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実証実験で見えた「自治体×RPA」の未来【事例概要を追記】

実証実験で見えた「自治体×RPA」の未来【事例概要を追記】

更新日:2020/11/13

実証実験で見えた「自治体×RPA」の未来【事例概要を追記】

総務省が平成30年度に初めて自治体へのRPA(Robotic Process Automation)導入支援を予算化した。実際、この1~2年、全庁導入を前提としたRPAの実証実験を行う自治体が急増している。各地で行われている実証実験事例の内容や背景、RPAがもたらす“自治体の未来”などをレポートした。また、ページの下部には、過去自治体通信で取り上げた自治体事例や実証実験の概要をまとめています。
 
【目次】
■ RPAでなにができるのか
■ 実際の効果~奈良市の実証実験結果
■ 2040年問題とスマート自治体
■ 全国自治体の実証実験概要



RPAでなにができるのか

RPAとはソフトウェア型のロボットが代行・自動化する概念で「定型業務やデスクワークの自動化」と説明されることが多い。民間企業では労働人口減少や生産性向上を背景とした働き方改革が本格的に議論され始めた2016年頃から導入の動きが始まり、データ入力などの定型業務が多い企業を中心にRPA導入ブームが起きている。

実際“RPAができること”とはなにか。ある民間企業の事例をもとにをその概略を解説してみよう。

この企業がRPAで自動化したのは、インターネット検索を行い、所定フォーマットに情報を蓄積する大量の定型業務。従来は社外スタッフに発注し、それでも人手が足りなければ社員が残業するなどして対応していた。

効果は導入後、すぐに現れた。RPA導入により、ボタンひとつで「極端に言うと一瞬で」(同社社員)定型業務を終了させることができるようになったからだ。

この会社の社員はRPAの効果について、次のように話す。

「ランチに行ってる間にRPAが仕事を終わらせてくれる。おかげで単純作業から解放され、クライアントへの提案資料をつくるなど“知識労働”に時間をかけられるようになった。社外委託コストも大幅削減した」

やや技術的な解説になるが、RPAが得意とする定型業務の自動化はエクセルのマクロ処理と同じではある。大きく異なるのは、マクロ処理では難しくコストもかかるシステムやソフトをまたいだ処理が、RPAでは簡単かつ低コストでできる点にある。

自治体業務に即してイメージを描くと、たとえば、一定年齢以上の住民にイベントの案内状を送付するケース。この業務の流れは、まず該当する年齢の住民のデータを抽出し、名前や住所などの必要情報だけをエクセルで一覧化。案内文などの印刷用差し込みデータを作成して、宛名ラベルを作成するといったものになるだろう。それぞれの個別業務はマクロ処理できるものの、全体としては自動化できないため、手間も時間もかかる。しかし、こうしたマクロ処理が難しいソフトやシステムをまたいだ一連の業務も、RPAならすべて自動化できるのだ。

RPAとAIの違いについても少し触れよう。このふたつは混同されることも少なくないが、AIは学習機能によって業務プロセスを“指示”しなくても自己完結させることができる。一方、RPAは業務プロセスを明確にしてあらかじめ入力する必要がある。RPAの導入・運用にあたっては前準備として「業務の標準化」が欠かせないのは、そのためだ。(下図の「RPAで進化する自治体業務の例」を参照)

出所:総務省、自治体通信Online編集部が加工(記事末「資料出所一覧」の①を参照)

後述するが、RPA導入に向けて業務の標準化を行う副次的メリットは大きい。標準化により庁内業務や自治体間業務が飛躍的に効率化するからだ。自治体職員の人材高度化、AIによるさらなる高度な自動化の準備にもつながる。

参照記事:「住民サービスを向上させたい」職員の想いをRPAなら実現できる
https://www.jt-tsushin.jp/interview/jt15_uipath/3/

実際の効果~奈良市の実証実験結果

自治体の近未来には、高齢者増加にともなう業務量の増大、そのなかでの財政事情などを背景にした職員数減少という“壁”が待ち受けている。確実に訪れる重い課題に対応するため、国は予算化するなどして全国の自治体へのRPA導入を支援しており、全庁導入を前提とした実証実験に踏み出す自治体が、ここ1~2年で増加している。

そのひとつ、奈良市役所(奈良県)の実証実験の概要を紹介しよう。同市の仲川げん市長は「(RPAの導入による)約80%の時間短縮を実現した業務もあった」と評価している。(下図の「奈良市役所が取り組んだRPAによる業務の効率化のイメージ」を参照)

出所:奈良市役所(記事末「資料出所一覧」の②を参照)

奈良市役所では平成30年5月からの約2ヵ月にわたってRPAの庁内業務の効率化に対する実証実験をした。目的は、同市が進めている時間外勤務縮減などの働き方改革や「よりコンパクトな市役所」実現のための職員数の適正化などに向けて、その有効性を検証するため。

RPAが対応可能な庁内業務において作業の効率性や正確性などの効果を検証し、そこで得た結果やノウハウを基に本格的な導入に向けた検討を進めることにしている。共同実施事業者は株式会社チェンジ(RPAソフト「UiPath(ユーアイパス)」の日本販売代理店)とUiPath株式会社(RPAソフト「UiPath」のベンダー)の2社。

仲川市長は「(実証実験の)結果は驚くべきもので、職員に与えたインパクトも大きかった。業務の標準化など副次効果の大きさも実感した。当市ではRPAを早期に本格導入し、経営効率を意識した行政運営を進めていきたい」と総括している。(下図の「奈良市が期待するRPAの導入効果」を参照)

出所:自治体通信Onlineより抜粋して加工(記事末「資料出所一覧」の③を参照)

また、同市ではまずは身近な「定型業務など単純作業の自動化」といったスモールスタートから始め、技術の進化に合せたICT化を進め「特定業務のスペシャリストや高度な専門知識を要するアドバイザーの補助業務の自動化」を図るという意欲的な考えを示している。

奈良市の実証実験のくわしい内容やその他の自治体が取り組んでいる事例や実証実験ついては下記の自治体通信Onlineを参照していただきたい。様々な自治体によるレポートをしている。

事例

奈良市・加賀市・茨城県の詳しくレポートした記事『RPAによる「生産性革命」』はコチラから

事例

港区(東京都)の詳しくレポートした記事『自動化技術の導入で実現させる職場環境の改善と区民サービス向上』はコチラから

2040年問題とスマート自治体

RPAは自治体にさまざまなメリットをもたらし、住民の利便性向上などの実現が期待される新しいテクノロジーだと言えそうだ。半面、自治体をとりまく近未来の環境や諸条件を考えた場合、必要不可欠な“自治体ツール”にもなりそうだ。

「人口減少下において満足度の高い人生と人間を尊重する社会をどう構築するか」を研究テーマとした総務大臣主催の「自治体戦略2040構想研究会」(以下、研究会)は平成30年4月(第一次)と7月(第二次)に公開した報告のなかで、いわゆる“2040年問題”を見据えた自治体戦略のグランドデザインを提示。そのなかでRPAは将来の「スマート自治体」を実現するための基礎的なインフラ技術であると指摘した。

研究会は、自治体にとっての2040年問題は「内政上の危機」(研究会報告より)であるという衝撃的な指摘をした。現在の年齢別地方公務員数をみると団塊ジュニア世代が相対的に多く、山となっているが、2040年頃には団塊ジュニア世代が65歳以上の高齢者となる一方、その頃に20歳代前半となる者の数が団塊ジュニア世代の半分程度にとどまるからだ。

端的に言えば、自治体の職員数が現状の半分程度に縮小する一方で65歳以上の団塊ジュニアの高齢者が急増し、「人数半分、業務倍増」という状況が到来するのだ。

こうした事態に備えるため、研究会は「自治体の経営資源が制約される中、法令に基づく公共サービスを的確に実施するためには破壊的技術(AIやロボティクス、ブロックチェーンなど)を積極的に活用して、自動化・省力化を図り、より少ない職員で効率的に事務を処理する体制の構築が欠かせない」(研究会報告より)と提言する。

研究会は、これらを実現した自治体を「スマート自治体」と呼び、スマート自治体への転換が2040年までに必要だと指摘している。(下図の「スマート自治体の概念図」を参照)

出所:総務省(記事末「資料出所一覧」の④を参照)

研究会は「従来の半分の職員でも自治体が本来担うべき機能を発揮できる仕組み」を導入・運用している自治体をスマート自治体の姿として想定している。それは、自治体の機能や住民サービスの質量を後退させずに超高齢化社会に対応しようという、高いハードルではあるが、志の高い前向きな挑戦だ。

実証実験を行った自治体の検証結果を見れば、RPAはすべての自治体が懸命に取り組んでいる重い使命をともなったチャレンジの大きな支えになりそうだ。

全国自治体の実証実験概要

RPAのテーマだけでなく業務効率化や自動運転などの実証実験の取組一覧をまとめています。以下のバナーもしくはコチラをクリックしてください。100を超える事例を自治体別に整理しています。
▼▼▼▼▼



さいたま市(埼玉)

[概要と具体的な内容]

・業務効率化に関する実証実験
・庁内において協力部署を募ったうえで業務を選定
・4課10業務を対象に各業務システムへのデータ入力などの作業時間について RPA 導入前後で業務時間を測定
・2019年3月1日からRPA、同6月24日からAI-OCRを追加、8月31日までの期間で実施

[連携した民間企業]

東日本電信電話株式会社

[実施年度]

2019年3月~2019年8月


[参照URL]
さいたま市:NTT 東日本との RPA および AI-OCR 活用実証実験に関する結果を公表します
https://www.city.saitama.jp/006/014/008/003/008/009/p068741_d/fil/kisyahappyoushiryou.pdf




つくば市(茨城)
全庁展開を目指したRPAの導入検討
[概要と具体的な内容]

・単なる業務削減ではなく、定形作業の負荷軽減・効率化を行い、市民からの相談や窓口業務等に職員がより時間を割り当てることで市民サービス向上を目的
・行政における働き方改革の実現を念頭にRPA を活用した業務プロセスの見直しを行う
・業務効率化に関する全庁職員アンケート調査の結果分析を実施し対象業務を選定
・職員が実施した全庁職員アンケート結果を基にRPA の導入効果が高い業務を作業単位で類型化、横断的に業務選定を検討
・全庁展開時に RPA 導入時の効果予測が立てやすくなる

[連携した民間企業]

株式会社NTTデータ、株式会社クニエ、日本電子計算株式会社

[実施年度]

2018年2月~2018年4月


[参照URL]
つくば市:RPA を活用した定型的で膨大な業務プロセスの自動化共同研究実績報告書
https://www.city.tsukuba.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/007/935/rpa_report2.pdf



鎌倉市(神奈川)
RPA導入で「業務の見える化」の検証
[概要と具体的な内容]

・改善可能な対象業務の選定とRPAの試験的導入、業務改善効果の評価・検証
・民間企業においてRPAの導入による定型的な事務作業の自動化や人工知能(AI)を用いた非定型業務の自動化、紙資料のデジタル化などが進められている
・市においても働き方の見直しの一環として、ICTを活用した職員の生産性及び業務の効率性の向上に取り組んでいる
・業務の「見える化」を図り業務分析、抽出された業務課題に対するICT活用の方向性の検討
・改善可能な対象業務の選定とRPAの試験的導入、業務改善効果の評価・検証

[連携した民間企業]
日本電気株式会社

[実施年度]

2018年1月~2018年5月


[参照URL]
鎌倉市:RPA実証実験に関する報告書
https://www.city.kamakura.kanagawa.jp/seisaku-souzou/documents/rpahoukokusho.pdf



神戸市(兵庫)
RPAを活用したレセプトチェックの自動化
[概要と具体的な内容]

・レセプトチェックの自動化実証実験
・医療機関から送付されるレセプト(診療報酬明細書)の請求に基づき、毎月数十万件の診療に対する助成を行っている
・請求の中には助成対象期間外にもかかわらず診療を行ったものや受給者番号が誤っているものなど様々な間違い(エラー)が含まれている
・エラーのチェック業務に多大な時間がかかり職員の負担になっている
・職員が行っているチェック作業を整理、分析したうえで、ツールを構築し、チェック業務を効率化・短縮化することを目的に実証実験を実施

[連携した民間企業]
株式会社モンスター・ラボ
[実施年度]

2018年7月~2018年10月


[参照URL]
神戸市:レセプトチェックの自動化実証実験成果報告書
https://www.city.kobe.lg.jp/documents/22338/report_receipt.pdf


神戸市(兵庫)
RPAを活用した自動化の実証実験
[概要と具体的な内容]

・職員が行っている作業を分析、業務手順を組み替え、RPAの導入と開発を行い、業務の効率化を目的に実証実験を実施
・業務フローの分析、整理、改善に関する協働研究、業務を自動化・効率化するRPAツールの開発をし、業務の効率化前後の作業時間の比較・効果検証を行った
・教育委員会事務局教職員課では、通勤届を元に教職員の通勤手当額を決定する作業が年間5,492時間を占めている
・従前の業務手順では、書類を一枚ずつ手作業で点検していた

[連携した民間企業]

株式会社モンスター・ラボ

[実施年度]

2019年3月~2019年5月

[参照URL]
神戸市:RPAによる自動化実証実験 教職員の給与支給業務の約2,350時間を削減へ!
https://www.city.kobe.lg.jp/a57337/shise/press/press_back/2019/press_201907/20190704042301.html



一宮市(愛知)
市税業務におけるRPA実証実験
[概要と具体的な内容]

・定型的な業務の多い市税業務を対象にRPA導入に向けた効果検証や課題抽出を実施
・AI・ロボティックスに任せられる作業は自動化し、住民への直接的なサービス提供など職員でなければできない業務に注力する「スマート自治体」を目指している
・個人住民税に係るシステム入力業務をOCRとRPAを組み合わせた
・業務を自動入力することで省力化を実現を目指す

[連携した民間企業]

富士通株式会社、日本電気株式会社、株式会社日立システムズ、株式会社アイネス、株式会社三菱総合研究所

[実施年度]

2018年7月~2018年8月

[参照URL]
一宮市:市税業務におけるRPA実証実験結果
https://www.city.ichinomiya.aichi.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/026/494/01.RPAzikkenn.pdf

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【資料出所一覧】
総務省「地方自治体における業務プロセス・システムの標準化及びAI・ロボティクスの活用に関する研究会(第5回)」に提出されたUiPath社の作成資料「RPAの動向」
奈良市役所の定例記者会見報道資料「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)実証実験の実施について」)
自治体通信Online「RPAによる『生産性革命』」
総務省「自治体戦略2040構想研究会」の第二次報告


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