※下記は自治体通信 Vol.58(2024年6月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
人や車が域内の道路を安全に通行できるよう、全国の自治体は日々、道路パトロール業務を行っている。そこでは、職員の数が限られるなかで、路面や道路施設の異常をいかに漏れなく発見し、補修につなげるかが課題となっている。そうしたなか、奈良県ではドライブレコーダーとAIを活用した「道路巡回システム」を試行運用し、路面状況把握の精度向上と省力化の効果を実感したという。取り組みの詳細を同県担当者に聞いた。
[奈良県] ■人口:128万8,599人(令和6年4月1日現在) ■世帯数:55万4,843世帯(令和6年4月1日現在) ■予算規模:9,244億8,400万円(令和6年度当初) ■面積:3,690.94km² ■概要:紀伊半島の真ん中に位置する、海のない内陸県。盆地と高原、山を擁するため、南北の気候の差は全国的にも大きい。古代から大陸からのさまざまなものを受け入れ、独自の多様な文化を作り上げてきた。全国で25 件の世界遺産が登録されているうち、3件を奈良県が有している。また、国宝の「彫刻」「建造物」「史跡名勝天然記念物」の数はいずれも全国1位となっている。
奈良県
県土マネジメント部 道路マネジメント課 道路DX推進係 主査
今福 大智 いまふく だいち
総延長2,000kmの道路を、職員が目視で点検 ―奈良県では、道路パトロール業務をどのように行っていますか。
県内7ヵ所の土木事務所の職員が、それぞれの管理エリアにおいてパトロールカーを走行し、路面や道路施設に異常などがないかを点検しています。異常を早期に発見し、つねに道路の安全性を維持できるよう、総延長約2,000kmの管理道路を一定の頻度で点検することとしています。しかし、点検は目視で行うため、異常箇所の見落としが発生する可能性について、課題を感じていました。そこで我々は、限られた職員数でも道路の異常をより早期かつ確実に発見し、迅速な対応につなげられるよう、路面状況の把握といった道路管理の効率化が期待できるシステムを複数選定。令和6年1月から2月にかけて試行運用しました。
―具体的に、どのようなシステムを試行運用したのですか。
路面状況の把握に関しては、ドライブレコーダーで撮影した路面の動画をAIで解析し、ポットホール* やひび割れ、白線のかすれなどを検出できる複数のシステムを使用してみました。国際航業の道路巡回システム『Draw-AI』は、当県がすでに導入していた、同社製の「奈良県道路施設共通データベースシステム(以下、データベースシステム)」と連携できる点などを評価して選定しました。
―運用結果はいかがでしたか。
試行運用では、安全な走行に支障をきたす危険性のあるポットホールの発見を優先しましたが、『Draw-AI』は、我々が事前に設定した大きさ以上のポットホールだけを高い精度で検出できました。検出された異常の位置や写真を、自動で帳票に出力できる点も効率的だと評価しました。『Draw-AI』に使われるAIの検知精度は、特別な測定機器で路面の状況を定量的に調査する「路面性状調査」にも活用できる水準と聞いています。本格運用に向けては情報処理体制の構築などの課題はあるものの、試行運用を通じ、「異常の早期発見と省力化は両立できる」という期待感を持てました。
*ポットホール : アスファルト舗装の道路にできるくぼみやへこみ、穴のこと
地図上で情報を一元管理し、対応優先度を俯瞰的に検討 ―今後、どのような方針で道路管理業務を推進していきますか。
今回の試行運用のように、先端技術を積極的に活用しながら、安全な道路の維持と職員の業務効率化を模索していきます。当県の「データベースシステム」では、パトロールで発見した異常や、住民からの通報情報などを一元管理する機能を追加できると聞いています。たとえば、これと『Draw-AI』を組み合わせれば、道路の異常を漏れや重複なく把握し、対応の優先度合いなどを俯瞰的な視点で検討できるようになるため、維持修繕の効率化も目指せると期待しています。
情報の「収集・共有」を効率化し、持続可能な道路管理体制を構築せよ
国際航業株式会社
事業統括本部 インフラDX推進部 東日本DX戦略グループ
藤原 優 ふじわら ゆう
令和2年、国際航業株式会社に入社。おもに自治体インフラの維持管理に関するDX導入支援や計画策定を担う。
―道路管理業務をめぐる自治体の現状をどう見ていますか。
限られた職員数で安全な道路を維持し続けることに限界を感じ、効率化を図る自治体が増えています。ただし、道路管理においては、異常の迅速な把握に加え、複数の担当部署や事業者などとの連携が欠かせません。そのため、自治体が今後、持続可能な道路管理体制を築いていくには、異常の把握といった情報の「収集」に加え、関係者間における情報の「共有」、それぞれの効率化を図ることが大切です。そこで当社では、これらの効率化を実現するツールを提案しています。
―どのようなツールがあるのですか。
たとえば、車載動画をAIで解析し、道路の異常を位置情報とともに収集できる道路巡回システム『Draw-AI』があります。このシステムに搭載したAIは、当社が30年以上、路面性状調査を手がけるなかで蓄積した知見を教師データとして学習させたもので、高い検知精度が強みです。また、道路施設データベース『Genavis Tao Asset』では、法定点検結果など施設の老朽化対策に関する情報、巡回で収集したデータや修繕履歴などをGISで管理できます。同一画面による情報共有で、複数部署間の連携を円滑化しつつ、老朽化のシミュレーションなどを行えるもので、道路維持管理計画の策定を支援します。このデータベースの運用に際しては、住民からの通報をLINEで受け付けるサービスとの連携や、通報情報の整理を当社が請け負うことも可能です。お気軽にご連絡ください。