※下記は自治体通信 Vol.52(2023年9月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
自治体を中心に、地域全体で生活支援・介護予防サービスの充実を図る「生活支援体制整備事業」。その推進に当たっては、生活支援コーディネーター(以下、SC)との情報連携をいかに効率化し、サロンや通いの場といった「社会資源」の存在を周知するかが課題となっている。そうしたなか、入間市(埼玉県)は、社会資源の施設情報をオンライン上に集約し、より確実に利用者へ届ける仕組みを構築した。取り組みの詳細を同市担当者に聞いた。
[入間市] ■人口:14万5,160人(令和5年8月1日現在) ■世帯数:6万7,965世帯(令和5年8月1日現在) ■予算規模:875億3,106万円(令和5年度当初)
■面積:44.69km² ■概要:都心から40km圏に位置し、埼玉県所沢市、狭山市、飯能市、東京都青梅市、瑞穂町にそれぞれ接している。海抜60~200mのややなだらかな起伏のある台地と丘陵からなる。産業は、製茶業や繊維工業に加え、昭和44年の武蔵工業団地の造成とともに、電気、機械工業などが中心的役割を担ってきた。また、製茶業に関しては、「狭山茶」の主産地であり、同市によると、その生産量と栽培面積は県下一を誇る。
最新の状況を把握できず、古い情報を伝えてしまう懸念
―入間市では、どのようなかたちで生活支援体制整備事業を推進していますか。
市全域を担当する「第1層」SCと、9つの日常生活圏域をそれぞれ担当する「第2層」SCの、合計10人のSCがサロンや通いの場といった社会資源の把握・開発を行っています。また、各SCと私たち市職員は1ヵ月に1回、対面の「連絡会」を開催し、業務状況などを報告しています。そして、各SCが収集した社会資源の活動内容や開催日時、会場といった情報は、市職員が冊子にまとめて年に1回発行してきました。しかし、市内に点在する社会資源を行政として正確に把握するには限界があると感じていました。
―それはなぜでしょう。
個々の社会資源に関する詳細な活動情報はほぼ、担当のSC個人しか把握できていなかったからです。そのため、冊子制作の際はその都度、すべての社会資源の運営状況や掲載可否を各SCに1件ずつ確認し、掲載内容を更新するという手間が生じていました。また、運営状況に変更があってもそれを共有する仕組みがないため、各SCも担当圏域外の社会資源について住民から照会を受けた場合、古い情報を回答してしまう懸念があったそうです。そのため当市は、各社会資源の運営状況が変化し続けるなかでもその情報を正確かつ網羅的に把握できるよう、新たな連携手段が必要と考え、情報共有ツールの導入を検討しました。その結果、トーテックアメニティの『けあプロ・navi』の導入を決め、令和2年に運用を始めました。
市内全域の社会資源情報へ、誰もがアクセスできるように
―導入の決め手はなんだったのでしょうか。
最新の社会資源情報を蓄積でき、誰もが網羅的に把握できるという基本的な要件を満たしているうえ、使い勝手がシンプルでわかりやすい点が決め手となりました。実際にツールに触れた複数のSCから、「直感的に操作できる」と『けあプロ・navi』の導入を希望する声があがったのです。それぞれ異なる組織に所属する10人ものSCが日常的に使用することを考えると、使い勝手の良さは重要な評価ポイントでした。また、SCや市職員の情報共有のためだけでなく、利用者向けに社会資源情報を専用のWebサイトへ掲載できる点も高く評価しました。
―導入効果はいかがですか。
すべてのSCが、市内各地から個別に収集された詳細な社会資源情報を、統一されたフォーマットでリアルタイムに把握できるようになりました。また同様に、住民やその支援者であるケアマネジャーもWebサイトを通じて市内全域の社会資源情報を地域別や目的別で簡単に検索できるようになったことから、結果として行政サービスの向上にもつながったと考えています。私たち市職員としても、社会資源に関する冊子制作の際、運営状況や掲載可否の確認にかかる手間を軽減できています。
―今後の活用方針を聞かせてください。
『けあプロ・navi』に集約されている情報は現在、住民やボランティアなどが提供する「インフォーマルサービス」に関するものが主です。今後は医療機関や介護事業者など「フォーマルサービス」の情報も充実させることで、地域包括ケアシステムのさまざまな関係者にとって欠かせない総合情報基盤となるよう活用していきます。それにより、市内のあらゆる社会資源情報を、必要とする人たちに提供できる体制を築いていく方針です。
地域包括ケアに関する情報発信②
SC間における日頃の情報連携が、対面時の「議論の質」をも高めた
ここまでは、生活支援体制整備事業において社会資源情報の共有ツールを活用し、市職員や生活支援コーディネーター(以下、SC)の間の情報連携を効率化させた、入間市の取り組みを紹介した。ここでは、同市のSC3人を取材。現場目線から見た、情報連携にまつわるそれまでの課題や、取り組み後の効果などを改めて聞いた。
入間市 社会福祉協議会
地域福祉推進課 生活支援コーディネーター (第1層SC)
小寺 惟こでら ゆい
入間市豊岡西 地域包括支援センター
センター長 主任介護支援専門員 (第2層SC)
後藤 みちごとう みち
入間市豊岡東 地域包括支援センター
生活支援コーディネーター (第2層SC)
志田 明明しだ めいめい
同じ組織内であっても、把握する情報量に差があった
―生活支援体制整備事業における情報連携に、どのような課題を感じていましたか。
小寺 個々の社会資源に関する情報を統一的なフォーマットで管理する仕組みがなく、情報管理が属人化してしまうため、各SCの間で把握できる情報にバラツキがあったことです。介護予防サロンひとつをとっても、さまざまなレクリエーションのジャンルがあるように、「社会資源」のニーズは非常に多様です。そのため私たちには、「入間市のSC」として市内の社会資源情報を網羅的に利用者へ届けられる体制が求められるのですが、それを実現できていなかったのです。
後藤 実際、日常生活圏域を対象とした「第2層」SCの場合、ほかの圏域の資源情報を詳細に把握できていないことは珍しくありませんでした。さらには、同じ圏域を担当する同じ組織内であっても、情報共有が十分に行われていなかったため、SCとそのほかの職員の間で、把握できている情報量に差が生じていました。
現在では、『けあプロ・navi』にアクセスさえすれば、全市域の社会資源を網羅的に把握でき、職員の異動にも対応できるので、そうした課題は一切解消できたと感じています。
志田 現在はさらに、月次の「連絡会」における議論の質が高まったという、副次的な効果も実感しています。
―それはなぜでしょう。
志田 『けあプロ・navi』では、SCの日々の活動内容を掲示板に記録・報告する機能もあり、「新しいサロンを立ち上げた」「どこそこの通いの場ではこういう困りごとが発生している」といった日常の報告も、リアルタイムで共有することができます。従来は月次の連絡会でそうした報告が行われていたのですが、それを日頃から共有できるようになったのです。そのため、連絡会では、事前に活動内容を報告しているSCに対し、より踏み込んだ内容を質問するなど、SC間において「双方向」のコミュニケーションが生まれるようになりました。
小寺 そのなかにおいては、今後SCが取り組むべき活動や、新たに開発すべき社会資源の検討など、建設的な議論がより多く交わされるようになり、同じ入間市のSCとして、ともに地域課題に向き合う姿勢が強まったと感じています。単なる情報連携だけでなく、SC同士の協力体制そのものを強化できたことは、『けあプロ・navi』の導入で得た最大の成果です。
次の一歩は、住民の活用を促していくこと
―今後の活動方針を聞かせてください。
志田 私たちが把握・開発した社会資源に関する情報を、より多くの市民やその支援者たちに届けられるよう、『けあプロ・navi』の存在を広く知ってもらうことに力を入れていきます。「市内でサロンや通いの場を探すには、まずは『けあプロ・navi』を検索する」という習慣を地域に根づかせていきたいと考えています。
後藤 入間市ではかねてから、住民主体の「通所型サービスB*」の設置に力を入れています。「要支援1」「要支援2」「事業対象者」の方々が、徒歩圏内でデイサービスを受けられる体制をつくることを目標として、現在まで9圏域中7圏域へ設置してきました。『けあプロ・navi』の認知を広めることにより、こうした入間市の特徴ある社会資源を知ってもらい、住み慣れた地域で楽しく生活を続けてもらえる体制をつくっていきたいですね。
*通所型サービスB : ボランティア主体で通いの場を設け、体操や運動などの活動を行うサービス
地域包括ケアに関する情報発信③
社会資源の利用を促せる、「有効な」情報発信体制を構築せよ
ここまでは、情報共有ツールの活用によって、相互の連携体制強化を実現した入間市と生活支援コーディネーター(以下、SC)の取り組みを紹介した。本ページでは、その取り組みを支援したトーテックアメニティの担当者2人に、社会資源の利用を住民に促すポイントを聞いた。
トーテックアメニティ株式会社
公共システム事業部 東日本営業部 第2グループ 課長
本間 大士ほんま ひろし
昭和57年、宮城県生まれ。平成16年に宮城大学を卒業後、イートス株式会社に入社。自治体向けパッケージソフトの営業・企画を担当する。平成30年、トーテックアメニティ株式会社に入社。令和元年より現職。おもに自治体福祉部門向け自社ソリューションの営業全般を担う。
トーテックアメニティ株式会社
公共システム事業部 東日本営業部 第2グループ
田中 千絢たなか ちひろ
平成7年、千葉県生まれ。平成30年に和洋女子大学を卒業後、トーテックアメニティ株式会社に入社。同年より現職。おもに自治体福祉部門向け自社ソリューションの営業を担う。
サロンが次々と再開される今、緊密な情報連携が求められる
―生活支援体制整備事業における情報連携をめぐり、自治体にはどういった課題がありますか。
田中 自治体が各圏域でSC業務を委託する先は、それぞれ異なる組織となることが多いため、情報連携の場そのものを設けにくいといった課題があげられます。さらに最近は、コロナ禍の収束に伴い、サロンや通いの場の活動が次々と再開されています。そうした、変化し続ける社会資源の情報を正しく住民に伝えるために、行政とSCの間ではより緊密な情報連携が求められているのが現状です。そこで今は、即時に情報連携できる手段として、デジタルツールの導入を検討する動きが目立ってきました。生活支援体制整備事業に特化した情報共有ツールも増えていますが、そこではツールの選定が重要になります。
―どのようなツールを選べば良いのでしょう。
田中 職員やSCの情報連携を効率化するだけでなく、社会資源の活用を住民に促せる、効果的な情報発信体制を構築できるツールです。たとえば、当社の『けあプロ・navi』は、「域内の社会資源に関する情報を、いかに住民やその支援者に届けられるか」を追求した仕組みが最大の特徴で、効果的な情報発信体制を築くための3つのポイントを押さえています。
―3つのポイントとはどのようなものですか。
田中 1つ目は、「情報の鮮度を維持できる」ことです。いつでも情報を活用できるよう、適宜更新を行って劣化を防ぐことは、情報を管理・発信するうえでの基本です。『けあプロ・navi』では、当社の「情報センター」のスタッフが職員に代わって「介護事業所の空き状況」などを定期的に調査し、一般向けサイトに掲載された情報を更新します。これにより自治体は、職員の業務負担を抑えながら、鮮度の高い情報を発信できます。
本間 2つ目のポイントは、「情報を活用すべき人に伝えられる」ことです。たとえば、社会資源に関する情報を実際に活用するのは、生活支援・介護予防サービスを住民に直接提案するケアマネジャーや保健師といった関係者が多いです。そこで『けあプロ・navi』では会員制の「関係者専用サイト」を設け、地域包括ケアシステムの関係者が業務上必要とする情報を集約させることで、関係者にサイトの「普段使い」を促せるのです。
紙による情報発信にも対応
―3つ目のポイントはなんですか。
本間 「情報を効果的に活用できる方法がある」ことです。たとえば、高齢者には、Webページよりも紙媒体を用いたほうが情報を受け取ってくれやすいケースが多いと想定できます。『けあプロ・navi』では、紙による情報発信をサポートする機能も用意しており、一般向けサイトで任意の社会資源情報を選ぶと、定型のA4チラシが自動作成され、印刷することができます。チラシにはもとのWebページにアクセスする二次元コードも付与されるため、詳細を知りたい人をオンラインへ誘導することも可能です。
―自治体に対する今後の支援方針を聞かせてください。
本間 『けあプロ・navi』は、当社のエンジニアが内製しているツールであるため、利用者の細やかなニーズを速やかに反映できる点も強みです。現在は、地域包括ケアシステムの充実を情報連携・発信面で支えるツールですが、自治体が地域包括ケアシステム構築の先に見据える「地域共生社会づくり」においても、引き続き伴走支援できるよう、機能の追加や磨き込みを行っていく方針です。