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「1,000年に一度の大震災」は起こる。それを前提として用意周到に迎え撃つ

「1,000年に一度の大震災」は起こる。それを前提として用意周到に迎え撃つ

徳島県

「想定外だ」とは決していわない徳島県独自の災害対策

「1,000年に一度の大震災」は起こる。それを前提として用意周到に迎え撃つ

徳島県知事 飯泉 嘉門

※下記は自治体通信 Vol.20(2019年10月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。


「南海トラフ巨大地震」にくわえ、直下型の「中央構造線・活断層地震」が起こる可能性があるといわれている徳島県。知事の飯泉氏は「“起こるかもしれない”ではなく、“起こる”ことを前提にして迎え撃つ取り組みが必要だ」と強調する。実際に、どのような取り組みを行っているのだろうか。同氏に、災害対策で重視している点も含めて聞いた。

宮城県で学んだ教訓「防災・減災」こそ重要に

―徳島県が取り組んでいる災害対策では、どんな点を重視しているのですか。

 東日本大震災を機に、特に重視してきたのは「防災・減災」に対する取り組みです。

 発災から10日後、支援のため、私自身、宮城の地に立ちました。さまざまなことを見聞きしたなかで、強く感じたのは「防災」だけでは通じないということ。たとえば、東北には日本最大の防潮堤がありました。ところが、地盤の液状化で機能しなくなり、津波に飲み込まれることになってしまった。つまり、われわれがどんなに科学の力や技術をもってしても、災害を防ぎ切ることは難しい、と。災害が起きた際の被害を最小限に抑える減災も必要で、「防災・減災」の取り組みを行政はしっかりやっていかなければならないんだ、と改めて気づかされたのです。

 そしてもうひとつ、新たに決意したことがありました。

―それはなんでしょう。

 徳島県では、「想定外だった」という言葉を使うのはやめよう、ということです。宮城県の被災地においていたるところで繰り返されていたのが、この言葉でした。「1,000年に一度の大震災」ともいわれたので、想定できなかったのはムリもないのかもしれません。しかし、それが実際に起こってしまった。

 徳島県では、「南海トラフ巨大地震」だけでなく、平成28年の熊本地震や鳥取県中部地震、平成30年の大阪府北部の地震、北海道胆振東部地震と同様の直下型地震「中央構造線・活断層地震」発生の危険性も指摘されています。

 そのため、発生確率に関係なく「1,000年に一度の大震災は、もう起こるんだ」ということを前提として、それを「迎え撃つ」ための取り組みを行っているのです。

大震災に備えた条例を制定し、注意すべき区域を指定

―具体的にどのような取り組み行っているのですか。

 たとえば、東日本大震災を受け、平成24年の12月21日に、県民や事業者などの取り組みや、地震・津波災害を予防する土地利用にかんする規制を盛り込んだ「徳島県南海トラフ巨大地震等に係る震災に強い社会づくり条例」を制定しました。ちなみに、12月21日は「昭和南海地震」が起きた日です。決して、この日を忘れてはいけないということ。さらに、「次も必ず起こるんだ」という注意喚起を県民に呼びかける意図があります。

 条例のなかでは、「津波災害警戒区域」(イエローゾーン)(※)の指定を知事が行うことを義務づけており、全国で初めて指定しました。津波ハザードマップの作成などにより、津波からの避難対策をより確実にすることが目的です。

 また、条例にもとづき、以前から問題視していた別の区域も指定しました。

※津波災害警戒区域(イエローゾーン):津波浸水想定を踏まえ、津波による人的災害を防止するために警戒避難体制を特に整備すべき区域

―どういった区域でしょう。

 直下型地震が懸念される、中央構造線に沿った区域です。断層の位置を明確に推測できる付近の土地を40m幅にわたり「特定活断層調査区域」に指定。そのエリアに大規模な集客施設や危険物を貯蔵するような工場を建てると、大災害を引き起こしかねません。そこで、そのような建物をつくる際は事前に土地を調査し、活断層が真下にある場合は建設をひかえるように土地利用規制をかけたのです。こうした条例を制定したのは、都道府県で初めてでした。

避難所準備のほか、人材育成にも注力する

―ほかに取り組んでいることはありますか。

 避難所設置を想定し、建設現場における仮設トイレの洋式化を進めています。平成28年の熊本地震において、避難所運営の支援を行ったスタッフが徳島に帰って開口一番に出た言葉が、「お手洗いをなんとかしないと」でした。

 現代人は、日常で洋式トイレを使うのが当たり前。しかし、仮設トイレのほとんどが和式です。そうすると、特に女性の方はトイレに行きたくないから、飲まないし食べなくなるんです。そこで、平成28年7月に「建設現場における仮設トイレの運用指針(案)」を策定。いまでは徳島県のほとんどの仮設トイレが洋式化し、場合によってはドレッサーつきの「快適トイレ」になっています。

 また、県民の災害に対する意識を高くしてもらうため、災害が起こったときの戦力になってもらうための人材育成にも積極的に取り組んでいます。

―詳しく教えてください。

 公立高校の生徒を主体として、「防災クラブ」を運営しています。防災・減災を学んでもらうとともに、希望者には防災士の資格を取ってもらっています。現時点(令和元年7月末)で、514人が資格を取得ずみです。

 さらに、アクティブシニア向けに、「徳島県シルバー大学校大学院」を開校。生きがいをもって豊かな高齢期を創造できるよう支援するとともに、地域福祉を推進するリーダーの養成が目的ですが、ここでも防災士の資格を取れるように防災講座を設けているのです。

 そして、新しく県庁に入る職員には職種を問わず、防災士の資格を取得してもらっていますね。

 くわえて、小・中学生を対象にした「少年消防クラブ」にも取り組んでいます。これは、少年少女で結成されている防災組織で、なり手が減っている、あるいは高齢化が進む消防団に関心をもってもらおう、と。こうした消防団は全国で組織されており、定期的に「全国少年消防クラブ交流大会」を開催。今年は、徳島県で行われました。


起こった後を考えて「移す」「建てる」準備を

―来たる大災害に向けて、今後のビジョンを教えてください。

 これまで「防災・減災」に取り組んできましたが、徳島県では、そのさらに先として「事前復興」をあわせて掲げています。「大災害はもう起こるのだ」と想定しているのだから、起こってからバタバタするのではなく、事前に復興準備までしておこう、と。たとえば、徳島県立海部病院は東日本大震災以降、公立病院として初めて高台に移転しました。

 また、仮設住宅を建てる際、プレハブだと後でゴミになってしまう。そこで徳島県では、徳島県産杉を使った板倉構法(※)などの組み立て式の木造住宅の普及を進めています。これなら使用後にまた解体して備蓄できますから。実際に福島県で、この工法を展開しました。

 こうした準備を入念にしておく。そうすることで、徳島県では「想定外だ」とは決していわないのです。

※板倉構法:壁材に横板を用い、壁塗りを行わない簡素な木造建築の伝統工法


飯泉 嘉門 (いいずみ かもん) プロフィール
昭和35年、大阪府生まれ。昭和59年に東京大学法学部を卒業後、自治省(現:総務省)に入省。自治省大臣官房企画室、郵政省通信政策局地域情報化プロジェクト推進室長、総務省自治税務局企画課税務企画官などを経て、平成13年に徳島県商工労働部長、平成14年に徳島県県民環境部長就任。平成15年、徳島県知事に就任する。現在は5期目。
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