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自治体は「地方政府」としての気概をもて

自治体は「地方政府」としての気概をもて

地方創生を成功の軌道に乗せるために

自治体は「地方政府」としての気概をもて

一般財団法人地域開発研究所 上席主任研究員/博士 牧瀬 稔

国が掲げる「地方創生」という政策。すべての自治体が真摯に取り組んでいるが、成果は上がっているのだろうかー。地方創生の現状と今後の展望について、地域開発研究所上席主任研究員の牧瀬氏にQ&A形式で提言してもらった。

※下記は自治体通信 Vol.7(2017年1月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

漠然としたものになった「地方創生」の意味

―いま、国をあげて「地方創生」が進んでいます。地方創生はなにを目指しているのでしょうか。

 国の考える地方創生は「まち・ひと・しごと創生法」に明記され、同法第1条に地方創生の狙いが記されています。しかし一文が379字もあるため、条文だけではあいまいな感じがぬぐえません。それどころか、さまざまな行政分野に「地方創生」の4文字が踊り、その結果「地方創生」の意味は漠然としたものになってしまったような気がします。

 そこで、同法第1条を目的別に分解しました。すると、地方創生は、①少子高齢化の進展に的確に対応し、②人口の減少に歯止めをかける、③東京圏への人口の過度の集中を是正し、④それぞれの地域で住みよい環境を確保して、⑤将来にわたって活力ある日本社会を維持し、⑥国民一人一人が夢や希望を持ち、潤いのある豊かな生活を安心して営むことができる地域社会の形成、⑦地域社会を担う個性豊かで多様な人材の確保、⑧地域における魅力ある多様な就業の機会の創出等、を目指していると理解できます(図表1)。

 第1条を読んでも、理解できない読者も少なくないと思います。そこで、次に国の地方創生を担当する組織名から考えてみましょう。地方創生を担当しているのは「まち・ひと・しごと創生本部」になります。同本部の英語表記は「HeadquartersforOvercomingPopulationDeclineandVitalizingLocalEconomyinJapan」です。最初の「Headquarters」は本部という意味です。そして「OvercomingPopulationDecline」は「(日本の)人口減少を克服する」と訳すことができます。後半の「VitalizingLocalEconomy」は「(日本の)地域経済に生命を与える」と捉えられます。

 意訳すると「地域経済を活性化する」になります。つまり、国が意図している地方創生とは、「人口減少の克服」と「地域経済の活性化」の2点と限定することもできそうです。

 実際、国の地方創生に関連する交付金などの補助メニューをみると、「人口減少の克服」と「地域経済の活性化」の観点から出てきている傾向があります。

人口減少の克服には現時点で疑問符が

―地方創生の意味は理解できました。では地方創生は成功しているのでしょうか。

 結論から言うと「現時点ではわからない」になります。ただし、さまざまな指標にあたると、地方創生は必ずしも成功していないようです。

 私が「地方創生は成功していない」と考える理由を紹介します。地方創生が開始された後に発表された総務省の「住民基本台帳に基づく平成27年の人口移動報告」によると、平成27年1年間の人口移動について、転入が転出より多かった都道府県は、東京、埼玉、千葉、神奈川、愛知、大阪、福岡、沖縄の8都府県だったことがわかりました。東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)は11万9357人の転入超過となっています。

 とくに東京圏の転入超過は前年より9949人増加しており、東京圏への集中がさらに進んでいます。これは「まち・ひと・しごと創生法」が目標としている「東京圏への人口の過度の集中の是正」が達成されていないことを意味します。

 また、「平成27年国勢調査(確定値)」によると、総人口は2015年10月1日時点で1億2709万4745人となり、前回調査(平成22年)から約96万人減少しています。国勢調査としては大正9年の調査開始以来、初めて減少に転じました。前出の「住民基本台帳に基づく平成27年の人口移動報告」によれば、転出超過は多い順から北海道、兵庫、新潟、青森、静岡などの39道府県。地方創生が目標としている人口減少の克服という観点からは、現時点では疑問符がつけられます(図表2)。

目標人口と実数人口にかい離が生じている自治体

―地方から人口が減っているわけですね。地域経済の状況はどうでしょう。

 地域経済も依然として厳しい現状があります。帝国データバンクの調査によると、平成27年に東京圏にほかの道府県から本社を移転した企業数は335社となり、平成3年以降で最多ということがわかりました。

 国は地方創生の一環として東京圏から地方圏に本社を移転する企業への法人減税などを実施しています。しかし、実際は国の狙いとは逆の状況となっています。そのほかさまざまな統計データにあたると、多くの地方都市の経済状況には厳しいものがあります。これらの指標から、現時点では、地方創生は成功しているとは言えないと思います。

 一方で平成27年の合計特殊出生率は1.46 であり、前年を0.04ポイント上回っています。また健康寿命は着実に伸びています。これらの観点で捉えると「まち・ひと・しごと創生法」が明記する「少子高齢化の進展に的確に対応」は達成できているかもしれません。

 地方創生が開始されて数年であるため、結論を述べるのは時期尚早だと思います。ただし、現時点では「所期の狙い通りにはうまく進んでいない」と捉えたほうが妥当だと私は思います。

―地方自治体における地方創生の状況はどうでしょうか。

「多くの地方自治体が苦悩している」と言えます。国の地方創生に呼応し、多くの自治体で「地方版総合戦略」を策定しました。同戦略は、今後5年間の人口減少対策を明記しています。同戦略は、国が自治体に対し平成28年3月末までに取りまとめるよう求めていました。

 私は、すべての「地方版総合戦略」を確認したわけではありませんが、多くの同戦略はすでに破たんしていると思っています。具体例をあげましょう。U市の地方版総合戦略では平成27年の人口を3743人と設定しています。しかし国勢調査(速報値)の結果は3587人となっていて、すでに156人のマイナスが生じています。

 S市の戦略では平成27年の目標値を5万713人としています。しかし国勢調査(速報値)は5万300人であり、マイナス413人のかい離があります。さらにK市は平成27年の人口を17万4314人と予測しています。しかし実際は17万2902人であり、マイナス1412人の差があります。

 じつは、多くの自治体は「地方版総合戦略」で設定した平成27年の目標人口に比べ、国勢調査で明らかになった平成27年の実数人口にはマイナスが生じています。つまり、地方創生ははじまったばかりですが、すでに目標人口を達成できていない自治体が多くあるのです。この観点で捉えると、地方創生は破たんしていると言うことができます。

 もちろん多くの自治体が真摯に地方創生に取り組んでいます。しかし見込みの甘さや国の動向に踊らされた感も少なからずあります。今からでも間に合いますので、目標人口と実数人口にかい離が生じている自治体は、現実的な観点から「地方版総合戦略」を変更したほうがいいと思います。

中央政府に言うべきことを言える自治体への意識改革

―地方創生を成功の軌道に乗せるにはどうすればよいですか。

 とても難しい質問ですね。その理由は、地方自治体により実状が異なるため、具体的に例示することができないからです。そこで総論的な観点から、成功の軌道に乗せるための視点を紹介します。

 私なりに「地方創生」の意味を考えます。辞書で調べると、地方とは「全体社会の一部を構成する地域。田舎。旧軍隊で、軍隊以外の一般社会を言った語」という意味です。しかし国が使用している「地方」とは、一般的な意味の「地方」ではありません。行政の世界において、「地方」と言った場合は「地方公共団体」(地方自治体)を指しています。その意味で、東京都(庁)も地方ですし、東大和市(役所)も丸森町(役場)も地方になります。つまり、地方創生は「●●●が創生する」ということになります。●●●には読者が居住する自治体名が入ります。

 次に、創生の意味を調べると「作り出すこと。初めて生み出すこと。初めて作ること」とあります。この観点から考えると、地方創生とは「地方自治体が、従前と違う初めてのことを実施していく。あるいは、他自治体と違う初めてのことに取り組んでいく」という意味になります。すなわち、地方自治体にイノベーションを起こす能動的な取り組みです。イノベーションとは、新結合や新機軸、新しい切り口などと捉えることができます。

 国の制度設計に大きな問題があると認識していますが、地方創生に取り組む多くの自治体は、踏襲や模倣の域を出ない「地方踏襲」や「地方模倣」という状況です。そのためイノベーションは生まれてきません。地方創生を成功の軌道に乗せたいのならば、改めて「地方創生」の意味に真摯に取り組むことが重要です。

 今日、少なくない自治体がドメインに「lg」を使っています。この「lg」の意味を読者は知っているでしょうか。「lg」とは、「localgovernment」の頭文字になります。すなわち「地方政府」という意味です。国の「中央政府」に対して地方の「地方政府」です。

 地方創生は、地方自治体から地方政府に変わる過渡期と私は理解しています。これからの時代は、地方自治体は地方政府としての気概をもたなくてはいけないでしょう。中央政府に対して地方政府は、言うべきことは言っていく時代でもあります。この意識改革が、まずは重要だと思います。

交付金を最大限に活用し地方創生を推進する

―来年度以降、地方創生を進めるうえで注意すべき点はありますか。

 地方創生に限ったことではありませんが、国の交付金や取り組みは「永続ではない」ということを認識するべきです。

 次の記事がありました。それは「K市は、出産した市民に10万円相当分の出産祝金を贈る事業を始めた。平成28年4月以降に市に出産を届け出た人が対象となっている。同事業は国の地方創生交付金を活用している」です。この記事を読んで、読者はどう思ったでしょうか。

 私は「国の交付金がある間はよいが、交付金が途切れたら事業はどうするのか」という疑問をもちました。K市は「交付金が得られなかったので事業は廃止します」と言うのでしょうか。そのようなことは住民がきっと許さないだろうし、公平性の観点でも問題があります。つまり、交付金がなくなっても、K市は自主財源で継続的に同事業を実施していくことになります。その結果、財政がひっ迫していく可能性が高まります。

 内閣府は、地方創生に関する平成29年度予算の概算要求を発表しました。要求額は1205億円で今年度当初より約200億円増えました。国は自治体の先駆的な取り組みを支援し、地方創生を加速させたい考えとのことです。来年度も多くの交付金が流れてきそうです。

 交付金を活用する際のポイントは、次の4点になります。①初期投資だけで終了する事業に応募します。②維持管理費を生み出す仕組みをつくって事業を応募します。③民間企業にお願い(委託)することを想定して、民間企業の意向を組んだ事業とします。④そもそも次年度から実施予定だった事業を応募していきます(図表3)。重要な点は、「国の交付金がなくなったので、事業も廃止します」とはならないような仕組みや仕掛けをつくっておくことです。

 これらの視点をもちつつ、国の交付金を最大限に活用して、その自治体ならではの地方創生を推進してください。

牧瀬 稔(まきせ みのる)プロフィール

昭和49年、神奈川県生まれ。平成14年に法政大学大学院博士課程人間社会研究科修了。在学中から民間シンクタンクに勤めた後、横須賀市都市政策研究所、財団法人日本都市センター研究室などを経て、平成17年に財団法人地域開発研究所研究部(現:一般財団法人地域開発研究所)へ入所。平成23年から現職。新宿区・戸田市・鎌倉市などのアドバイザーや、法政大学大学院などの講師を務める。『iJAMP』(時事通信社)などで連載記事を執筆中。

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