※下記は自治体通信 Vol.53(2023年10月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
少子高齢化などの影響を受けて利用者が年々減少することで、バスや電車といった公共交通を維持するのが困難になっている自治体は多い。そうしたなか、自治体向けに公共交通の課題解決支援を行っている伊藤忠テクノソリューションズの寺西氏は「多くの自治体において『公共交通の悪循環』が長年続いており、脱却するために地域交通の最適解を模索する必要がある」と話す。いったいどういうことか。同社の大藤氏も交えて詳細を聞いた。
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
未来技術研究所 スマートタウンチーム チーム長代行
寺西 努てらにし つとむ
平成16年、伊藤忠テクノソリューションズ株式会社に入社。情報通信事業者向けのシステム開発プロジェクトを多数経験。その後、IoT・クラウドなどを用いた新規事業開発に携わる。未来技術研究所へ異動した後も、引き続き新規事業開発に従事している。
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
未来技術研究所 スマートタウンチーム
大藤 まり子おおふじ まりこ
令和元年、伊藤忠テクノソリューションズ株式会社に入社。流通事業グループにてITインフラ営業を経験し、現在は未来技術研究所にて地方活性化をテーマに活動している。
―「公共交通の悪循環」とは、どのような状況を指すのですか。
寺西 まず、少子高齢化と都市部への人口流出により、メインの利用者である住民が減少していきます。そうすると、輸送事業者の収益が悪化し、路線維持が困難になることから減便・廃線などを実施せざるを得なくなります。結果、公共交通のサービス水準の低下を招き、それがさらなる利用者の減少につながっていく。このサイクルが「公共交通の悪循環」と呼ばれており、多くの自治体が抱えている課題なのです。
大藤 国や自治体が補助金によって支えているのが現状ですが、予算にも限りがあります。自治体自らが公共交通を運用するケースもありますが、採算が合わないことが多いうえに、民間と競合してしまい、民業圧迫を懸念する声も聞かれます。そのため、根本的な改善が必要になっているのです。
―良い解決策はありますか。
寺西 既存交通との共存を前提としつつ、ICTを活用した仕組みの導入で、課題解決できると我々は考えています。当社の場合、「AIオンデマンド交通(以下、DRT*)」と「MaaS*」を組み合わせることで、公共交通のサービスレベルの向上につなげ、住民ニーズを満たす公共交通サービスの実現を目指しているのです。
*DRT : Demand Responsive Transportの略。利用者のニーズに応じて柔軟に運行する乗り合いの公共交通サービスのこと
*MaaS : Mobility as a Serviceの略。交通手段による移動を、ひとつのサービスでシームレスに完結させ、人々の移動の利便性を上げるサービスを指す
5自治体において、実証実験を実施
―具体的に、どのようにして実現するのですか。
大藤 まずは「DRT」を活用した乗り合いタクシーなどで、交通空白や不便地域となっているエリアで生活している利用者を、予約に応じて希望する行先に届け、既存の公共交通との乗り継ぎ場所まで移送します。また「MaaS」により、DRTも含めた公共交通の複合経路検索、およびDRT予約などをスマホで行えるようにする。そうして利用者を増やし、持続可能な公共交通の仕組みを地域に提供しようとしているのです。
寺西 こうした仕組みを構築するには、単にシステムを構築するだけでなく、導入に適切なエリアの選定や輸送事業者との合意形成などが必要です。当社の場合、国や自治体が持つ知見やオープンデータなどを分析し、導入エリアを選定。そして、適切な仕組みの提案から関係者との合意形成支援、PR活動による利用促進、検証結果の分析といった一連の業務をワンストップで提供しているのです。
―導入事例はありますか。
大藤 現在、5つの自治体において実証実験を行った実績があります。これまで公共交通を使用していなかった住民が利用するようになったり、実際に利用した住民からは「これからも続けてほしい」という声があったりと、手応えを感じています。
―自治体に対する今後の支援方針を教えてください。
大藤 引き続き、「地域交通の最適化」を図る支援を行っていきます。また、輸送事業者の人手不足などの課題も顕在化しつつあるため、今後は自動運転による「DRT」なども進めていきたいです。
寺西 我々は、一連の支援を成果連動型の契約で提供することを自治体に提案しています。そうすれば、より成果にコミットできると考えています。地域のデータ分析は現在無償で実施しています。お気軽にお問い合わせください。