作の症候を予見するシステムの開発を目指す。同社によれば、独自の「医療水準の心電計測デバイス」は、スマートウォッチなどにはない、自律神経の変化を瞬時に検出する機能を有するとのこと。「長時間連続データ解析ノウハウ」「対処時間を生む予知型」「持ち歩けるモバイル解析エンジン」により、心拍変動解析技術の社会実装を図るという。
マイキャン・テクノロジーズ株式会社 (創設年 : 2016年)
iPS技術を生かした「Mylc細胞」で世界の創薬を加速
iPS技術で実現した、高精度・高感度の研究用血球様細胞「Mylc」の開発・販売をはじめ、同細胞を用いた効能評価や各種試験の受託サービスも展開する。同一遺伝子情報をもつ均質で精度の高い血球細胞を多量・安定的に提供できることが強み。また、一切の動物資源を使うことなく、すべての微生物を高感度で検出できる「aMylc-MAT細胞」も開発中。発熱物質試験などの安全性評価市場の開拓・参入を目指しており、海外展開も見据えている。
emol株式会社 (創設年 : 2019年)
アプリひとつでメンタルヘルスの予防~治療を
感情を記録して、AIチャットロボと会話することで、ユーザー自身の感情と向き合えるアプリ『emol(エモル)』と、従業員のこころのケアを促進する法人向けメンタル分析・セルフケアサービス『emol for Employee』を提供。認知行動療法のプログラムを実装した『emol』の総DL数は現在、約30万。今後は、薬事承認による「認知療法・認知行動療法」の代替を目指すほか、SaMD開発を進め、健康~未病~疾患者を包括的にサポートする。
オルバイオ株式会社 (創設年 : 2018年)
L-グルコース活用でがんの超早期発見、難治性がんの治療を実現
株式会社COGNANO (創設年 : 2014年)
アルパカのVHHビッグデータを活用し医薬品の設計・開発を最適化
株式会社Famileaf (創設年 : 2020年)
アプリ「hug+u」を通して妊婦に優しいコンソーシアムを形成
HiLung株式会社 (創設年 : 2020年)
iPS細胞を用いた「肺の体外再構築」技術を創薬、再生医療に応用
株式会社Cooperation Works (創設年 : 2013年)
体の重心移動を測定・補正するシステム「CAT-b.c.s.」
Xeno-Interface株式会社 (創設年 : 2019年)
発明品は3,000超。アンドラッガブルな標的への創薬を展開
代表取締役 林 一広 氏
[第2回] 京都の技術力で切り拓くエネルギーと環境の未来「エネルギー&クリーンテック」
京都フュージョニアリング株式会社 (創設年 : 2019年)
核融合の産業化によるカーボンニュートラル社会の実現へ
事業・マーケティング本部 マネージャ
堀 洋彰 氏
「温室効果ガスを排出しない」「資源が海水中に豊富にある」ことから、安全で無尽蔵の究極的なエネルギーソリューションと考えられる「核融合」の実現と産業構築を掲げている。近年多く見られる、核融合熱の生み出しに注力する企業に対し、同社は核融合熱の取り出し(炉心要素技術)・核融合炉のプラントエンジニアリングと基幹装置の販売に注力している。ファブレスの同社は、事業会社などとの裾野の広い協業で核融合の産業化を目指す。
フォロフライ株式会社 (創設年 : 2021年)
サブスク展開を目指すファブレスでのEVトラック開発・販売
ファブレス生産によるEV販売~安全品質管理、EVの設計変更による仕向地対応(企画・素材開発)などを行う。中国の生産拠点では1トンクラスのEVトラック開発・販売が進んでいるといった優位性があるという。令和4年夏には新型トラック販売、同5年から量産出荷・多品種展開をスタートさせる計画。フリートマネジメントを行い、充電器や電気代、メンテナンス料などをパッケージ化したサブスクでのサービス提供を予定している。
Curelabo株式会社 (創設年 : 2021年)
さとうきびの未利用資源を活用したサスティナブルな素材開発
アパレル産業において、環境負荷が高い素材に代わる代替品の開発と、大量廃棄のビジネスモデルからの脱却を目指す。具体的には、京都府内の大学と共同で、さとうきびの搾りかす「バガス」由来の繊維や、製糖過程で発生する副産物「糖蜜」を使ったバイオインディゴ染料などの開発、バガスの炭化による土壌改良剤への活用などを進めている。パイナップル葉、籾殻、茶殻、麦芽など植物残さの新たな活用で廃棄物削減の取り組みも進行中。
AC Biode株式会社 (創設年 : 2019年)
独立型交流電池から廃プラ解重合、灰リサイクル事業で展開幅広く
独立型交流電池・回路の開発のほか、工業用灰をアップサイクルする灰リサイクル事業などを展開する。同事業では、石炭灰やバイオマス灰などから多機能化学品『CircuLite』を製造する技術を保有している。同製品は、活性炭やゼオライトと同様の用途を持ち、イオン交換機能もあるため、汚染物質を物理的のみならず化学的にも吸着させるという。また、下水汚泥のリサイクル率の向上や処理コスト削減などの活用メリットも考えられる。
株式会社ディーピーエス (創設年 : 2017年)
工場排水・廃液から低濃度パラジウム、貴金属を徹底回収
WINDシミュレーション株式会社 (創設年 : 2019年)
微風から暴風まで高効率に発電する迎角&翼径制御の小型垂直軸風車
株式会社monotone technology (創設年 : 2016年)
ワイヤレスケミカルセンサシステムの工業排水管理への応用
株式会社TSK (創設年 : 2021年)
鉄触媒を用いて林業廃棄物を再資源化
CONNEXX SYSTEMS株式会社 (創設年 : 2011年)
蓄電池などの開発に強み。次なる挑戦はEV中古電池の2次利用
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