※下記は自治体通信 Vol.62(2024年12月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
今年9月、記録的な集中豪雨が石川県能登地方に甚大な被害をもたらした。昨今の水害は気候変動によって激甚化し、全国どこでも発生するリスクが高まっている。この予測困難な災害に対し、国土交通省では令和2年度より「流域治水」という施策を推進。同省水管理・国土保全局の富本氏は、「河川の氾濫を防ぐだけでなく、被害拡大を防ぐまちづくりが必要」だと語る。こうした「流域治水」の実現に向け、自治体に求められる対策を同氏に聞いた。
従来の治水対策だけでは、住民の安全確保が困難に
―「流域治水」を推進している背景を教えてください。
昨今の気候変動によって、集中豪雨の発生リスクが高まっており、日本では1時間あたり50㎜以上の激しい大雨の発生件数が過去40年間で約1.5倍に増加、過去10年間で水害・土砂災害に見舞われた自治体は1,700にも達しています。こうした状況を受け、令和2年に、従来の河川管理者が築堤などを行う河川整備だけでなく、住民生活の安全を水害から守るためには流域全体で治水対策に取り組むことが必要と判断しました。そこで、自治体や住民も含む、河川流域のあらゆる関係者による協働での治水対策として、「流域治水」への転換を推進することとしました。
―詳しく教えてください。
大きく3つの対策を推進しています。一つは、従来と同様に河川管理者が行う築堤やダム整備などの河川整備や、雨水貯留など流域で水を貯めて「氾濫をできるだけ防ぐ・減らすための対策」。2つ目は、氾濫域*の土地利用規制や危険箇所における対策などを実施する「被害対象を減少させるための対策」です。最後に、水害リスク情報の共有や、避難体制の強化などを図る「被害の軽減、早期復旧・復興のための対策」です。これらを柱にして、各対策に資する施策を官民で推進しています。
そのなかで、自治体のみなさんには、万が一河川が氾濫して水害が発生しても、住民生活への被害を最小限に抑えるまちづくりを重点的に行ってほしいと考えています。浸水リスクの高い区域での開発規制や住まい方の工夫をはじめ、浸水範囲を狭める二線堤*や自然堤防の保全などは、地域の水害リスクに直接向き合う自治体にこそできる施策だからです。
*氾濫域: 河川などの氾濫によって浸水が想定される区域
*二線堤: 本堤防の背後に築造される堤防のこと。本堤防が決壊したとき、洪水氾濫の拡大を防ぎ、被害を最小限にとどめる役割を果たす
水害への備えは、地域全体で取り組むべき
―そうした取り組みで自治体に必要なことを教えてください。
地域事情に詳しい地元企業や住民と協力し合いながら、地域全体で水害リスクを共有して対策を考えることです。たとえば、商業施設の地下に設置する雨水貯留施設や、「田んぼダム*」などの取り組みは、企業や農家など、地域の理解と協力が欠かせません。そのためには、自治体が住民に対する水害リスクの周知や対策に向けた話し合いを行い、「水害から自分たちの暮らしを守る」という意識を地域全体に醸成することが必要でしょう。
―今後の展望を聞かせてください。
今年9月に石川県能登地方を襲った豪雨災害のような、いつどこで発生するかわからない水害リスクに対し、当局は、「流域治水」の加速化・深化を目指します。令和6年は、事業への交付金や支援も充実させました。自治体のみなさんには、これらを活用してもらい、水害への備えを強化した「流域治水」によるまちづくりを速やかに推進してほしいですね。
*田んぼダム: 水田に降った雨水を一時的に田んぼに貯めてから排水することで、農地や市街地の浸水被害を軽減する取り組み
工費を縮減できる越水対策工事で、「流域治水」に資する早急な整備を
三菱ケミカルインフラテック株式会社
技術本部 開発センター インフラ資材1グループ 技術士 (総合技術監理部門、建設部門) 一級建築士 コンクリート診断士
明永 卓也あきなが たくや
昭和43年、東京都生まれ。平成12年、三菱化学産資株式会社(現:三菱ケミカルインフラテック株式会社)に入社。平成29年より現職。おもにジオシンセティックス製品の開発を担う。
―「流域治水」を進めるにあたり、自治体はどのような点に留意すべきですか。
施策を実行するスピード感が重要だと考えています。1,700もの自治体が水害や土砂災害に遭っていることから、全国どの自治体でも水害の発生リスクが高まっており、従来の治水対策を早急に見直すべきでしょう。特に古いため池や河川堤防などは、越水や浸透に対する安全性が不足しており、いち早く対策する必要があります。そうしたなか、当社では、発注機関の技術基準に沿って、ため池や河川堤防などの法面整備を進められる侵食防止用の『ゴビマット™』を、自治体に推奨しています。
―特徴を教えてください。
当社の『ゴビマット』は、多数のコンクリートブロックと、耐久性に優れた吸出し防止シートが一体化しており、盛土法面の保護・侵食防止に優れています。これらの基本機能に加え、ブロックの形状やシートの特性を複数の種類から選べるため、ため池や河川堤防だけでなく、「流域治水」対策に挙げられる二線堤や遊水地、調整池の整備にも活用できます。さらに軽量で1日当たりの施工量が大きく、工期を短縮でき、全体の施工コストも抑えられます。特に「遮水シート一体化タイプ」は、堤防法面の耐越水性能の向上とともに工期を従来比で37%縮減*できます。
―自治体に対する今後の支援方針を聞かせてください。
低コスト・短工期で施工できるため、限られた予算のなかでも、「流域治水」における多様な場所のハード対策を迅速に支援できます。ぜひご活用ください。
*令和6年度国土交通省土木工事積算基準ブロックマット工などを参照して、三菱ケミカルインフラテック社で算出