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「災害に強い広島県」づくりの先に描くビジョンとは

「安心」の土台をつくりあげ、県民の「挑戦」を後押しするまちに

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「災害に強い広島県」づくりの先に描くビジョンとは

「安心」の土台をつくりあげ、県民の「挑戦」を後押しするまちに

広島県知事 湯﨑 英彦

※下記は自治体通信 Vol.42(2022年9月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。


昨年11月、4期目となる県政運営を託された広島県知事の湯﨑氏。令和3年度から新たな総合計画をスタートさせ、「挑戦できる社会の実現」を県政テーマの柱に掲げている。「県民が安心して生活できる土台があってこそ、新たな挑戦は生まれる」と語る同氏。特に、近年の度重なる被災経験を教訓にした防災・減災対策に力を入れ、「安心」の土台づくりに取り組んでいる。いかにして「災害に強い広島県」をつくるのか。そして、その先に描くビジョンとはいかなるものか。同氏に聞いた。

「生活の質向上」を、実感する県民が増えた

―昨年11月から知事就任4期目に入りました。この間の県政運営をどう振り返っていますか。

 私は、就任2年目の平成22年に、10年後を展望した新たな県づくりの指針「ひろしま未来チャレンジビジョン」を策定し、「挑戦」をテーマに、仕事と暮らしの両面を充実させる政策を推進してきました。この間、一定の成果は上げられたのではないかと考えています。というのも、県が実施している県民意識調査において、「現在の生活が充実している」という回答割合が平成27年の57.2%に対し、令和元年は73.4%にまで高まったのです。「生活の充実」という評価の高まりは、多くの県民に政策全般の効果が行き届いたことの表れではないかと判断しています。

―そうしたなか、令和3年度からは新たな総合計画である「安心・誇り・挑戦 ひろしまビジョン」をスタートさせました。

 コロナ禍の影響などでより一層高まる先行きの不透明感を打開し、引き続き、県民一人ひとりが生活の基盤である仕事と暮らしを充実させるために、「挑戦」できる社会であるべきです。今回の総合計画では、県民がこれまで以上に夢や希望に挑戦できる社会の実現を目指しており、そうした挑戦を支える土台が「安心」です。この安心という土台の強化が、私たち県の重要な責務と考えています。

ハード面だけの取り組みでは、もはや限界

―安心の強化にどう取り組んでいるのでしょう。

 医療・介護の充実、雇用創出、貧困対策など、あらゆる分野での安心の確保に力を入れていますが、なかでも災害対策の強化は、近年、度重なる大規模災害を経験している当県にとっては特に重要な政策課題です。当県には、土砂災害警戒区域が約4万8000ヵ所あり、これは全国でもっとも多い数です。こうした危険区域には、土砂災害を防ぐ「砂防ダム」などの建設を急ピッチで進めており、ほかにも、道路の拡幅や、河川改修など耐災害性をあげるインフラ整備に、過去にないほどの大きな予算を投じています。また、治水という面では、流域全体で総合的に対策を実施していく「流域治水」に取り組んでいるほか、防災情報システムの機能強化や全市町における防災体制の総点検も一斉に行い、県をあげて災害対処能力の向上に取り組んでいます。

 しかし、「平成26年8月豪雨」や「平成30年7月豪雨」の経験から、自然災害の頻発化・激甚化が進むいま、被害を最小限に食い止めるには、もはやハード面の取り組みだけでは限界があると考えています。これからは、県民との情報共有や訓練を通じた防災・減災対策、いわゆるソフト面の対策強化が必須です。ハードとソフト両輪の対策があってこそ、「安心」の土台となる「災害に強い広島県」は実現します。そうした両輪の対策をさらに強化する取り組みとして進めているのが、「『みんなで減災』県民総ぐるみ運動」です。

―県民一体となって取り組むことが伝わるネーミングですね。

 ええ。防災・減災は行政の力だけでなし得るものではなく、県民、自主防災組織、事業者、行政が一体となった「自助」「共助」「公助」の取り組みが必要です。そこでは、主体的な避難行動を取ってもらうことも重要です。県内のすべての児童や、自主防災活動に従事する住民などを対象に、自らの避難のタイミングなどを予め決めておく「ひろしまマイ・タイムライン」の作成を推進しているのは、そのためです。避難行動の重要性は頭ではわかっていても、いざという場合、すぐに実行に移すことは難しいものです。実際、平成30年7月の豪雨災害では、避難勧告が発令されたにもかかわらず、避難した住民が少なかったことがわかっています。だからこそ、県民には、災害時における行動を平時から意識の片隅にでも置いてもらいたいのです。県民の適切な避難行動なしに、当県が目標としている「災害死ゼロ」は実現できませんから。

「適切な分散」と、「適切な集中」に見合った場所

―「安心」の土台づくりの先に、どのようなビジョンを描いているのでしょう。

 私は、広島県を「適散・適集社会」のフロントランナーにしたいと考えています。私たちはコロナ禍を経験したことで、過度な密を避け、分散することの必要性を強く認識しました。一方で、日本が持続的に発展していくためには、多様なイノベーションを生み出す「知の集積や集合」も必要です。そのため、分散か集中かの二者択一的な選択ではなく、「適切な分散」と「適切な集中」、いわば「適散・適集」といった考え方が大切だと思います。そう考えた場合、「密過ぎない都市」と「美しく自然豊かな中山間地域」があり、都市と自然が近接している広島県は、まさに、「適散・適集」に見合った場所と言えます。

―「適散・適集」は広島県が持っている「強み」だと。

 その通りです。そこにデジタル技術を活用することで、「適散・適集」をベースとしたまちづくりが可能となり、多様なイノベーションを生み出せる。そのための基盤は、これまでの「イノベーション立県」の取り組みによりできつつあると考えています。実際、県内には医療機器や環境関連の産業といった分野で新たな価値を生み出す「イノベーション・エコシステム」が形成され始めています。「適散・適集」にくわえて、「イノベーション立県の基盤」といった強みが、いまの広島県にはあるのです。

広島県で実現してほしい「欲張りなライフスタイル」

―そのような場所だからこそ、県民はさまざまな挑戦ができると。

 そう考えています。県民の夢や希望の実現に向けた挑戦を、後押しできる広島県にしていきます。そして、時間や場所にとらわれず、自由度と満足度の高い仕事と暮らしが手にできる当県で、「欲張りなライフスタイル」を実現してほしい。すべての県民のみなさんに「広島に生まれ、住み、育ち、働いて良かった」と思ってもらいたいです。そのためにも、防災・減災対策をはじめとした「安心」の土台づくりは県の重要な責務として実行していきます。

湯﨑 英彦 (ゆざき ひでひこ) プロフィール
昭和40年、広島県生まれ。平成2年に東京大学法学部を卒業後、通商産業省(現:経済産業省)に入省。平成7年にスタンフォード大学経営学修士(MBA)修了。平成12年、ネットベンチャーの株式会社アッカ・ネットワークスを設立し、副社長に就任する。平成21年、広島県知事に就任。現在、4期目。
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