※下記は自治体通信 Vol.54(2023年12月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
地域の魅力を伝える広報・プロモーションは、自治体の重要業務のひとつであり、近年はWebサイトやSNSなど、さまざまなツールを使った施策が行われている。そうしたなか、特に注目を集めているのが動画の活用である。そこで『自治体通信』では、自治体の広報動画活用の可能性を探る連載記事を企画した。第1回目の前半パートでは、独自の広報・プロモーションを展開している茨城県知事の大井川氏と、動画プラットフォームのTikTokを運営しているTikTok Japanの佐藤氏との対談を実施。これからの自治体に必要な広報・プロモーションのあり方や、動画活用の有用性などを聞いた。
[茨城県] ■人口:282万6,047人(令和5年10月1日現在) ■世帯数:122万4,637世帯(令和5年10月1日現在) ■予算規模:1兆9,143億7,500万
円(令和5年度当初) ■面積:6,097.24km² ■概要:東は太平洋にのぞみ、北は福島県、西は栃木県に接し、南は利根川をもって千葉県、埼玉県に隣接している。県北沿岸部は、昭和初期から日立製作所を中心とした工業地域として発達したほか、県の南部には国立の研究機関・大学を中心とする筑波研究学園都市がある。農業も発達しており、メロンをはじめ、れんこん、白菜など生産量で全国の上位を占める農産物が多い。
大井川 和彦おおいがわ かずひこ
茨城県生まれ。東京大学法学部を卒業後、通商産業省(現:経済産業省)に入省。平成15年、マイクロソフト アジアに執行役員として入社する。平成28年、株式会社ドワンゴの取締役に就任。平成29年、茨城県知事に就任し、現在は2期目。
TikTok Japan(ByteDance株式会社)
TikTok 北東アジア地域 ゼネラルマネージャー
佐藤 陽一さとう よういち
一橋大学大学院を修了後、株式会社東洋経済新報社に入社。その後、マイクロソフトやGoogleなどで20年以上の経験を積んだ後、令和元年9月にビジネス開発部門の責任者としてByteDance株式会社(TikTok Japan)へ入社。TikTok Japan GMを経て、令和4年、現在の職位に就任。
姿勢を根本的に見直し、「守り」より「攻め」を重視
―茨城県では、どのような広報・プロモーション戦略に取り組んでいるのですか。
大井川 私が知事に就任した際、まずは広報・プロモーションに対する姿勢を根本的に見直しました。当県に限らずですが、従来の自治体では、真面目に正しく伝える「守り」の姿勢が広報・プロモーションのあり方だったと私は思っています。それがダメとは言いませんが、県外に茨城県の魅力を発信するという観点では、ものたりないですよね。そこで、これからの自治体の広報・プロモーションに必要なのは、面白さ、サプライズ、差別化を意識した「攻め」の姿勢だと考えたのです。その方策として、農業や商工業など各部がバラバラで進めてきた営業活動を一元化した「営業戦略部」を平成30年度に設置。部署名に「営業」とつけることで、職員に「あなたは茨城県の営業パーソンなので、積極的に県を売り込んでください」と促すのが狙いです。そのうえで、職員の自主性を重視した広報・プロモーションを積極的に展開していきました。
―具体的に、どのような取り組みを行ってきたのですか。
大井川 たとえば、当県はメロンの名産地ですが、銀座でプロモーションをする際、カットメロンをつまようじで刺して配るのではなく、500人に丸ごと1玉無料で配布しました。これは、全国のキー局にも取り上げられ、話題になりました。そのほか、私自身のトップセールスによる県産農産物の輸出拡大促進や、農産物のブランド化、観光需要の喚起、企業誘致など、さまざまな取り組みを展開し、一定の成果をおさめることができました(下図参照)。
今後は、こうした取り組みと並行して、動画プラットフォームを活用していこうと考えています。動画であれば、これまでなかなかリーチできていなかった、若者や海外に対して訴求できるのではというのが狙いです。
幅広い目的で、動画活用が広まっている
―佐藤さんは、自治体における動画活用の有用性をどのように見ていますか。
佐藤 自治体の広報・プロモーションは、比較的「文字」のイメージが強いと思いますが、それだけでは伝わりにくい情報を直感的にわかりやすく伝えられるのが動画です。そのため、大井川さんの狙いどおり、動画に慣れ親しんだ若者や言語が障壁となる海外の人たちにも訴求しやすいでしょうし、その意味では有用性は高いと考えます。たとえば当社が運営しているTikTokは150の国と地域で展開しており、海外への広報・プロモーションには適していると言えるでしょう。
加えて、TikTokは若年層のユーザーが多いのは事実ですが、じつは全年代で広く利用されているのです(下グラフ参照)。つまり、若者をはじめ、幅広い世代にも情報を訴求できるのです。
―実際に動画を活用する自治体は増えているのですか。
佐藤 TikTokの活用で言えば増えています。現在約30の公的機関や自治体がTikTokのアカウントを開設しているほか、当社が連携する形で、ショート動画を活用した100以上の広報・プロモーションに関するプロジェクトを実施しています。目的も観光やシティプロモーションだけにとどまらず、産業振興や行政の制度情報の発信など、幅広く活用してもらっています。
大井川 当県でも、さまざまな目的でTikTokを活用しています。最近では、TikTok Japanの協力を得て、TikTokの動画を制作するクリエイターにつくっていただいた観光や農産物のプロモーション動画などは、再生回数が大きく伸びたと聞いていますね。
思いもしないところから、拡散する可能性がある
―TikTokのどのような点が自治体で評価されているのですか。
佐藤 まず、レコメンド機能があることですね。これはキーワードを検索しなくても、視聴者ごとに最適化された動画がおすすめされる仕組みです。たとえフォロワー数が少なくても、動画自体が評価されれば拡散される可能性があります。視聴者が自治体のことを知らなくても、そこから興味をもってもらえるのです。次に、短時間で多様な情報を視聴者に提供できる点。TikTokは「短尺のコンテンツ」が中心であり、視聴者はそれらのショート動画をスワイプしながら次々と情報を得るため、それだけ視聴してもらえるチャンスがあるのです。最後に、スマホの向きに合わせて縦画面で観ると、視聴者に親近感を与えられる点です。スマホを横にして観るより気軽ですし、友人と会話するような感覚で身近に視聴してもらえるのです。
ほかにも特徴はありますが、おもにそういった点でTikTokが評価されているのではないかと自負しています。
―そうした特徴は、大井川さんも実感していますか。
大井川 確かに思い当たる点はありますね。たとえば、昔の日本の歌謡曲が世界ではやり出したのはTikTokがきっかけでしたよね。これは、まさにレコメンド機能ならではの効果だと思います。
佐藤 そのとおりです。思いもしないところから拡散するのも、TikTokならではの特徴だと思います。それこそ、大井川さんが重視している面白さ、サプライズ、差別化を意識すれば、広く拡散していく可能性を秘めているのです。
海外に活路を見出さないと、自治体は生き残れない
―茨城県における、今後の広報・プロモーション活動の方針を教えてください。
大井川 若者はもちろん、今後は海外への訴求を思い切り増やしていきたいですね。ご存じのように、人口減少とともに国内のマーケットは縮小しています。ですから当県に限らず、日本全体が海外市場に活路を見出さないと、自治体は生き残っていけないと考えているのです。そのためにも動画は不可欠で、TikTokなどもさらに研究していきたいですね。
―今後、TikTok Japanはどのように自治体を支援していきますか。
佐藤 自治体の広報・プロモーションの課題を、ショート動画で解決するサポートを推進していきたいですね。スマホを通じて、動画は住民にとって気軽な情報伝達ツールとして定着していますし、海外での拡散力も非常に大きいです。興味があれば、自治体におけるさまざまな成功事例の情報共有などもできますので、ぜひ気軽にお声がけしてほしいと思います。
「自治体における広報動画の可能性」 Part2 / 茨城県営業戦略部の取り組み 専門家の協力によって再生回数が上昇
さまざまな課題解決を目的に、部署を越えて動画を積極的に活用
これまでは、茨城県知事の大井川氏とTikTok Japanの佐藤氏との対談を通じて自治体における広報動画の可能性を探った。後半パートでは、茨城県営業戦略部 プロモーションチームの関氏を取材。茨城県における具体的な広報・プロモーション活動および、TikTokを通じた動画活用の詳細や、そこで得られた効果などを聞いた。
茨城県
営業戦略部 プロモーションチーム チームリーダー
関 健一せき けんいち
『いばキラTV』やSNSで、動画の配信を強化
―茨城県ではどのようにして、広報・プロモーション活動を行っているのですか。
当県では、さまざまな広報・プロモーションを行っていますが、プロモーションチームでは大きく3つの手法を活用しています。1つ目は、メディアへのパブリシティ活動です。テレビやラジオ、新聞といったメディアに対して当県の情報を取り上げてもらうため、いろいろと工夫しながら、アプローチを行っています。
2つ目は、東京にあるアンテナショップ「IBARAKI sense」でのPRです。県産品の販売だけではなく、首都圏における当県の情報発信拠点としてイベントなども開催しています。
3つ目が、動画サイトの運営です。もともと当県は都道府県で唯一、県域の民放テレビ局がないこともあり、平成24年にインターネット動画サイト『いばキラTV』を開設。自治体のなかでも、早くから動画を活用した広報・プロモーション活動を行ってきました。現在は、『いばキラTV』だけでなくSNSなども活用しながら、若者向けの動画配信を強化しているところです。
―どのようにして、動画配信を強化しているのでしょうか。
できるだけ多くの人に視聴してもらえるように、面白さ、サプライズ、差別化を意識して強化を図っています。たとえばTikTokにおいては、TikTok Japanの協力を得ながら、人気のTikTokクリエイターを起用し、さまざまな目的でショート動画を制作しています。
一例をあげると、県内の魅力を紹介するため、映像クリエイターの「あああつし」さんが、サイクリングスポットをPRする動画を制作したほか、グルメクリエイターの「バヤシ」さんが、常陸牛を調理して食べることによってPRする動画などを制作しました。
こうした取り組みを行っているなか、TikTokに興味をもった他部署の職員が相談にくるようになり、部署を越えた活用事例も増えています。
さらなる観光誘客や、県産品の販売促進に努めたい
―部署を越えた活用事例を具体的に教えてください。
政策企画部では、県北地域振興のため、たとえばカップルクリエイターの「お笑い芸人の彼女」さんがカップルで大子町の自然やレトロな街並みを紹介する動画などを制作しました。また、減塩を通じた健康づくり推進のため、保健医療部と連携したショートドラマを県民向けに制作しました。
―こうした取り組みを行うなかで、成果はありましたか。
先ほど話した各動画の再生回数は非常に多く、たくさんの人に視聴してもらえています。また、動画にはコメントがつけられるので、特に観光スポットの紹介などは「ここはおすすめです」といったコメントがついて盛り上がっています。そのほか、庁内の職員が自身でショート動画を制作して配信しています。大きな手間をかけることなく動画を編集して配信できる点も、TikTokならではの特徴だと思います。
―今後における、動画を活用した広報・プロモーションの方針を教えてください。
動画を積極的に活用することによって、当県の広報・プロモーション能力をさらに高めていきたいですね。特にTikTokの活用では、若者と海外への訴求に大きく期待しています。当県では「チェンジ&チャレンジ」という考え方を重視しており、今後、広報・プロモーションの幅をさらに広げていきたいと考えています。それは動画においても然りで、職員からのアイデアによって制作されたものも徐々に増えています。とはいえ、できるだけ多くの方々に視聴してもらえる動画の制作には専門家の力が必要です。
TikTokにおいては、クリエイターのみなさんなどの協力を得ながら、当県ならではの面白さ、サプライズ、差別化を意識した動画を配信することによって、さらなる観光誘客や県産品の販売促進に努めていきたいと考えています。