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経済安全保障で存在感を高める熊本県の新たな県政ビジョン

「九州の結節点」として連携の中核を担い、半導体景気の追い風を県内・九州全域へ

「九州の結節点」として連携の中核を担い、半導体景気の追い風を県内・九州全域へ

※下記は自治体通信 Vol.62(2024年12月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

長年にわたって形成してきた「半導体産業の集積」という資産を活かし、台湾から世界的な大手半導体メーカーの工場誘致に成功した熊本県。現在、令和6年内の稼働を目指す新鋭大型工場の建設が進み、県内経済は大きな追い風を受けている。そうしたなか、令和6年4月には、木村敬氏が新たに熊本県知事に就任。期待される経済効果を今後、いかにして県政運営全体に波及させていくのか。手腕が問われることになる。同氏に今後の県政ビジョンについて聞いた。

インタビュー
木村 敬
熊本県知事
木村 敬きむら たかし
昭和49年5月、東京都生まれ。平成11年3月に東京大学法学部を卒業し、自治省(現:総務省)に入省。鳥取県参事監兼総務部財政課長、熊本県総務部長、総務省自治財政局公営企業課理事官、内閣府地方創生推進事務局参事官(総括担当)付企画官などを歴任。令和2年10月からは熊本県副知事を務める。令和6年4月に熊本県知事に就任。現在1期目。生まれつき左手首から先がない障がいがあるが、本人いわく「今やトレードマーク」。

日本の国際競争力を支える、地政学的な優位性

―令和6年4月、どのような使命感を持って熊本県知事に就任したのですか。

 私は当時の自治省(現:総務省)に入省し、地方創生に従事するなかで、全国の自治体に出向や訪問をした経験があります。熊本県にも二度、出向しましたが、そこで感じたのは他県にも増して熊本県が有する独自性や強みであり、そこに秘められた発展の可能性でした。その可能性を引き出し、熊本県を日本一の地方創生の成功モデルに育てたい。そんな想いが知事就任の背景にありました。

―熊本県に感じた強みとは、どのようなものですか。

 1つは、東アジアに向けた「日本の玄関口」とも呼べる地政学的な位置づけです。日本列島のもっとも西に位置する九州のさらに西の端にある熊本県は、東京から約1,000㎞、飛行機で約2時間の距離にあります。従来はその距離が物流面では不利とされてきましたが、これが対東アジアという視点で見れば、むしろ利点になります。中国・上海とは約1,000㎞、台湾・台北とも約1,200㎞、飛行機でいずれも2時間ほどで結ばれることができるのです。日本が「失われた30年」を打破するためには、世界に開かれたマーケットで、世界のニーズを取り込んでいかなければなりません。その際、この地政学的な位置づけが、熊本県の大きな優位性として働き、日本の国際競争力を支える存在になれるものと考えています。

 そしてもう1つの強みは、我々が「農林畜水産物」と呼ぶ、多様性に富んだ第一次産業の強さです。

世界との「交流の扉」を開いた、台湾TSMCの進出

―詳しく教えてください。

 農業を見れば、緑の葉菜類から紫のナスや赤いトマト、スイカといった果菜類など色彩豊かな野菜は、全国トップクラスの生産高を誇ります。椎茸栽培を中心とした林業も盛んです。また、あか牛や黒毛和牛、地鶏の天草大王や馬刺しで知られる畜産業も活発に営まれ、なかでも酪農業は西日本でトップを誇り、生乳生産量は九州の過半を占めています。さらには、天草の天然魚から鯛や鰤に代表される養殖魚、貝類、海苔などバラエティに富んだ水産物は、他県に例を見ない豊かさです。私は公約のなかで、「食のみやこ熊本県」の創造を訴え、熊本県が誇る豊かな食文化を活かし高付加価値化を進めることで、稼げる農林畜水産業の実現を掲げていますが、これこそが熊本県の特徴を活かした地方創生の道だと自負しています。

―それらの第一次産業に加え、現在、台湾企業の進出が進む半導体産業にも注目が集まっていますね。

 台湾TSMCの工場進出は、まさに「地政学的な優位性」と、過去の産業政策によって培われた「半導体関連産業の集積」という熊本県の強さが活かされた事例だと考えています。当時、半導体という重要産業をめぐる経済安全保障の観点からこの案件は国家的なプロジェクトとして進められていましたが、地域産業の振興や地域活性化の起爆剤といった観点から熊本県にとっても重要な意味がありました。実際、TSMCの進出が決定して以降、海外から熊本県へのヒト、モノ、カネの流入が大きく増え、まさに世界との「交流の扉」が開かれつつあります。昨年夏までは1便もなかった台湾直行便が、現在は週12便も運航しているのは、その象徴です。この半導体景気の追い風を県政の隅々へと行き渡らせることはもちろん、九州全域へと広く波及させることが熊本県知事としての使命だと感じています。特に、10年後、20年後を見据え、海外を意識した経済政策を推進するに際しては、「九州は1つ」という視点が重要だと考えますが、そのための連携基盤も現在、着々と整いつつあります。

東西と南北の軸を結ぶ「九州の結節点」へ

―どういうことでしょう。

 たとえば、交通インフラの視点で見ると、熊本県はこれまで、南北に連なる軸で他県と強く結ばれており、九州新幹線の開通でその繋がりはさらに強まりました。これに加えて現在は、熊本県と大分県を結ぶ中九州横断道路や、熊本県と宮崎県を結ぶ九州中央自動車道の延伸工事が進んでおり、東西軸の強化が図られているのです。今年7月には、大分県、宮崎県の両知事とともに、「九州東西軸強化」の働きかけを中央政界や中央省庁に行いました。九州東西軸には、将来に想定される南海トラフ地震の避難路、いわば「命の道」という意味合いのほか、このTSMC進出の経済効果を波及させる「経済の道」としての役割も期待されています。これが実現した暁には、熊本県は東西と南北の軸を結ぶ、まさに「九州の結節点」と呼ぶに相応しい存在になります。それぞれの県と同様、熊本県としても独自の存在感を発揮しながらも、さまざまな分野で各県との連携の中核を担っていく覚悟です。

多くの県民がチャレンジし、成功できる機会を提供したい

―現在、次期基本方針・総合戦略の策定を準備していますが、どのような方針で進めていますか。

 県民のみなさまの多様な声を県政に反映させることを一番に考えています。そこで、次期基本方針策定のためのワーキンググループには、各業界を牽引する多くの若手人材に参画してもらい、従来にはない人選による多様な意見を取り込んでいます。

 また、県政運営において、県内市町村との連携のもと地域ごとの個性ある経済振興を推進し、実現すべき地域の未来像を議論するための「地域未来創造会議」の設置に向け、準備を進めています。当県には、産業や環境、資源などそれぞれに特色を持つ地域が存在します。その各地域を支える多様な人々がそれぞれの分野で活躍し、成功するためのチャレンジができる機会をつかめる。そうした地域づくりを県として後押ししていきたいと考えています。

 幸いなことに、当県には「くまモン」という圧倒的な存在感を持つ「営業部長兼しあわせ部長」が存在します。人々の活躍を「くまモン」を通じて熊本県と紐づけながら、広く内外にアピールしていく。そうした仕掛けや環境を整えていく、「県民のプロデューサー」でありたいと私自身も願っています。

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