※下記は自治体通信 Vol.58(2024年6月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
近年、甚大な大雨被害が日本各地で頻発するなか、自治体では、防災体制の強化に余念がない。そこでは、防災対策の司令塔となるべき自治体職員が、いかに迅速に情報を把握できるかが初動対応を左右するとされる。そうしたなか、九度山町(和歌山県)では令和5年に、過去にない線状降水帯による被害にあったのを機に、新たな防災情報の共有ツールを導入したという。同町担当者の下西氏に、システム導入にいたるまでの経緯や導入後の効果などを聞いた。
[九度山町] ■人口:3,841人(令和6年4月30日現在) ■世帯数:1,871世帯(令和6年4月30日現在) ■予算規模:69億3,002万9,000円(令和6年度当初) ■面積:44.15km² ■概要:和歌山県の北東部(伊都地域)に位置している。古くは弘法大師空海のゆかりの地として栄え、近世においては真田昌幸・幸村親子ゆかりの地であったことから、今なお多くの歴史・文化遺産が現存している。近年、高野山町石道、慈尊院、丹生官省符(にうかんしょうぶ)神社が世界遺産に認定されたほか、令和2年には慈尊院が日本遺産に認定された。「真田まつり」や「大収穫祭IN九度山」など、毎年さまざまなイベントが開催されている。
線状降水帯による被災で、情報共有の課題が浮き彫りに ―防災情報の共有ツールを新たに整備した経緯を教えてください。
当町では、昨年6月に線状降水帯が発生し、警戒レベル5「緊急安全確保」の避難情報が発令されました。河川の増水や土砂災害、建物の浸水など過去最大規模の被害が町内全域から報告されましたが、それらの対応にあたるなかで、後に総括されることになる大きな課題が浮上しました。それは、職員間の情報共有の問題でした。
―詳しく聞かせてください。
全町から集められる情報は、災害対策本部内にあるホワイトボードに書き込まれ、紙の地図にも記すなどアナログ的に表示していたため、本部内の職員にしか共有されなかったのです。避難所の開設・運営など各現場対応にあたっていた職員など庁外にいる職員や、庁内の本部外にいた職員は、本部に足を運ばなければ状況を把握できませんでした。災害情報を共有する仕組みとしては、県が運用する「和歌山県総合防災情報システム」がありましたが、操作が非常に難しく、防災担当職員しか触らないような状態でした。そこで、被災後に今回の対応を振り返るなかで、災害情報の新たな共有ツールが必要と判断したのです。当町にデジタル防災行政無線を納入しているサイバーリンクス社に相談した結果、試験導入にいたったのが「警戒情報支援サービス」でした。
―どのようなサービスですか。
気象情報や災害情報、浸水想定区域などを地図上で一元的に確認できるサービスです。ハザードマップや航空写真なども反映でき、現場で記録した写真やコメントなども、GPSの位置情報をもとに地図画面上にプロットすることができます。手元の端末でサービスにアクセスすれば、職員は場所を選ばず情報を確認できるようになります。クラウドサービスのため、当町のような小規模の自治体でも導入コストの負担を抑え、迅速にシステム運用を開始できる点も、導入の決め手になりました。
災害時のみならず、平常時での有効利用も可能 ―導入効果はいかがですか。
本格運用はこれからになりますが、試験導入に対する庁内での評価はとても良かったです。当町が求めていた使いやすさや機能のシンプルさがありながら、視覚的に情報を理解しやすく、「災害時にはかなり重宝する」といった声が多数寄せられました。画面上には、鳥獣被害や道路破損などの状況、自治体の設備情報なども表示できるので、災害時のみならず平常時でも利用できます。職員間の情報共有ツールとして導入したサービスですが、この情報の伝わりやすさを評価するならば、町のホームページに掲載するなど、将来的には住民向けの情報伝達ツールとしても活用できるかもしれませんね。
機能を絞り込んだ合理的な仕組みで、災害情報を効率的に収集・共有せよ
株式会社サイバーリンクス
公共クラウド事業部 公共営業部 企画営業課 課長補佐
日樫 誠 ひがし まこと
昭和61年、和歌山県生まれ。平成24年、株式会社サイバーリンクスに入社。防災行政無線整備工事などの現場業務に携わる。防災行政無線を中心とした防災システムや学校向けの校務支援システムの営業担当を経て、現職では防災DXや行政DXなど多角的な業務に携わっている。
―防災対策をめぐる自治体の取り組み状況はいかがですか。
地震や風水害といった自然災害の頻発を受け、どの自治体も防災・減災対策は危機感をもって強化しています。ただし、人員や予算といった制約があるため、いかに費用を抑えて効率的に情報を収集し、共有するかといった仕組みづくりに関心をもつ自治体が増えています。そうした自治体に当社では、九度山町などが導入する「警戒情報支援サービス」を提案しています。
―詳しく教えてください。
当社が提供する『Open LINK for LIFE まちあっぷ!』という防災プラットフォームサービスの機能の1つであり、実装する機能をあえて絞り込み、シンプルさと直感的に操作できる使いやすさにこだわっています。具体的には、地図画面上に各種の情報を一元表示し、視覚的に理解・共有するためのサービスで、表示するのは気象情報や災害情報はもとより、鳥獣被害や道路の破損、職員・住民からの投稿情報など多岐にわたります。災害時だけでなく、平常時から多くの担当の職員が普段使いできるサービスとして開発しています。共同利用型クラウドサービスであるため、導入費用を抑えられるのです。
―今後の自治体への支援方針を聞かせてください。
当社では無料トライアルの機会も用意し、多くの自治体のみなさんにサービスを体感していただきたいと思っています。現場の声を反映した機能強化も継続的に行い、全国の自治体の防災・減災の取り組みを支援していきたいと考えています。