鳥取県の取り組み
地元企業への雇用創出支援
地方企業の雇用維持・拡大のカギは、「ICT活用の専門家」による伴走支援
鳥取県
商工労働部 雇用人材局雇用政策課 課長 河野 小夜子
鳥取県地域活性化雇用創造 プロジェクト推進協議会事務局 マネージャー 福美 秀敏
※下記は自治体通信 Vol.49(2023年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
地域経済の活性化を図るため、多くの自治体が地元企業の雇用創出支援を行っている。そうしたなか、鳥取県は独自の取り組みとして、平成29年に「鳥取県地域活性化雇用創造プロジェクト推進事業(以下、地プロ)」を開始。地元企業に向けたICT活用の伴走支援などで、地域の雇用創出において成果をあげているという。同県の担当者2人に、取り組みの詳細を聞いた。
[鳥取県] ■人口: 54万1,110人(令和5年3月1日現在) ■世帯数:22万1,160世帯(令和5年3月1日現在) ■予算規模:5,253億2,164万9,000円(令和5年度当初) ■面積:3,507.13km2 ■概要:中国地方の北東部に位置。北は日本海に面し、鳥取砂丘をはじめとする白砂青松の海岸線が続き、南には、中国地方の最高峰である大山をはじめ、中国山地の山々が連なる。山地の多い地形ながら、三つの河川の流域に平野が形成され、それぞれ鳥取市、倉吉市、米子市が流域の中心都市として発展している。
資金面での支援だけでは、十分ではなかった
―地域の雇用創出をめぐり、独自の取り組みを始めた経緯を聞かせてください。
河野 地プロ以前の雇用創出支援は、雇用を奨励する助成金や、設備投資・新商品開発を促す補助金など、地元企業に対する資金面での支援が中心でした。けれども、社員がすぐに辞める、求人に応募がないというケースが散見されました。その要因が、「会社の成長性や働く環境に、応募者が魅力を感じない」ことだと、現場でのヒアリングでわかったのです。そこで、企業に対して経営改善にまで踏み込んだ支援が必要だと考え、始めたのが地プロです。
―取り組みの詳細について、教えてください。
福美 経営者向けセミナーに加えて、企業へ経営改善の専門家を派遣して直接指導する伴走支援を実施する取り組みです。経営改善には座学だけでなく、現場で直接指導を受けながら学んだことを実装する必要があると考えたからです。さらに、令和2年度からは、ICT活用の支援に力を入れています。
―なぜ、ICT活用に注力したのでしょう。
河野 都市部ではDXが進む一方、地方の企業はICT活用が遅れがちで、そこが地方企業の魅力を低減させている要因のひとつと考えられました。そうしたなか、デジタルマーケティングや情報共有のデジタル化を行えば、経営力強化や社員の働きやすさにつながるはずです。そこで、ICT活用のセミナーを増やすと同時に、FunTre代表の谷田部氏へセミナーや専門家派遣のコーディネートを依頼しました。同氏のICT活用セミナーが地プロで好評だったことに加え、約800社の経営改善を支援してきた手腕を見込んだのです。
2年で累計300人を超える、「良質な雇用」が生まれた
―取り組みを通じて、どのような成果が得られましたか。
福美 令和2年4月から令和4年11月の間に、地プロ事業全体で累計300人を超える「良質な雇用*1」が生まれました。たとえば、ICT活用に関する伴走支援で、入社希望者を多く獲得できた運送会社の事例があります。同社は、専門家の助言を現場で受けながら、RPAの導入で業務効率化とデータ活用による収益性向上を実現し、新たな雇用につなげています。
―地域の雇用創出に関して、今後の支援方針を教えてください。
河野 これまでの地プロの成果を踏まえて、令和5年度から3期目を実施していきます。今後も、地元企業を支援して雇用を創出し、地域の活性化につなげていきます。
支援企業の視点
企業特性に適した施策を選び抜き、現場でフォローしてこそ成果が出る
FunTre株式会社 代表取締役 谷田部 敦
―地方の自治体が雇用創出を支援する際の課題はなんですか。
求職者に魅力的な求人を出せる地元企業が少ない点です。そのため地方の自治体は、地元企業の経営力強化や働きやすい職場環境の整備まで支援する必要があると私は考えています。
―どのように対応すればいいのでしょう。
当社が提案しているのは、地域の産業やコミュニティの強みを活かしたデジタルマーケティングや情報共有のデジタル化など、ICT活用の支援です。
支援のポイントは2つ。1つは支援先の特性に応じた施策の使い分けです。当社では、多種多様な企業を支援したなかで効果的だった施策を企業特性ごとに分析し、100通り以上のソリューションを用意しています。
もう1つは座学や改善計画の策定に加えて、改善策の定着を専門家が現場でフォローすることです。専門家と社員が共に苦労を重ねてこそ、支援先は成果を得られます。これは、約800社への経営支援と、自ら手がける数々の事業で改善策を実践するなかで、私が得た教訓です。
―自治体に対する今後の支援方針を聞かせてください。
今後は、伴走支援とあわせてリスキリング教育を展開していく計画です。当社では、実店舗を運営するなかで教育ノウハウも積み重ねており、ケーススタディを活用して、さまざまなスキルを実践的に学べる研修を提供できます。我々の拠点は東京ですが、オンラインツールを駆使しつつ、現地の人材も活用しながら、全国の企業を支援し、地域活性化に貢献していきます。
谷田部 敦 (やたべ あつし) プロフィール
昭和59年、栃木県生まれ。平成21年、東京大学大学院修了。BASFジャパン株式会社に入社し、マーケティング業務や専門的な開発営業業務に従事。平成23年にFunTre株式会社を設立し、代表取締役に就任。
FunTre株式会社
この記事で支援企業が提供している
ソリューションの資料をダウンロードする