「書かせない」「移動させない」「待たせない」を目指した申請書の電子化へ
2019年1月15日に新庁舎へ移転した渋谷区役所は、これを機にICTを活用した区民サービスの向上と職員の働き方改革を実現すべく、 新庁舎プロジェクトを進めてきました。
その一環として取り組んだのが住民戸籍課における窓口業務の改善です。 これまで住民は転入・転出・出生などの届出を行う際に、 関連する複数の書類に同じような項目を何度も記入しなければなりませんでした。
また、手続きの窓口が分散しており移動に手間がかかるほか、 窓口での手続きも長時間化していました。 渋谷区 区民部 住民戸籍課長の佐藤 浩行氏は、「こうした住民の負担を軽減するため、『書かせない』『移動させない』『待たせない』という目標を掲げ、 申請書の電子化(ペーパーレス化)によるワンストップ窓口を目指しました」と話します。
液晶ペンタブレット上で電子的にサインするだけで手続きが完了
課題解決をもたらしたのは、 ワコムのパートナー会社と一緒に構築した住民異動受付支援システム
です。住民が持参した転出証明書をOCRで読み込みテキストデータ化することで、書かせることなく
システム上で住民異動届を作成します。
住民は、 ワコムの液晶ペンタブレット「DTH-1320」上でその届出内容を確認し、 電子的にサインするだけで手続きが完了するのです。 また、 住民異動届と同時に住民票の写しの申請などがあった際、 基本項目である氏名・住所などは自動で印字できるようになったため、 同じことを何度も書かせることが解消されました。
合計33台導入された液晶ペンタブレットは本庁舎や渋谷ヒカリエの区民サービスセンターをはじめ、 区内各所の出張所にも分散配備され、2019年(1月15日~12月27日)の1年間で、転入5,513件、転出3,488件、転居1,559件の住民異動届をペーパーレスで処理しました。もともとグラフィックスデザインの分野でも用いられてきたワコムの筆圧感知ペンならでは、 あたかも紙に書くような滑らかな書き心地を再現しています。高齢の住民も違和感をもつことなく電子的にサインを行っており、「とても便利になった」と好評を得ています。
窓口において住民と職員の様々な会話の機会を拡大
液晶ペンタブレットを活用した住民異動受付支援システムによるペーパーレス化は、これまで職員が手書きされた各届出書類の確認や修正、仕分け、 保管など時間を要した煩雑な手間を解消しました。 現時点での届出件数などの統計情報も簡単かつ即時に出力することができます。 佐藤氏は、「こうした業務効率化の効果をコスト換算すれば、 今回のシステム投資は十分に回収できています」と話します。
一方で液晶ペンタブレットは、 住民と職員との間のコミュニケーションを活性化させるという効果ももたらしています。 これまで住民は記載台で書類に記入して窓口に提出するだけで、職員と会話を交わすことはほとんどありませんでしたが、 電子サインは住民と職員が顔を向かい合わせながら行います。
渋谷区 区民部 住民戸籍課 住民登録係 主任の野田 さつき氏は、「電子サインをきっかけに、窓口において住民の皆さまと様々な会話を行う機会を増やすことができました」と話します。
渋谷らしさを前面に打ち出したICT戦略のもとでシステムの利用拡大
渋谷区では「職員にパワーを」「区民とつながる」「業務を最適化」「サービスを変革」を基本とするICT戦略を推進しており、 渋谷区 経営企画部 ICT戦略課長の伊橋 雄大氏は「今後もこの延長線上で“渋谷らしさ”を前面に打ち出した、多様なシステムの活用拡大に臨んでいきます」という方針を示しています。
住民異動受付支援システムでは、転入であれば、転出証明書に必要事項が網羅されているので、OCR処理により、データ化されますが、転出・転居の新住所は、現在、聞き取りの上、入力しています。今後は、新住所をタブレット上でタッチペンにより選択しながら、届出書を作成するなど、手間をさらになくしていこうとしています。
また、将来的には住民異動受付支援システムと住民情報システムとのデータ連携を実現し、 住民票の作成入力業務を軽減します。さらに、 住所の異動のタイミングによらずいつでも住民票や印鑑証明の申請書に対応できるようにするという計画もあり、 住民サービスのより一層の向上を目指しています。