※下記は自治体通信 Vol.57(2024年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
自治体の広報動画活用の可能性を探る連載記事としてスタートした本企画。情報発信に動画を活用する自治体は増えているが、最終回となる第4回目は、ショート動画を通じて地元の大学生と関係を構築している自治体に注目した。このページでは、実際に大学生と協働してショート動画を制作した京都市(京都府)を取材。そのような企画を立案した目的はなんだったのか。同市担当者の多田羅氏に、詳細を聞いた。
[京都市] ■人口:143万7,853人(令和6年3月1日現在) ■世帯数:74万4,243世帯(令和6年3月1日現在) ■予算規模:1兆8,247億4,200万円(令和6年度当初) ■面積:827.83km² ■概要:794(延暦13)年から、1000年以上にわたって都が置かれ、歴史のなかで日本の中心として栄えてきた。国内外から多くの宿泊観光客が訪れる世界有数の「観光都市」に加え、伝統産業から最先端産業が共存する「ものづくり都市」としても知られる。おもな伝統産業には、西陣織、京友禅、京鹿の子、京くみひも、京扇子、京焼・清水焼などがある。また、八つ橋や京菓子、京漬物なども土産品として人気。
京都市
産業観光局 クリエイティブ産業振興室 コンテンツ産業振興担当
多田羅 裕太たたら ゆうた
若い世代に向けて、京都生活の良さを伝えたい
―なぜ、大学生と協働してショート動画を制作しようと考えたのでしょう。
新しい視点で、京都市の魅力を発信するためです。当市では、長年培ってきた京都のさまざまな魅力を伝えるため、SNSなどを活用した情報発信を行ってきました。京都のファンは50代以降の年齢層が多く、PRしなくてもイベントなどがあると自分たちで調べて足を運んでくれます。一方、若い世代は歴史や伝統文化といった魅力に積極的に関心を示してくれることが少ない。そこで、若年層を含む幅広い世代の視聴者が多いTikTokに注目し、映像クリエイターの協力を得て、初めは京都の伝統産業の魅力を紹介するショート動画を約2年前に制作したのです。
それをきっかけに、毎年開催される京都国際マンガ・アニメフェア「京まふ」のPRなど、さまざまな企画でTikTokを活用したショート動画を制作してきました。そして今回は、実際に京都市内の大学に通っている学生ならではの視点で当市をPRしようと考えたのです。また、学生と協働しようとしたのには別の意図もありました。
―どのような意図ですか。
人材流出の抑制です。当市は、観光では国内外を問わず多くの方々に来ていただいているものの、企業や人材の流入は正直芳しくありません。特に市内には大学がたくさんあるのですが、多くの学生は卒業後に大阪や首都圏に就職する傾向にあります。そこで若い世代に向けて、京都で生活する良さを改めて訴求することで、卒業後も市内での就職を選択してくれればと考えたのです。微力な取り組みかもしれませんが、そうした学生が増えれば、結果的に企業誘致にもつながると期待しました。
毎年実施することで、多くの学生に参加してほしい
―どのようにしてショート動画制作を進めていったのでしょう。
まずは、私たちが実際に講義を行っていた関係で、立命館大学の映像サークルの学生に声をかけました。そして、計5人が参加してくれることに。また、以前から動画制作に協力してもらっていた、映像クリエイターで京都出身のしんのすけさんと馬杉雅喜さんにも参加してもらい、「学生と映像クリエイターのコラボ」という形で動画を制作することになりました。
具体的には2チームに分かれて、1日目は「京都の日常の魅力」をテーマに、どのような動画を制作するかの企画を立案し、2日目に動画を撮影。その後、動画を編集し、約10日後に各チーム2本、計4本の動画を市のTikTok公式アカウント「京都くりえいてぃ部」にアップしたのです。
―反響はいかがでしたか。
動画は、合計で80万人以上に視聴してもらい、3万以上の「いいね」をいただきました。コメント欄にも「また京都に行きたい」「京都大好き」といった好意的なコメントが寄せられました。若者のほかに、若者の親世代も視聴していることが印象的でしたね。改めて、TikTokのような新たなプラットフォームを活用すれば、これまで届けられなかった層に京都の情報を届けられることを実感しました。学生にとっても良い経験になったと思いますし、私たち職員も、若者の感性に触れることで、今後の動画制作の新たなヒントを得られたと思います。
―今後のショート動画の活用方針を教えてください。
今回のような学生と協働した動画制作はこれで終わりではなく、毎年行っていきたいと考えています。次回は、各大学に声をかけて、より多くの学生に参加してほしいです。そうすることによって、視聴者に対してだけでなく制作者の学生が改めて京都市の魅力に気づき、卒業後も市内に就職してくれるような流れをつくれたらうれしいですね。
京都市職員や映像クリエイターの方々との動画制作を通じて、動画に対する熱い想いを知ることができて、非常に貴重な体験をさせていただきました。動画がアップされた後は、再生数が増えるだけでなく、知らない人からも「動画観たよ」と言ってもらえたりして、「TikTokって拡散力があるんだな」と実感しましたね。また、私自身ずっと京都で暮らしているのですが、改めて京都の魅力を実感でき、もっと愛着が増しました。
「自治体における広報動画の可能性 最終回」 Part2 / 愛知県名古屋市の取り組み 学生参加型プログラムの一環として開催
「どうすれば伝わるか」の重要性を、動画制作セミナーを通じて学んだ
ここまでは、京都市(京都府)の事例を紹介した。このページでは、学生参加型の企画「なごや学生社会課題解決プログラム」の特別企画として、「動画クリエイターから学べる! “バズる動画"の作り方」と題した動画制作セミナーを実施した名古屋市(愛知県)を取材。同プログラムは、どのような取り組みなのか。そして、動画制作セミナーを実施した目的はなんだったのか。同市担当者2人に、詳細を聞いた。
[名古屋市] ■人口:232万5,207人(令和6年3月1日現在) ■世帯数:115万9,281世帯(令和6年3月1日現在) ■予算規模:2兆9,936億8,723万4,000円(令和6年度当初) ■面積:326.50km² ■概要:本州中央部の濃尾平野に位置し、伊勢湾に南面しており、県内では豊田市、新城市、岡崎市に続いて4番目に広い面積を有する。明治・大正から昭和の初頭には経済界の活況に伴い、商工業都市として順調な発展を続け、現在では全国的な製造業の本社が集積する工業地帯を形成。リニア中央新幹線の開業に向け、高い国際競争力を発揮する都心部の形成を目指している。
名古屋市
総務局 総合調整部 主幹(公民連携推進に係る企画調整)
河村 英行かわむら ひでゆき
名古屋市
総務局 総合調整部 総合調整室 主査(大学連携等)
南 彩みなみ あや
市の社会課題の解決策を、大学生と一緒に考える
―「なごや学生社会課題解決プログラム」とはどのような取り組みですか。
河村 当市が抱える社会課題・行政課題の解決策を、職員と市内の大学に通っている学生が約半年にわたって一緒に考える企画です。「社会課題の解決に貢献したい」という学生への実践の場の提供と、「学生ならではのアイデアを行政に反映したい」という行政ニーズを叶えることを目的に、令和4年度からスタート。2年目の今回は、「名古屋の水道水は安心・安全でおいしいことを広めたい」「エスカレーターを立ち止まって利用してもらえるよう啓発したい」など4つの課題の解決策を、8チーム計40人の学生と考えていくことになったのです。
―そのプログラムのなかで、動画制作セミナーを実施した目的はなんだったのですか。
南 TikTokを運営しているTikTok Japanが、「エスカレーターの安全利用の啓発をTikTokで行いませんか」と当市に提案したのがきっかけです。エスカレーターの課題に限らず、4つの課題はどれも、まずは当市の取り組み自体を知ってもらうことが重要でした。であれば、「学生向けの動画制作の特別セミナーをプログラム内で行えば、それぞれの課題解決策を考えるヒントになるのでは」と。そこで、TikTok Japanの協力を得て「動画クリエイターから学べる!“バズる動画"の作り方」という動画制作セミナーを実施したのです。
実際にショート動画を、制作した学生チームも
―具体的にどのようなセミナーを実施したのでしょう。
河村 自治体の課題解決に向けたショート動画制作を数多く手がけてきた動画クリエイターの汐田海平さんに講師を依頼し、1日限りの特別セミナーとして開催しました。まずはTikTokの特性として「若年層のユーザーが多く、ダンスなどのエンタメ系のコンテンツが多い印象があるかもしれないが、じつは社会課題の啓発のために多くのショート動画が制作されている」と説明。その後、「誰に何を伝えるかを徹底的に考えることが重要」といった解説などをしてもらいました。個人的には「エスカレーターを歩いてはダメ」と直接伝えるのではなく、「カップルが手をつないで並んで立てば素敵だよね」など、伝えたいことを「聞いてもらえること」に変換するのが重要というのが印象的でした。
―学生の反応はいかがでしたか。
南 「そんなに考えて制作されているんだ」など、発見があった学生が多かったようです。日頃から情報発信の機会が多い私たち職員も、「どうすれば伝わるか」を考えることの重要性を学びました。
河村 プログラムでは、課題解決策として動画を制作するかどうかは学生たち次第でしたが、セミナーを受けて、実際にショート動画を制作したチームがありました。今後も、ショート動画を活用した取り組みを行っていきたいです。
私たちのチームは「名古屋の水道水」の課題解決策の一環として、ショート動画を制作しました。実際に市の浄水場を見学し、担当者の人に「どうやって安全でおいしい水道水がつくられているか」を、科学番組のように質問する内容にしました。制作した動画で、名古屋の水道水の魅力を広く伝えることができればうれしいです。
ショート動画を活用すれば、「発信と受信」で若年層とつながれる
TikTok Japan(ByteDance株式会社)
公共政策本部 政策渉外担当部長
笠原 一英かさはら かずひで
大学を卒業後、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)に入構。令和元年、TikTok Japanに参画。地方自治体をはじめとする公的機関とともに、ショート動画を通じた公民連携を推進している。
―ショート動画を通じて、学生とつながる自治体は増えているのですか。
TikTokのケースで言いますと、京都市や名古屋市の事例に限らず、徐々に増えてきています。そのなかでも今回の2事例は、ショート動画を活用し、地元の大学生と協働して地域の課題を解決する取り組みとして、先進的な事例だと捉えています。
―こうした取り組みは、どんなメリットが見込めるでしょうか。
まず行政にとっては、学生と直接かかわるきっかけづくりができます。そして学生に対しては、これまでかかわりが薄かった行政とつながり、地域の課題解決に貢献することによる、地元への誇りと愛着心の向上が期待できます。これは、地域の未来を支える人材育成の観点でも大きなメリットと言えます。普段から、学生を含めて幅広い世代に利用されているTikTokを活用すれば、そうした取り組みが実現しやすいのです。加えて、TikTokはフォロワー数や興味関心に関係なく動画が拡散される仕組みがあります。そのため、学生目線で制作されたショート動画を、より行政情報に無関心だった層に届けられます。
―自治体に対する今後の支援方針を教えてください。
TikTokを活用すれば、協働での情報発信者として若年層と直接かかわれるほか、若年層を含めた幅広い世代のユーザーに情報を届けてつながることが期待できます。私たちはTikTokを通じて「発信と受信」で自治体と若者をつなぐ支援をしていきたいと考えているので、興味のある自治体のみなさんはお問い合わせください。