※下記は自治体通信 Vol.56(2024年3月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
人口減少や高齢化の進展を背景に、住民生活の質や地域運営をいかに維持するか。多くの自治体が解決策を模索するなか、熊本市(熊本県)が協力するかたちで、この課題に向けたある実証実験が始まっている。住民接点のひとつとしてスマートスピーカーを使い、住民生活を支える「コミュニケーション・プラットフォーム(以下、CPF)」を構築するというものだ。同市担当者の江﨑氏、実証実験に参加する熊本市高齢者支援センターの堤氏に詳しく聞いた。
[熊本市] ■人口:73万7,944人(令和6年1月1日現在) ■世帯数:33万9,008世帯(令和6年1月1日現在) ■予算規模:6,971億8,323万6,000円(令和5年度当初) ■面積:390.32km² ■概要:九州の中央、熊本県の西北部に位置する。地勢は、金峰山を主峰とする複式火山帯とこれに連なる立田山等の台地からなり、東部は阿蘇外輪火山群によってできた丘陵地帯、南部は白川の三角州で形成された低平野からなっている。気候は、有明海との間に金峰山系が連なるため、内陸盆地的気象条件となり、寒暖の較差が大きく冬から春への移り変わりは早く、夏は比較的長いことが多い。
熊本市高齢者支援センター ささえりあ幸田
生活支援コーディネーター 社会福祉士
堤 信泰つつみ のぶひろ
コンパクトシティへの課題は、「高齢者支援へのICT活用」
―熊本市がCPFの実証実験に協力した経緯を教えてください。
江﨑 当市では、人口減少と高齢化社会への対応として「多核連携都市構想」を掲げ、コンパクトシティの取り組みを進めてきました。そこでは、将来の住民サービスをいかに維持するかが課題であり、ICT活用には注目していました。そうしたなか、地域創生Coデザイン研究所からデマンド交通サービスの利用向上をテーマにしたCPF実証実験の提案をもらいました。同社から説明を受けたところ、当市が多核連携都市実現に向けてもっとも高いハードルと感じていた「高齢者支援へのICT活用」にこの技術が有効だと考えました。そこで、最初のターゲットを広く高齢者支援へと切り替えることを協議し、実証実験へ協力することを決めました。
―どのような内容ですか。
江﨑 地域の高齢者と民生委員の自宅にディスプレイ付きスマートスピーカーを設置して両者をつなぎ、高齢者の見守りや生活情報の提供などに活用してもらいます。高齢者支援センター「ささえりあ幸田」など5施設のほか、高齢者30人、民生委員16人に参加してもらい、令和5年12月から3ヵ月間実施しています。
堤 人とのつながりは、高齢者の健康維持にとって基本的な条件と言われています。私たちもICT活用にはハードルを感じながらも、期待をもって実験に参加しました。
住民のQOL向上を実現する、プラットフォームになる
―現在までに、どのような成果があがっていますか。
堤 参加する高齢者には、民生委員と週2回、ビデオ通話で会話してもらっていますが、端末操作は難しくないため、問題なく使うことができているようです。画面からは高齢者の表情や顔色が見えるので、民生委員は高齢者の健康状態も確認できているといいます。高齢者数の急増による個別訪問の増加は民生委員の負担になっています。その負担軽減効果も期待しています。そのほか、センターからのお知らせや詐欺被害防止の啓発、登録された最寄りのバス停の運行情報も声で問いかけると知らせてくれるので、高齢者は便利に使っているようです。今後、高齢者からの自発的発信で、地域の受援力向上につながればと考えます。
―今後の計画を教えてください。
江﨑 CPFは、今回の高齢者福祉に限らず、子育て支援や防災、行政手続きなど幅広い住民サービスに活用し、地域運営を効率化する仕組みです。今回の成果を次につなげ、「住民のQOL向上」を実現するICT活用のひとつにつながればと思っています。また、ICTの活用は、高齢者の利便性向上のみならず、若者世代とつながるきっかけにもなりえます。多核連携都市に欠かせない多世代連携のまちづくりを進めるための基盤技術として、長期的視点で実用化を期待しています。
住民サービスの維持向上を図るには、「地域DX」の視点が不可欠に
株式会社地域創生Coデザイン研究所
研究主任 リードCoクリエイター
紺野 哲成こんの のりまさ
昭和48年、岩手県生まれ。IT企業のエンジニア、政令指定都市職員、復興支援NPOなどを経て、令和5年1月に株式会社地域創生Coデザイン研究所に入社し、現職に。
―将来にわたり住民サービスをいかに維持するかは、いまや多くの自治体の共通課題です。
行政ニーズが多様化するなかで、自治体や事業者における住民サービスの担い手も減り、提供体制の維持に大きな負担が生じています。住民サービスの質を維持するには、ICTの活用はもとより、ひとつの情報を異なる施策や別の部署においても有効活用し、サービスの提供効率を高める発想が必要です。そこで当社では、各所にある住民サービスにまつわる業務やデータを集約することで、地域運営の効率性を高めるよう支援をしています。
―どのような支援を行っているのですか。
当社の支援は、デジタル活用のBPOを通じて、住民の行政手続きなどの公共分野はもとより、地域包括ケアや公共交通といった準公共サービスをも含めた地域運営を効率化し、コスト削減を図るものです。いわば、「地域DX」の支援といえるもので、当社では「地域オペレーション」と呼んでいます。その際の住民接点のひとつがCPFです。熊本市での実証実験では、高齢者支援から始めましたが、地域にかかわる広範なサービスを最適化することが本来の姿です。たとえばCPFのログからは地域の活動傾向が見えますから、それらを住民サービスの改善や予測にもつなげられます。NTT西日本グループでは、地域通信を担い住民の暮らしやつながりを支えてきました。その一員である当社はこうした先進技術による課題解決を通じて、今後も地域社会を支えていきます。