※下記は自治体通信 Vol.57(2024年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
自然災害の頻発化、激甚化が懸念される昨今、住民の命を守る責務を担う自治体は、防災情報の伝達を強化すべく、さまざまな環境整備に力を入れている。そうしたなか、防災行政無線システムなどを自治体向けに展開する扶桑電通の黒沼氏は、「防災情報サービスの選択肢が増えた結果、サービス間の連携確保が難しくなっている」と指摘する。同社の佐藤氏を交え、指摘の詳細とその解決策について聞いた。
扶桑電通株式会社
社会ビジネス本部 第二販売部 部長
黒沼 学くろぬま まなぶ
北海道生まれ。旭川大学卒業。昭和60年、扶桑通信工業株式会社(現:扶桑電通株式会社)旭川営業所に入社。その後、北海道支店、中部支店を経て現職。中央省庁、地方自治体に対するICT支援のなかで、自社防災ソリューションの企画、営業を担う。
扶桑電通株式会社
社会ビジネス本部 第二販売部 シニアマネージャー
佐藤 拓磨さとう たくま
埼玉県生まれ。神奈川大学卒業。平成13年、扶桑電通株式会社に入社。入社から通信系営業を担当。中央省庁、地方自治体に対するICT支援のなかで、自社防災ソリューションの企画、営業を担う。
防災情報配信の「多重化」で、運用が複雑化している
―防災情報の発信力強化に力を入れる自治体は今、どのような課題を抱えていますか。
黒沼 防災情報の発信をめぐる自治体の長年の課題は、防災行政無線放送が発災時に「聞こえない」というものでした。そのため各自治体では、防災メールやSNS、防災アプリなどを導入し、情報配信の「多重化」を図り対応してきた経緯があります。その結果、現在は情報サービスの選択肢が大きく増え、住民の利便性は高まったように見えます。一方で、これらサービス間の連携が十分に進んでおらず、自治体の運用は複雑化し、迅速に、わかりやすく伝えるという目的から遠のいている現状もあります。
佐藤 じつは、この状況は住民にとっても望ましくありません。サービスが増えるたびに登録やダウンロードを行い、いちいちアクセスして情報を探さなければなりません。また、各サービスからバラバラに送られてくる情報が、新たな混乱を生む可能性もあります。
―どうすればよいのでしょう。
佐藤 地域の防災情報を1つのプラットフォーム上に集約できれば、自治体、住民双方にとって使い勝手の良い仕組みが構築できます。発信する自治体側は一度の入力で連携する多様なサービスに情報配信できるためオペレーションの負荷が減り、受信する住民側も1つのプラットフォームにアクセスさえすれば最新かつ確実な情報を得られるようになります。そうした、いわば「地域防災情報共有化システム」を目指して当社が開発したのが、『BO-SAInavi Difesa(ディフェーザ)』です。
地域防災力を高めるための、独自の工夫「3つのU」
―どのようなシステムですか。
黒沼 従来、防災情報発信の中核を担ってきた同報系防災行政無線システムと連携し、そこに入力された音声やテキストといったデータを各種サービスへと配信する仕組みです。防災無線設備との連携にあたっては、API接続で音声データとテキストデータを直接取得するほか、戸別受信機から流れる音声を取得できるのが『ディフェーザ』の特徴です。今後はAIを活用したテキスト化も提供予定です。既存の無線設備を活かした新しい配信システムを目指しています。
佐藤 API連携によって、幅広いサービスへ柔軟に接続できるのも『ディフェーザ』の特徴です。
―たとえば、どのようなサービスと接続できますか。
佐藤 『ディフェーザ』の接続先には、導入自治体向けに当社が開設する「防災専用ポータルサイト」も加わります。このサイトからは、テキスト情報にとどまらず、通信の高速化で連携が可能になった河川カメラなどの映像ソリューションに接続できるのも大きな特徴です。自治体HPのバナーからワンクリックで遷移するので、有事の際にはHPへのアクセス分散にも効果を発揮します。
黒沼 この「防災専用ポータルサイト」は、地域防災力を高めるための当社独自の工夫も盛り込んでいます。「3つのU」はその1つで、操作性を追求した「UI*」、有事の際に欲しい情報へ辿り着きやすい「UX*」の考えをサイトに取り入れました。さらに、文字フォントや配色にこだわり、掲載内容を直感的に理解してもらえるよう「UD*」も意識しています。このほか、被災体験を後世に伝える「災害伝承」といった近年注目される活動の支援として、平時から防災への関心を高めてもらうコンテンツの作成にも取り組んでいます。こうした自助・共助・公助による災害に強いまちづくりの支援を通じ、SDGsにも貢献したいと考えています。
*UI、UX、UD : それぞれ、ユーザーインターフェイス、ユーザーエクスペリエンス、ユニバーサルデザインの略