※下記は自治体通信 特別号(2024年5月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
インターネットにおける誹謗中傷に対し、今後どのような対策を練っていけばいいだろうか。その方法を探るため、本企画では特別鼎談を実施。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(以下、国際大学GLOCOM)准教授であり、誹謗中傷問題に取り組んでいる山口氏、TikTokのフォロワー数が1,000万人を超える動画クリエイター・タレントの景井氏、TikTokを運営しているTikTok Japanの金子氏を交え、それぞれの立場から対策を話してもらった。
国際大学
グローバル・ コミュニケーション・センター 博士(経済学) / 主幹研究員 / 准教授
山口 真一 やまぐち しんいち
昭和61年、東京都生まれ。令和2年より現職。専門は計量経済学。研究分野は、社会情報学、情報経済論、情報社会のビジネスなど。テレビや新聞、雑誌をはじめとして、多数のメディアに出演・掲載実績がある。
景井 ひなかげい ひな
平成11年、熊本県生まれ。友人の勧めでTikTokを始め、わずか10日間でフォロワー数が10万人を突破する。令和6年4月時点のフォロワー数は1,000万人超。令和5年のフランス・カンヌ国際映画祭では「世界の7人のクリエイター」の1人に選ばれた。
TikTok Japan(ByteDance株式会社)
公共政策本部 政策渉外担当部長
金子 陽子かねこ ようこ
群馬県生まれ。早稲田大学法学部卒業後、金融機関、パブリック・アフェアーズ分野のコンサルティング会社などを経て、令和2年より現職。動画プラットフォームにおける、青少年の安全・安心な利用環境の実現などを推進している。
10代の男性においては、被害は10%超に
―山口さんは、インターネットをとりまく誹謗中傷の状況をどのように見ていますか。
山口 たとえば、私が所属している国際大学GLOCOMの研究プロジェクト「Innovation Nippon」では、誹謗中傷を「脅迫・恐喝」「侮辱・攻撃」など9つに分類して令和4年に調査を実施しました。その結果、過去1年以内でいずれか1つ以上をネット上で経験した人は4.7%を占めました。年代別では若い人ほど誹謗中傷に遭う傾向にあり、特に10代の男性は10%を超え、1クラス30人とすれば3人は被害に遭っているのです。これはあくまで直接攻撃だけなので、「匂わせ」まで含めると割合はもっと増えるのではと感じています。このような状況を踏まえると、早急に対策を検討する必要があると考えています。
―景井さんは自身の経験を踏まえて、誹謗中傷をどのようにみていますか。
景井 当たり前ですが、誹謗中傷を受けると本当に辛いです。私の場合、特にコロナ禍のときに誹謗中傷を受けました。みなさん自粛して外に出られずに、ストレスもたまっていたのだと思います。なかでも多かったのが、「現実と顔が違うじゃないか」という声。私も含め、多くのクリエイターは「きれいに映りたい」という気持ちから、顔を加工してコンテンツを制作することがあるのですが、それで「炎上」するんです。私は「そういうコメントをするのはやめよう」という趣旨の動画をアップしたのですが、そのときは私も含め、ほかのクリエイターへのアンチコメントが少し減ったんです。その意味ではやってよかったと思いましたが、時間が経つとまた当たり前のように誹謗中傷のコメントが来るようになりました。
透明性を担保しつつ、しかるべき手段を実行
―金子さんは、プラットフォーム事業者として誹謗中傷をどのように受けとめていますか。
金子 大前提として、TikTokのミッションは「創造性を刺激し、喜びをもたらすこと」です。そのためには、ユーザーが安全・安心に利用できるプラットフォームづくりが重要だと当社は考えており、誹謗中傷における対策にも取り組んでいます。第1に「コミュニティガイドライン」として、TikTokコミュニティに参加するすべてのユーザーが守るべきルールを明示しており、誹謗中傷は明確に禁止されています。そのうえで、自動モデレーション技術と人間の審査員により、24時間365日体制ですべてのコンテンツを審査し、あきらかにルールに違反するものはアカウントを削除・停止するなどの対応を行い、透明性を保つため、削除件数や削除理由といった情報を四半期に1度公開しています。
ただ一方で、「個々の創造性」を守る観点から、事業者が一方的にコンテンツを削除してはいけないという想いもあります。そのためTikTokでは、できるだけ削除せずに他者への敬意や配慮を持ったコミュニケーションの促進を補助するような機能を搭載しています。
―具体的に教えてください。
金子 たとえば、「コメントフィルター機能」があります。これは、コミュニティガイドラインに違反する不快なコメントを自動的に非表示にできる機能です。加えて、投稿者が特定のキーワードを事前に登録しておけば、それも自動的にフィルタリングされ、当該アカウントのコメント欄に表示されることはありません。また、「コメントのRethink(リシンク)機能」もあります。これは、コメントを投稿する前のユーザーに対し、コミュニティガイドラインに違反する内容が含まれた言葉であることを通知し、コメントの再考をうながす機能です。実際、この通知が表示されたユーザーが、かなりの割合でコメントの投稿を中止する、あるいは編集し直していることがわかっています。
ユーザーへの抑止力になる仕組みはすごくいい
―山口さんと景井さんはこうした機能をどのように評価しますか。
山口 効果的な機能だと思います。私は閲覧者の「見る自由」もあれば「見ない自由」もあると思っているので、「コメントフィルター機能」は、見ない自由につながるでしょう。「コメントのRethink機能」は、「このコメントが人を傷つける」とは思わず気軽に送ろうとしているユーザーへの抑止力になると思います。
景井 私は「コメントフィルター機能」を実際に使っています。これは誹謗中傷ではないのですが、私が住んでいた場所がユーザーに知られたことがあり、コメント欄に住所を連投されたことがあるので住所を「NGワード」として登録し、安心することができました。
攻撃的な書き込みをする人は、約40万人に1人
―山口さんは、今後どのような誹謗中傷対策を行っていけばいいと思いますか。
山口 私があるSNSにおける22件の炎上事件を調査したところ、攻撃的な書き込みをする人はネットユーザー全体からすると約40万人に1人の割合だったんです。「だから気にするな」というわけでは決してないのですが、少なくともそういう人はごく少数だということをまずはユーザーに知っておいてほしいですね。また、誹謗中傷の度合いをAIなどで10段階に分け、閲覧者が表示していい段階を設定できる機能がプラットフォームにあればいいと思います。そして今後は、さまざまなステークホルダーがフラットな関係で議論して、対策に取り組んでいくことが非常に重要だと思いますね。
―景井さんはいかがですか。
景井 誹謗中傷する側が悪いという前提で、そんなアンチコメントが来る可能性を事前に想定して動画を投稿することが大事です。また、コメントが人を傷つけるだけでなく、自身が訴えられる可能性があることを若い頃から周知したほうがいいと思います。あとこれは私の希望ですが、アンチコメントが送られてきた場合、AIが自動的に私を褒めてくれる機能がプラットフォームにあればうれしいです。アンチコメントをそれで相殺するイメージです。
―金子さんは2人の意見を聞いてどう感じましたか。
金子 ステークホルダーとの討論やリテラシー教育も含めた啓発活動などは非常に重要と考えており、当社でもNPOや専門家、そしてクリエイターのみなさまと連携して取り組んでいます。このような意見を参考にしつつ、プラットフォーム事業者として、誹謗中傷を防ぐための啓発活動の継続や新たな機能の開発など、今後も積極的に進めていきたいと思います。
誹謗中傷する内容を書き込む人は、全体からするとごく少数だということをユーザーは知っておいてほしい。
誹謗中傷の度合いを10段階に分け、閲覧者が表示していい段階を設定できるような機能があればいいのでは。
さまざまなステークホルダーがフラットな関係で議論して、誹謗中傷対策に取り組んでいくことが非常に重要。
誹謗中傷をする側が悪いという前提で、アンチコメントが来るかもしれないことを事前に想定して投稿するのが大事。
軽い気持ちでコメントをしても、それが人をすごく傷つけるだけでなく訴えられる可能性があることを周知したほうがいい。
アンチコメントが送られてきた場合、AIが自動的に褒めてくれるコメントを送ってくれる機能があればうれしい。